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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第600話記念外伝31『宇宙の彼方へ』アクセル

 『第8補給路戦線』における戦後報告――


 『星の揺り籠』の元上僧――タンワが【マッドジャック】を使用し、引き起こした一連のテロ行為は、現地に集結した『星間保安連合軍』『星の揺り籠』『宇宙海賊』によって鎮圧された。

 【マッドジャック】が機能停止した後に『補給ステーション』に立て籠もっていたタンワ派は抵抗すること無く人質を解放し、自ら投降。


 上僧――リーフォンの報告では首謀者であるタンワの死に加え、【ダークブルー】の起こした奇跡を目の当たりにし自分達の過ちに気付いた事で無抵抗になったとの事。彼らの進退は『星の揺り籠』で引き受ける形となる。


 生存者は2430人。死者に関してはまだ正確な数字は出ていないが、餓死者も含めると500人以上と推測される。

 今現在でも行方不明者の捜索は継続中。


 技術母艦『エンス』より出撃した【コールマン】が率いる【ソルジャー】小隊に関しても、残骸となった機体のみが回収されるも、パイロットはトリエル・レイヤー中尉を残し、全員が行方不明。

 【ダークブルー】が【コールマン】と【ソルジャー】に付与したとされる機体技術の回収はほぼ不可能であり、搭乗していたパイロットも居ないことから詳細なデータの収集は困難。【ダークブルー】に関しても同様である。


 トリエル中尉の事情聴取において、彼女はこう語っている。


“【ダークブルー】は宇宙(そら)の彼方へ還った。戦いを終えた人たちが家に還る様に、彼にも還るべき場所と待っている“家族”が居る。人類が見るべきはもう“彼”の背中ではない”






 『第8補給路戦線』より一ヶ月後……


「頭が痛い報告だな」


 『星間保安連合』軍事総監督プライマス・ドットールは本部執務室にて、その報告に目を通しつつそんな言葉を漏らした。


『プライマルはんの気持ちもわかるわ〜。ウチも今、死ぬほど忙しくてなぁ。なにせ、減るモンは減って、実益を得た奴は誰も居らんかったさかい』


 リーフォンは少し疲れた声でプライマルと非公式の遠隔通信を行ない、今回の件を改めて詰め直していた。


「『星の揺り籠』はそうでも無いだろう? 【ダークブルー】の起こした最後の奇跡は、信者を増やすには良いプロパガンダになったハズだ」

『そう言う、『星間保安連合』もそうとちゃうか? 『宇宙海賊ゾーマ』総督のバルバロッサとの協定は今回の件がキッカケやろ?』

「繋いだのはそちらだが?」

『ウチは場を用意しただけや』


 あの戦いの後、バルバロッサは『星間保安連合』へ『ゾーマ』を“公的星間組織”としての認可を求めたのだ。

 補給路と『補給ステーション』の使用を一部譲歩してもらう代わりに、『ゾーマ』は『星間保安連合』の手の届かない箇所へと根を張り巡らせ、秩序を担う。

 ソレを公的に認めて貰う事が出来れば、『宇宙海賊』を一つにまとめ、人類の分裂を一つに戻すことになるのではないか? と提案された。


 【マッドジャック】の一件から互いに背後を狙い合っているだけじゃ消耗するだけだと深く理解した上での協定であるが『エンダー政府』は未だに回答を保留にしている。


「『宇宙海賊』と『エンダー政府』には簡単には埋まらない溝がある。それに条件が釣り合っていない」

『客観的に見てウチも人類が仲違いしてる場合や無いんと思うけどなぁ』

「最終的に【マッドジャック】を破壊したのは『星間保安連合軍』だ。『ゾーマ』は勝手に横槍を入れてきただけ……と言うのが『政府』の判断だ」

『やっぱり、そうなるかぁ……ならウチが送った情報を見て、上に提出してくれへん?』

「情報だと?」

『今日、包み届いたやろ?』


 プライマルは午前中に来ていた手紙の中に、一つだけ厚みのある包みを見つける。

 中を開けると、入っていたのは一つのUSBメモリーだった。


「これか?」

『それや、それ。ソレを見たら人類が仲違いしてる場合じゃ無くなるで』


 プライマルはPCにUSBメモリーを差し込むと、中のデータを開く。そして、ファイルを読み進めて行くと……


「――――これはどう言う事だ?」

『【マッドジャック】のメイン端末を調べたら出てきたんや。タンワがこの事を知っとったらあそこまでの凶行は起こさんかったやろなぁ。いやはや、【ダークブルー】はんはウチらが【マッドジャック】を解析する事も全部お見通しやったみたいや』

