第607話 試験を受けてくれるだけで良い!
「スティリナの姉さん!」
「んー? どうしたー?」
「今の感じました?! 北東の……総司令とサリアさんが出向いた方角です!」
「メン坊がパーツを調達に行ったヤツか。サリアさんもアイツも迎えに行くなんてマメだね。子供のお使いじゃないだろうに」
「いや、多分『天元』を発動したみたいです!」
「はぁ?! なんだって?!」
「ヤバい事になってるって事ですよね……」
「ああ……大変な事だ! なんてことをしてくれたんだ! 『天元』を発動する時は私を連れて行く様に言っていたのにぃ!! ガイエンとサリアさんの嘘つき!」
「姉さん……? そんな場合じゃないんですよ! もしかしたら、総司令やサリアさんが……」
「うるさい! くそ! プロセスは解析していた……後は発動した所を見れば小型による再現は可能だったと言うのに……『永遠の国』の技術を私の手に出来たものを……ブツブツ」
「あの……姉さん?」
『スティリナ隊長』
「なんだ?! フリード!」
『総司令が帰ってきやしたよ。メントスの姿もあります』
「なぁにぃ!? 今すぐ行く! 私を抜きに『天元』を使った理由を説明してもらいにな!」
北東地域の『天元』発動は『オベリスク』首都でも把握している事態だった。
しかし、発動を感知しただけで理由や内容は把握していない。
本来なら『キング』の勢力が決戦として押し寄せてきた時に『天元』は使う予定だったハズが、急遽起動した事態は深刻な事が起こったのではないか? と『本部』では不安に駆られている。
「ガイエンさんだ! 無事だよ!」
「総司令ー!」
「サリア狙撃兵長ー!」
そんな中、滑車装置に括り付けたリフトから降りる者達にガイエンやサリアの姿を見つけて声を上げた。
援護に向おうと装備を整えていた兵士達は手を留めて駆け寄る。その様子をクロエは音で聴き取り把握していた。
「ヒトがかなり集まってるわね」
「首都には兵士達の家族も一緒に住んでるわ。土地は余ってるからね」
「それにしても多く集まり過ぎてる様に感じるわ。英雄の凱旋にしては早すぎるんじゃない?」
「『天元』の発動はかなりの急務だったからよ。本来なら決戦兵器だから、他の隊長と相談無しに使ったこと自体がイレギュラーなの」
「クロエ様、すぐに貴女様のお部屋を用意いたします」
「ガイエンさん、“様”づけは必要ないわ」
先程の、気を使わなくて良い、と言う事をクロエは微笑みながら示唆する。
「失礼。ではクロエ殿、部下に命じて部屋を充てがわせてもらいます。サリアさんと近い部屋で良いでしょうか?」
「任せるわ」
リフトが地面に着き、ガイエンが先に歩き出すと部下が駆け寄ってくる。
メントスを迎えにガイエンとサリアが連れて数人だけで向かった事もあって、『本部』では彼らの帰還と情報を待ちわびていた。
「総司令、北東地域で何があったんです!?」
「メントスは帰還したのですか!?」
「目的の物は!?」
「あの女は……【水面剣士】ですか? どう言う経緯で一緒に?」
「ここでは落ち着いて話せない。本部で全て説明します」
「ガイエン!」
乱れるような声をかき分ける様に通り抜けた声が全てを黙らせて道を空けさせる。
ズンズン、と肩を張って歩いてくるのは『獣族』『狼』の女であるが、極寒にも関わらず何故かタンクトップ姿だった。
「スティリナ……また、そんな格好で外に……」
「寒い! 君の防寒具を寄越せ!」
ガイエンは、やれやれ、と嘆息を吐くと上着を脱いで差し出した。
スティリナは、いそいそと大き目の上着を着ると腕を胸の下で組んで、ふんす、と鼻息を鳴らす。
「よし! さぁ、説明責任をしてもらおうか!」
「……『天元』の件か?」
「そうとも! 皆が君たちの情報を求めている! 特に私は! 絶望している……」
「これから会議室に行って起こった事を全て離すつもりだ。良ければ君も来ると良い」
「私が断ると思うか?! 来るなと言っても行くぞ!」
「そうしてくれると助かる。君は毎回、会議には出ないからね」
そう言って、ガイエンは集まっていた部下や市民達に解散する様に告げて歩いていく。
そんなガイエンへ、ガルル! 視線を向けていたスティリナは次に――
「サリアさん!」
「ただいま」
「おかえり! 嘘つき!」
「緊急事態よ。これに懲りたらバカみたいに設計室に籠もってないで少しは現場に来なさい」
「ぐぬぬ……」
ド正論なのか、スティリナは追い抜いていくサリアの背中に、ぐぬぬとしていると――
「ん? 君は――」
「クロエ・ヴォンガルフです」
クロエに気づく。視線を向けられたクロエは丁寧に自己紹介を行った。
「私はスティリナ・ヒュノスティエラだ。あの義足男の妻をしている」
「サリアから聞いています」
「サリア……か。彼女をそう呼べる者は『解放軍』には居ない。と、なれば、君は『星の探索者』だね?」
「私達の事を?」
「サリアさんとボルックに聞いたんだよ。私は元は『永遠の国』の患者でね。そこで両脚を改造しに来た夫と出会ったワケだ」
「素敵ですね」
「まぁ、私は直ってからも『永遠の国』に居座ろうとして追い出されてしまったけどね。帰る家もないし、ガイエンとの出会いは渡りに船だったよ」
と、スティリナはクロエをじっと見る。
二人は同じくらいの高身長であり、スタイルも似通っていた。
「ふむ。クロエさん」
「クロエで結構ですよ」
「では、クロエ。君は眼が見えていないのだろう? 代わりに音で周りを把握している。それもかなりの高精度だ。違うかな?」
「――わかりますか?」
「まぁね。私はヒトを観察するのが好きなのだ。特に不可解な現象や技量は私でも再現できるかどうかを理論的に詰めたくなる」
「…………」
「そこで、クロエ。君のケタ外れな感知能力を調べさせてくれないか? なに、今思いつくだけで320通りの試験を受けてくれるだけで良い!」
「ふふ、お断りします」
クロエは面倒な事になると察し、やんわり微笑みながら断った。




