第609話 今夜は寝かさないぞ!
明るく温かなオレンジの光が窓から漏れる。
『解放軍』本部となる建物は二階建てに造られており、飛行部隊の参加も手早く出来るように会議室は二階に設けられていた。
現在、中には総司令のガイエンが奥の上座に立ち、スティリナは近くの木箱に乗った器材をいじり、サリアは窓際から死角になる位置に立つ。
他には『鳥翼族』『鷹』の男が壁に寄りかかって腕を組んでいた。
「フリード君、本部の警護をありがとう」
「当番が俺らの部隊だったってだけです。ローテーション通りなのでお気になさらず」
『鷹』の男――フリードはガイエンにも負けず劣らずの体躯を持つ男だった。
「スティリナ。フォルネラ君との通信は?」
「ちょっと待ってねー」
機器をカチャカチャと起動するスティリナは、ダイヤルをいじりながらノイズを調整。安定した様子に設定すると繋がっているマイクを取って口を当てる。
「あー、テステス。聞こえてる? クラリッサー、ナムタイー、ベルンー」
『聞こえていますよ、スティリナ』
帰ってきたのは落ち着いた雰囲気の女声だった。スティリナはマイクをオフにして、機器を部屋の真ん中の木箱に置くと全員が聞けるようにスピーカーに切り替える。
「クラリッサ君、フォルネラ君は?」
『総司令。若は今……ここ――南拠点には居ません』
「どこへ?」
『ナムタイと一緒に『クイーン』の『戦城』様子を注視しに行きました。『スケアクロウ』の爆撃による被害は思った以上でして……今、南拠点では物資の移動と退却を始めています』
「では、今南拠点に居る『遊撃部隊』は貴女とベルン君だけですか?」
『はい。殿を努める予定です。『クイーン』に飼われている『氷嵐鳥』も妙な動きを見せていますし』
「ふむ。その件に関しては貴女達の判断を私の命令として正式に認めます。何よりも人員の生存を優先し退却してください」
『了解です』
「それと通信はそのままに。こちらから皆に照らし合わせる事がありますので」
『わかりました。ああ! ベルン! ソレを勝手に食べてはダメですよ!』
『リサ姉……お腹空いたんだけど……』
『もう少し我慢して。こっちのチョコレートは食べて良いから』
そんな様子にガイエンは一度、やれやれ、と嘆息を吐いてから本題に入る。
「此度は北東地域における広域兵器『天元』を私、サリアさん、クロエ殿、他『解放軍』の隊員と共に起動しました。その結果、敵の『魔騎兵』約500を完全に殲滅する戦果を上げた事を通達します」
「『魔騎兵』500……『キング』の勢力ですよね?」
「そうよ。奴が『オベリスク』に攻め込む為に蓄えてた戦力の半数を大地の染みにしてやったわ」
おっかねぇ。と、フリードはサリアの物言いに肩をすくめる。
「いやぁ! 実に惜しいなぁ! 本当にこの眼で見れなくて……惜しいなぁ! なぁ! ガイエン!」
「……わかった、わかった。後で義足を整備してくれて良い」
「うほ! アステス産の義足ちゃぁん……今夜は寝かさないぞ!」
「はいはい、夫婦漫才は後にしなさい。今回の件であたしから進言したい事があるわ」
サリアの次の言葉を全員が注目する。
「現時点で『キング』の機動力である『魔騎兵』を削いだ。このまま三日以内に『クイーン』を仕留めに行きたい」
『サリアさん、それに関しましては情報の更新が必要です』
クラリッサの声が響く。
今現在、『クイーン』に最も近い位置にいる『遊撃部隊』でも状況を把握している最中だった。
『スケアクロウ』による爆撃。それに伴う『クイーン』と『解放軍』の被害は丸一日経った今でも正確な精査が出来ていない。
「今まで慎重になる必要があったのは、戦力が足りなかったからでしょ? 爆撃前の時点で『クイーン』の“戦塔”は全部で五つ。内一つは『スケアクロウ』が吹き飛ばした。それで残りは四つ」
「内部には奴らが“家畜”として捕まえているヒト達も多く居る。サリアさん、彼らを見捨てる選択を?」
「それに、『戦城』一つに構ってたら他から援軍が来るし、奴らは“肉の盾”も使いますよ?」
スティリナとフリードの言葉にサリアは指を四本立てて告げる。
「四面へ同時に攻撃を仕掛けるわ。捕まってるヒトの救出も同時に行うわよ」
その宣言に全員が目を見張る。サリアは続けた。
「今までは、どこか一つに攻撃を仕掛けても手が出せなかった。その結果、身内を人質に取られたメンバーが離反したり、『ゴースト』の手先になってこっちに剣を向けてきたわ」
「…………」
ガイエンは父が殺された時の事を思い出す。
「奴らはこっちが攻めて来れないってナメてるのよ。そして、その驕りは今も続いてる」
「って事は……『スケアクロウ』の爆撃で『クイーン』が混乱している隙にそのまま首を落とすって事ですかい?」
フリードはサリアの意図を口にして確認する。
「そうよ。『キング』の勢力も『魔騎兵』を失って混乱状態。こっちに攻め入る考えは今日明日では持てないわ」
「つまり、今の内は『クイーン』に全戦力を投入できる……と?」
「ええ。十中八九ね」
ガイエンは顎に手を当てて、ふむ……と思考する。
「『クイーン』の“戦城”の内部情報は未知数のままだけど、正直現時点でソレはあまり気にしなくていい。こっちはそれ以上の戦力が来てる」
「サリアさん、それは……クロエの事を言っているのかい?」
スティリナは新たに『解放軍』へやってきたクロエがサリアをここまで言わしめるキーマンになっていると尋ねた。
「ええ。ガイエン、アンタは間近で見たでしょ?」
「…………」
ガイエンは『魔騎兵』500の突撃から『氷壁』を護りきったクロエとの戦線を思い出す。
「もし、この作戦を採用するならあたしとクロエで『クイーン』の“戦城”に攻め込んでヤツを殺るわ」
皆がガイエンを見る。しかし、即答は出来そうになかった。
「まぁ……この場で即答出来ない事は分かってるから検討してみて。あたしの提案は選択肢の一つよ。どんな決定でも『狙撃部隊』はアンタの判断に従うから」