「この情報は……確かなのか?」

『その環境情報を確かめるには、『エンダー』に降りて見ぃひんと行かんやろな』


 ソレは……母星『エンダー』が再び動き出し、電磁波に覆った暗雲の下に再び人の住める環境が出来上がっている……と言う【ダークブルー】の調査記録だった。






 三年後――


 ピピピピ!


「…………」


 眠気を強制的に吹き飛ばす目覚ましの音にベッドの掛け布団がもぞもぞと動くと、そこから伸びるしなやかな手がアラームの音を叩いて止める。


 そして、手の主はアラームを止めた状態で停止し再び、ZZZ……と眠り始めた。

 それから数分後――寝室の扉がバンッ! と開く。


「いつまでベッドに籠もってるつもり……で・す・か!!」


 寝室に入ってきたエプロン姿の少女が、布団を剥ぎ取るとうつ伏せで二度寝しているトリエルへ叫ぶ。

 トリエルはキャミソールにショートパンツと言う薄着姿で眠っており、近くには着られなかったパジャマが散乱していた。


「トリエル姉さま! 寝汗を掻くとシーツが汚れるから、パジャマは着てって言いましたよね?!」

「……そうだっけ?」

「そうです! もー!」


 気だるそうに目を空けてのそりと起き上がるトリエルは寝ぼけ眼で目の前の少女を見る。

 全くもぅ……とエプロン少女はパジャマを拾い上げていると、トリエルは欠伸をしながら眼鏡をかけてベッドから立ち上がる。

 そしてエプロン少女の頭を優しく撫で、


「おはよう、ドゥリム」

「……おはようです。トリエル姉さま」


 ドゥリムはまだ言い足りなかったが、優しい手と微笑みにそれ以上は言えずに、トリエルの背に続いた。






 三年後前――『第8補給路戦線』終結後、トリエルとトレインは【マッドジャック】に居た五人の子供たちを引き取った。

 最初は『星の揺り籠』が保護すると提案してきたが、子供たちの強い希望により二人が預かる事になったのである。


 一ヶ月ほどは技術母艦『エンス』で保護していたが、トリエルとトレインが退役した事で共に『デブリ54』で生活する事になった。


 トリエルは幾つかの組織に“渡り”をつける為にフリーのパイロットとして動き、トレインは機体の整備や機器の回収で生計を立て始めた。

 軍属の頃から無欲に近かった二人は蓄えも十分にあり、トレインに関しては幾つかの技術特許も持っていた為、子供五人を成人まで育てるには十分な資産を持っていたが、それ以上に二人には“やる事”が出来ていたのだ。


