第605話 外様のクセに
「……無様な死に方じゃ」
レイヴンは『天元』が発動した戦場跡を飛行しながら残党が残っていないかを確認していた。
動く存在どころか、シミの様な跡しか確認できず、生き物の気配も全く感じない。すると遠巻きに『魔騎兵』数騎を見つけた。
『音魔法』の改良した魔石を口元に当てる。
「ボス、敵が残っとりますわ。伝令兵だと思います。今なら仕留められますが」
『いえ、彼らは逃がしてください。『魔騎兵』の全滅を敵に伝えさせなければなりません』
「了解」
レイヴンは退却して行く『魔騎兵』を気だるそうな目で一瞥しつつ、翼を翻す。
「はぁ……しんど……」
「『天元』は不発だったわ」
レイヴンが確認を行う間、『氷壁』の上部では撤収作業を開始していた。
定期的な見張りを残し、『氷壁』上部から今回の作戦の為に集めた物資と隊員は移動を始める。
「そうなの?」
「本来は上と下の魔法陣から同時に重力波が出て、間で押し潰すのよ。さっきのは持ち上げる重力波は出たけど、その後は上からの重力波しか出てなかったわ」
サリアは広げた地図を丸めるように片付ける。
クロエとしてはそれだけでも『魔騎兵』を400騎以上を一気に殲滅できた様子は、十分過ぎるのではないかと思っていた。
「地面を揺らすと大地を傷つけます。『永遠の国』としては、それは望まないことですから」
メントスはサリアから地図を受け取り、彼は頼んでいた部品を手渡した。
「『天元』は『永遠の国』から提供された兵器なのね?」
「僕はそう聞いてます」
「地面に“重さ”を押し付けた事で魔法陣も崩れたから『天元』は完全に使えなくなったわ」
本来なら魔力の確保さえ出来ていれば何度でも発動が出来る広域兵器なのだ。使用タイミングはベストだったとは言え、『解放軍』は切り札の一つを失った事になる。
「ブラフとして『ゴースト』に刷り込むには十分かと」
コツ、と義足を鳴らしてガイエンは現れると胸に手を当ててクロエに一礼する。
「クロエ様。此度はご助力いただき、本当にありがとうございました」
「気にしないで。と、言っても貴方は気にするのでしょうね」
「この命と『解放軍』が救われた事に対し、傍若無人で居るつもりはございません。クロエ様が望む形で我々に迎えさせて頂きます。ご要望をどうぞ」
「それじゃ、さっそく一つ良いかしら?」
「なんなりと」
ガイエンは丁寧な物腰で佇むとクロエの提案を待つ。
「私の扱いは他の人と同じで良いわ。変に気を使われる方がかえって嫌なの」
「しかし……」
「私の“望む形”を叶えてくれるのよね?」
そう微笑むクロエにガイエンも返すように微笑を浮かべる。
「わかりました。『解放軍』の者たちにはそう伝え、貴女様を他の者たちと同じ様に致しましょう」
「ガイエン、そこに注意事項を一つ加えておきなさい」
「サリアさん? 何か気をつける事でも?」
「クロエに手を出した際に、何が起こっても自己責任よ」
「? わかりました」
ガイエンは頭に、? を浮かべつつ一礼すると、部隊の退却と今後の指示を出しに席を外した。
メントスは壊された滑車装置の修復に必要な人材と材料の割り出しに向かう。
「サリア、そんな気を使わなくて良いのよ?」
「『解放軍』はガイエンみたいなヤツばかりじゃないわ。ハグレ者や流れ着いた傭兵みたいなヤツも居る。問題行動を起こすヤツも少なくないわ」
「『ターミナル』みたいな所かしら?」
「あそこよりはマイルドだけど……まぁ、信用するヒトは絞った方が気が楽ってこと」
サリアは少し疲れるように息を吐く。その様子を感じたクロエは、ふふ、と微笑んだ。
自分と『解放軍』に変な摩擦が生まれない様に助言をくれたのだろう。
「随分と『解放軍』に思い入れがあるのね」
「50年もいると、嫌でもそうなるわ」
「ここに残りたい?」
「んなわけ無いでしょ。あたしの家は『星の探索者』よ。アンタもそうでしょ?」
サリアの問いにクロエも間を置かずに答える。
「ええ。『ゴースト』の件は皆が来るまでに片付けておきましょう」
「『永遠の国』に……『ゴルド王国』……どっちも一筋縄じゃ行かない事案だけど……」
「少なくとも、今現在で一番脅威が少ないのは『オベリスク』よ」
昨日起こった『永遠の国』による爆撃(オベリスクの東北に運ばれたモノ)と、先程の『戦城』の破壊。そして、『天元』による『魔騎兵』の壊滅。
『ゴースト』の戦力は著しく低下していると見て良いだろう。
「……相変わらず、ローハンとは仲が良いのね。【夜王】との戦争で何かあった?」
「ええ。彼は相変わらずよ」
「ふーん……外様のクセに今度は見捨てずに留まってくれた様でなによりだわ」
ローハンが『星の探索者』を脱退した時の一件をサリアはまだ根に持っている事が解る口調にクロエは何度目か分からない程に、ふふ、と微笑んだ。
「サリア、ローハンが居なかったら私達は合流出来なかったわ」
「………………………………」
「ね?」
「あー、はいはい。はいはいはいはい。そーですねー」
認めたくないが、認めざる得ない状況を無理やり納得させるようにサリアは投げ槍にそう言うと歩いて行く。
するとサリアは注目してくる周りの視線に気が付いた。
「何見てんのよアンタ達……さっさと撤収作業を終わらせなさい!」
『音魔法』で怒りに混じった指示を拡散させると、面々は慌てて作業を再開した。
「ふふふ」
そんな、彼女の背中にクロエは微笑みをながら後に続く。
二人は『氷壁』上部を移動する馬車の最寄所へ向かった。




