第608話 基本的にオーダーメイドなので
「君の事を隅々まで暴きたい所だが、ここは寒いし今は会議が優先だ」
「寒い事に関しては前を閉めれば良いんじゃない?」
「デカ過ぎて自分のジャケットじゃないと上まで閉まらないんだ。服もこんなモノじゃないとサイズが無くてね。地下は暑いし。クロエも服のサイズには苦労しているじゃないかい?」
「私は基本的にオーダーメイドなので」
「そうなのかい? ツテがあるなら教えて欲しいものだね」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ、次の機会に。サリアさんじゃ、こう言う話は何となくタブーな感じがしてさ(小声)」
「ふふ」
じゃまた後で。そう言ってスティリナは、うー寒み寒み、と呟きながらガイエンの防寒着のポケットに手を突っ込むと早足に去って行った。
「好奇心が強い人ね。裏は無さそう」
彼女の視線は興味本位が大半の様だ。何処となくクロウを思い出す。
でも、他の視線は少し猜疑心があるわね。
彼女が去ると、物珍しい視線が更に多く向けられる。その中でこちらへ近づいてくるモノを感じ取った。
「【水面剣士】……く、クロエ様!」
この声は……確かウルスと言う『熊』の女の子ね。
「貴女は、ウルスだったかしら?」
「は、はい! ガイエン様より……案内を申しつかりました、ウルスです!」
声質的には10代前半くらい。身長もそれに準じて居るとなると……子供ね。
「クロエ・ヴォンガルフです。よろしく」
「よ、よろしくです! て、では! 地下居住区へご案内します!」
「ええ。お願い」
ウルスが案内した事で少しは視線が減ったけれど、幾つか品定めの意図で向けてくる視線が多々……
歩きながら周囲の声も収集する。
“今、ウルスは【水面剣士】って言ったか?”
“『ナイトパレス』の『ロイヤルガード』にも【水面剣士】って居たよな……?”
“戦争で死んだって聞いたぜ?”
“マジで目が見えてねぇのか?”
“お母さん、お腹すいたー”
“補給が更に細くなってるなぁ……新しい【夜王】はこっちの事を気にかけてくれるのかねぇ……”
“『太陽の里』からの返事はまだか?”
“それよりも『天空の国』だろ。教祖が世代交代してからふざけた事ばかり抜かしやがるぜ、アイツら……”
“あーあ……『永遠の国』が昨日みたいに『ゴースト』を全部吹っ飛ばしてくれねぇかなぁ”
皆が、ガイエンさんやサリアの様な様子はなく、かなりの温度差がある。『氷壁』の絶対的な安全性が生み出す緩い空気が原因ね。
確かにガイエンさんの事情を知らなければ、自分達から戦いに出る意味は無い……か。
「クロエ様! ここから階段なので滑らない様に気をつけてください!」
ウルスの声に意識を正面に集中する。
地下へ続く緩やかな階段であるが、雪も少し積もっている様だ。
「ありがとう、ウルス。私の事を“様”づけする必要は無いわ」
「ええ?! でも……お客様ですし……」
「ガイエンさんもそうしてくれるし、ウルスも彼に倣ってくれると気が楽よ」
「わ、わかりました。クロエ……さん?」
「ええ、その調子でこれからもお願い」
ウルスが、ぱぁ! と明るく笑顔を作る様子を感じる。私は階段を降り、緊張が無くなった彼女の後に続いた。
それなりの段数を降りきると不思議と暖かさを感じた。それどころか微風として暖風が地下を流れている?
「ふー。あ、クロエさんも暑かったら脱いで構いませんからね」
「その時は遠慮なく脱ぐわ」
レンガ造りの地面。天井にはパイプやらが張っており、熱源はそこから来ている様だ。
「よう、ウルス。初陣はどうだった?」
「なんか、北東地域で凄い事になったって聞いたぜ?」
「うお?! 誰だ? このナイスバディの姉ちゃんは?!」
通りすがりに気さくなに話しかけてくる様子から『解放軍』の面々だろう。男が三人。『人族』一人、『獣族』二人。
「北東地域の件は、後にガイエン様からご説明があると思います。それと、こちらの方は【水面剣士】のクロエさんです! ガイエン様のお客様でして……」
「【水面剣士】……どっかで聞いたなぁ……」
「ほら、あれだろ? 新しい『ロイヤルガード』」
「おお、それそれ。確か、ベクトランを始末して無理やり『ロイヤルガード』の席に座った、めっちゃ美女って……」
三人の視線が向けられ、ニコ、と微笑む。
「【水面剣士】のクロエ・ヴォンガルフです。一つ訂正するのなら、私はベクトランを殺してはいないわ」
「なんだ。それじゃただの噂――」
「心臓を貫く前に彼は逃げちゃったの。後数センチだったのだけれどね。未熟な様がここまで広まってるなんて恥ずかしいわ」
「「「…………」」」
「まだ聞く?」
「「「ウルス、丁重に案内してやれ」」」
「え? あ、はいです!」
「ふふ」
再度、歩き出すと背後から三人の呟きが聞こえる。
“なんか……俺、寒気がしたんだけど……”
“アレはガチでヤバい女だ。前フリなしで……躊躇いなく殺りにくるタイプだぞ”
“総司令はどこからスカウトして来たんだ?”
平時でも危機察知能力が働き、情報収集の動きを自然と取る。彼らは戦線に何度か出たことのある兵士ね。
「ある意味、戦時中だものね」
「? 何か言いました?」
「独り言よ。気にしないで」
後にスティリナとサリアから会議で行われた話を聞けるかしら?