 その為に必要な人脈や関係を広げつつ資金を集め、着々と準備を進める事……三年。そして――


「そんじゃ、レイヤー家の会議を始めるぞ。皆時間も限られてるだろうから、単刀直入にこっちの進捗を報告する」


 朝食を終えた『デブリ54』のセントラルルームでトレインの声が通る。

 場には四人しか居ないが、遠隔からのバーチャルモニターにより“三ヶ所”とリアルタイムで繋がっている。


「進捗は昨日の時点で100%になった。よって俺たちはいつでも出発できる状況にある」


 説明をするトレインは、購入した中型輸送船データを出し、必要な状況は全て揃った事を明言した。


「アンルイ、トワト、キャトクル。帰ってくるなら俺たちはお前たちを待つ。一週間以内に連絡をくれ」

『トレイン兄ちゃん、ホントに……兄ちゃん達は出発するの?』

「ああ」


 遠隔通信のアンルイからの質問にトレインは迷いなくそう返した。その様子を場にいるドゥリムとサクウェルは黙って聞き入る。


 かつて、【マッドジャック】のパーツだった“子供たち”は今や、各々の道を進んでいた。


 アンルイは軍人になる為に、ドットール家に住み込みで教授を受けている。

 ドゥリムは『デブリ54』でレイヤー家の家計や家事などを担い、裏から支えていた。

 トワトは『陣誅』の門下生になり、日々己の腕前を磨いている。

 キャトクルは“星間公的組織”となった『ゾーマ』の『コーチカ』で見習いをやっており猫達に好かれていた。

 サクウェルはトレインの補佐に就いて整備の技術を学んでいる。


「私とトレインは貴方たちの行く道を決して止めない」


 トリエルの声が場に通る。


「アンルイ、ドゥリム、トワト、キャトクル、サクウェル。あなた達は私とトレインの家族よ。そして、自分達の意思で歩き出してくれた事を誇りに思うわ」

『姉ちゃん……』

「……姉さま」

(ねぇ)……』

『うう……』

「……」


 トリエルは五人を安心させる笑みを作る。


「これは私とトレインの我儘なの。恐らく、十年は戻ってこれない。だからあなた達は自分の道を曲げてまで着いてくる必要はないわ」


 だから――とトリエルは皆に告げる。


「自分の思う道を――“可能性”を信じて進み続けて。私とトレインも必ず、家族の待つ『デブリ54』に帰って来るわ」






『姉ちゃんはああ言ってたけど……』

「みんな、あたしは姉さま、兄さまと行くわ」

『ドゥリム……』

『……わたしは『コーチカ』に残るよ』

「キャトちゃん……はそうなんだね」

『サクは?』

「ぼくは……トレイン兄さん達と行く。トワトは?」

『ボクは……『陣誅』でまだ鍛えるよ。このまま姉さんと兄さんと一緒に行っても何も返せないから。アンルイは?』

『おれはスターリア様の所に残る! そんでもって……おれたちの野望を叶えるぞ!』

「野望って……『エンダー』にレイヤー家を建てる事だっけ?」

『そうだ! ソレを俺達が叶えて、姉ちゃんと兄ちゃん……そんでもって! 今度はおれたちが、“仮面の姉ちゃん”みたいに沢山の人を助けるんだ!』


 アンルイは更に続ける。


『だからコレは別れじゃない! 十年は……各々でステップアップの時間だ! 次に再会した時に、野望に少しでも近づけるように自分達を磨くんだ!』

「……アンタ、中々小難しい言葉を使うようになったわね」

『まぁ、ドゥリムの小言をぶつけられる姉ちゃんと兄ちゃんには同情するけどな!』

「なんですってぇ?!」


 相変わらずな、二人の様子に他の三人も笑い、各々で決意が固まった。


『それじゃ――』

「ええ――」

『ああ――』

『うん――』

「ん――」


 十年後にまたレイヤー家で揃おう!






 父さんの残したUSBメモリーに入っていたのは二つ。

 一つ目はとある惑星までの詳細な“宇宙観測データ”だった。

 星間における空間の摩擦や、時空の歪みによるポータルなどを全て計算して導き出した――正確な“宇宙地図”。

 その中でもたった一つの惑星へ向けて必要な物質や日数などが詳細に記録されていた。

 私とトレインは三年の時をかけて必要な準備を整えたのだ。


 この“宇宙地図”を私はリーフォン上僧に提出し見てもらった。政治的にも正しい判断が出来る人物は彼女だと思ったから。


 リーフォン上僧は“宇宙地図”を見た後に、こんなモンがあったらまた人類が割れるわ、と言って私達の旅を応援すると同時に目的を達成したら破棄する様にお願いしてきた。


 彼女曰く――人類は苦労する方が長生き出来る、との事らしい。


 スターリアやイザリア艦長。『エンス』の面々と、各所で頑張ってるし子供たちに直接挨拶を終えて――


「エンジン入った」

「外装の『ピース』も正常に動いてます!」

「感度も良好です。お姉さま」

「目標地点は惑星『ノーバディ』」


 “宇宙地図”に連動した渡航データを入力し、輸送船『アクセル』はゆっくりと動き出す。


 もう一つのデータ……“音声記録データ”の中身に関しては私は確認していない。これは私にではなく……父からあの子――トリエルへのメッセージだと思ったから。


「トリエルに伝えに行きましょう。父さんからのメッセージを」


 “可能性”は繋がっているんだと、トリエルに教える為に――






 炎が揺らぐ。

 ソレは世界の滅びに立ち向かう、一人の戦士の背中に宿る“戦炎”だった。


「スカーレット、場は作ったぞ。言っておくが……お前が負けたら俺たちはおしまいだ」

「私は負けん! それは、お前たちがよく知っているだろう?!」


 東から押し寄せる無限の絶望……その(あるじ)は揺らぐ陽炎の向こう側で笑う様に口元を歪ませて歩いてくる。

 しかし、スカーレットは煙と塵芥の舞う夜空を見上げた。


“君の先ほどの告白に関して現時点でワタシは正確な回答を出せる状態にはない。だが、ワタシの全てを解決した時にまた君に会いに来る。答えはその時でも構わないだろうか?”


 スカーレットは戦線を下がった戦士たちから『加護』を託された様に纏うと不敵に笑う。


「はっはっは! “東凶魔”よ! お前は運が悪いな! 今の私は……全く死ぬ気がしない!」


 ボルック、私は待っているぞ! お前が再び来た時にこの世界から悔いなく発てる様に……全ての清算は済ませておく!


「さぁ、最初で最後の死合と洒落込もう! 【極人武者】よ!」


 力と力がぶつかり合い、“可能性”を巡る戦いが時空の彼方では続く。

 ほんの僅かに交わった運命を再び迎えるために――






『…………また……別れてしまったか』

「……緊急避難としての措置だ。しかし、前のように互いに補填するにはマトリクスの消失が大き過ぎた。各々では現状維持も出来ない状態だ」


 私と“ワタシ”は膨大なエネルギーを時空間へ移動させる際に『ケミカルフィーバー』で他の時空への被害を抑え込んだ。

 しかし、その代償はマトリクスの消失を行わなければ不可能だったのである。


「このままでは自力で補填する事は不可能だ。間もなく迎える消滅は免れない」

『合理的に判断するのなら、そうなのだろうな』

「だが、そう在りたくはないのだろう?」

『死を恐れているのではない。ワタシが帰らぬ事で……約束を果たせない事が恐ろしいのだ』

「“ワタシ”よ、方法が無いわけではない」


 それ以上は言われずともわかった。

 残されたマトリクスも明滅する様に消え始める。もう時間は残されていない。


『“()”を犠牲にする事は出来ない。護るべき家族……それは君も含まれている。ソレを覆して生き延びた所で、ワタシは『星の探索者』と子供たちの前に立つ事は出来ない』

「……そうか。ならば問題は無いな」


 私は残り僅かなマトリクスを使い、再び再構築を始めた。残るべきはどちらなのか……迷う必要もない。


『――何をしている?』

「マトリクスを組み直している。世界と世界を繋いだ反動で削られたアルゴリズムは、消滅したのではない。時空の中――“可能性の海”に保全されたのだ」

『そうだ。だから今は……まさか――』

「私の残ったマトリクスの全てを“(ワタシ)”として確立すれば『ボルック』は再起動できるだろう」

『君が残るべきだ。ワタシは本来なら君――アクセル・エンディミオンから分かたれた存在。『ボルック』など最初から存在しなかったのだ』

「いや、もう『ボルック』は存在している。聞こえるハズだ」


“接続は完了した!”

“規格の解析にもう少しかかる!”

“この機器、前に市場の露店で見かけた事があるわ!”

“買いに行きましょう”

“姉ちゃん、サリアさん! 急ごう!”

“手分けして探しに()くぞ!”


「“(ボルック)”の“家族”が君を呼んでいる」

『それは……“()”にも言える事だ。ようやく、帰れるのだぞ?』

「私は消えるワケではなく“可能性の海”にて君を待つのだ。私の旅はここで一度止まり、バトンを『ボルック』に託すだけと言う事」

『だが……ワタシが君に辿り着ける保証は何も無い』

「進み続けろ。その先に“答え”が必ず見つかる」


 私は『アクセル』。その名の通りに“進み続ける者”。

 私はフォレストの言っていた“答え”を見つけた。次は『ボルック』……君が前に進むのだ。


 アルゴリズム再構築――

 マトリクス統合――

 個体識別名……ボルック――

 

『――っ! アクセル!』


 『セントラル端末』か『尾を呑み込む蛇』を探せ。 

 私は“可能性の海”で待っているぞ、我が兄弟(ボルック)よ――






 マトリクス……再構築……

 最低限の機能確立の為……

 惑星『ノーバディ』での記録……消去。

 惑星『エンダー』での記録……消去。

 『遺跡内部』での活動記録……一部消去。

 『ケミカルフィーバー』……再構築20%


 その他、マトリクス構築安定の為に必要な負荷を優先……消去……消去……消去……消去……消去……消去……消去――――


 ワタシの……ワタシの……名前は―――


「ボルック!」

「ボルック!」

「ボルックさん!」

「ボルック!」

「ボルック」

「ボルックよ!」


 モニターに顔が映る。

 認証……『星の探索者』……

 ワタシを覗き込むように表情や体温から()が“心配”している事がわかった。


『どうやら……ワタシは生き延びた様だな』


 その音声を皆が把握すると、全員が安堵の息を吐いて力を抜いた様だった。


「ボルック、どこまで覚えてるの?」


 ゼウス殿に言われて、己の記録(メモリー)を遡る。


 炎王継承戦……スカーレット……クルカント……【ダークブルー】……トリエル中尉……【マッドジャック】……


『……トリエル中尉の救助よりも【ダークブルー】への接触を優先しました。作戦はどうなったのですか?』

「……そう。安心して。戦いは無事に終わったわ。トリエル中尉も無事よ。貴方のおかげで多くの命が救われた」

「その後! エネルギータンクが爆発したんです!」

「マスターとあんたが何とかしてくれたのよ」

「あのエネルギーで“扉”を作ったのね。その勢いに流されて、私達は『遺跡』に戻ってきたの」

「ボルックよ! 凄まじい活躍であったぞ! ソナタが居なければ、某らはここには居らぬ!」(ドン!)


 皆はそう言ってくれるが……今のマトリクスには無理やり繋いだ様な痕跡がある。

 大きなモノ失った記録(ログ)として……穴が空いたような形で残っていた。

 ワタシは結局……何者なのか知ることは叶わなかったのか……


 すると、ゼウス殿がワタシの手を取って――


「ボルック、本当にありがとう。(わたくし)達を助けてくれて」


 微笑んでくれた。その言葉にマトリクスの欠けた部分が僅かながら構築された様に感じる。


『ゼウス殿。不躾ながらお願いがあるのですが』

「言ってみて」

『ワタシを『星の探索者』のメンバーに加えて貰えませんか?』


 その言葉を待ってたと言わんばかりに皆の様子は肯定的だったが、ゼウス殿は一人の人物に視線を向ける。


「ロー、貴方が決めて」

「…………」


 皆の視線がここまで無言のローハン殿へ向けられた。


「一つだけ条件がある」

『教えてくれ』

「返せない借りを作って『星の探索者』を脱退するな。それが条件だ」

『厳守事項に加えておこう』


 すると、ローハン殿は握手を求めるように手を差し出す。


「『星の探索者』へ。ようこそ兄弟」

『――ああ。これから、よろしく頼む』


 ワタシはその手を掴み、“家族”として迎えてくれた彼らと共に長い旅を歩む事にした。






『本当にマスターの姉君の捜索を切ってまでワタシの行き先を優先して良かったのか?』

「何度も言わせるなよ。クランメンバーの中に序列なんて無いのさ。それに、いつ当たるのか分からないモンを追いかけるより、先に確定してる事を詰める方が効率が良い」


 ボルックは『遺跡内部』から脱出して、四日後に再起動した。

 その後は、ボルックのチェックの為に一週間ほど滞在し、身体の維持に必要なモノを市場で集めて、現在は『魔導車輪車』で『遺跡都市』から遠ざかる。

 ちなみにシスター達にはちゃんと報酬を支払い、別れを告げた。


「悪かったな、ボルック。オレはお前の事を酷く誤解してた」

『『トワイライト』の件をマスターから聞いた。君がその様な警戒心を持つのは仕方のない事だっただろう。信頼は一朝一夕に築けるモノではない』

「そう言ってくれると幾分か気が楽になるぜ」

『今後はワタシもメンバーと他者との接触は気にかけよう。“ラナヤ”に関しても対策を講じておく』

「今はまだ、自分の事に集中してくれて構わねぇよ。お前の目的が、ある程度は落ち着いたらでいいさ」


 ボルックの加入は『星の探索者』内部を潤滑させる様に他のサポートに回れる能力を持っていた。

 『魔導車輪車』に関しても、整備と操縦は行え、技術的な効率化を提唱し、サリアの弾丸問題も色々と解決してくれた。

 市場でデータ記録用の端末を見つけたのが大きかった。マスターは、記録を紙に纏める手間が減ったわ♪ と、ボルックの事を記録係として重用している。

 まぁ、ボルック当人としては片手間の様に行えることなので大した負荷にはなっていない様だが……コレがヒトだったら過労死するぜ。


「そう言えば『ケミカルフィーバー』は性能が落ちたのか?」

『ワタシとしては100%出力時の記録が無い。故に戦闘能力は『遺跡内部』へ入った、既存のままだと認識している』

「何でも出来る感じだったぞ。『七界剣』みたいな武器も簡単に創ってたからな」

『恐らく『クオリア』に――』

「おっと、ボルック。『クオリア』はこの世界じゃNGワードだ。口に出さない方が良い」

『要注意事項に加えておこう』


 ボルックの故郷はかなり瀬戸際の縁にいた様だ。オレ達の世界はまだ余裕(・・)があると思いたいぜ。


『それにしても君とマスターは博識だな。『尾を呑み込む蛇』に関して答えを持っていたとは』

「まぁ、この世界の仕組みに関しては追々補填していけるから今は説明を控えるぜ。あの記録端末じゃ入り切らないくらい凄いからな?」

『了解。早めに二機目の組み上げを検討しよう。だが、『尾を呑み込む蛇』に関しては事前に情報が欲しい。開示出来る範囲で共有を願えないだろうか?』

「まぁ、“あの女”の本質はオレもよく分からん。凡人としての理解の限界なのかもしれないが……」

『彼女のこの世界における立場はどの様なモノだ?』

「【荒地の魔王】の妻」


 オレとしても『尾を呑み込む蛇(ファラボロス)』に会いに行くのは丁度良かった所だ。

 かつて『七界剣』を管理していたアスラには『霊剣ガラット』に関して色々と聞きたい事がある。


“クッカッカ。跳ねっ返るなよ、雑魚が”


「…………」


 証明してやる。『霊剣ガラット』がオレの側にある意味をな――



※『【霊剣】を背負う者たち』へ続く――

第600話記念外伝『His After Story』『宇宙の彼方へ』を完結しました。

大体25万字くらいの単行本一冊くらいの文字数です。


と言うよりは、私の理念としまして外伝だけ読んでも整合性がとれるように書いていまして、本編を追わなくても楽しめる内容になっております。

時系列的には過去の話が大半で、ローハンが脱退する前の『星の探索者』の話です。

始まりは100話外伝からですが、だんだん長くなって今では一つの外伝が本一冊並みに長さになってしまいました……


これに関しては二つの理由がありまして、一つは200話外伝の『BULLET』ですね。

そこで後半は主要キャラ(サリア)が空気になってる、と言う貴重な意見を頂きまして、そういえばそうだ……と目から鱗が滝のように流れた次第です。

その後300話外伝の『トワイライト』ではスメラギを最後まで活躍させました。その結果、物語がかなり間延びしてしまいましたが、物語としては起承転結を駆け抜けられたと思っています。


もう一つの理由は、キャラが勝手に動くんです。


何言ってんだコイツ……って思われたと思いますが、これは実際に作品のキャラクターの目線に立ってセリフや動きを考えた時に、らしくない行動は絶対に取らないよなぁ、と描写していくとキャラクター達が勝手に動き出すんです。

こればっかりは作品愛によるところだと思います。


その二つの理由から600話外伝は『遺跡都市』が関わることで、滅茶苦茶間延びしてしまいました。

特にボルックですね。彼の正体はですね、読者の方々にはわかったと思います。作中内では不明のままですが、彼に関しての掘り下げはこれで全部です。

『Мake the call』の最終局面の一部にも繋がる流れですが、あちらはあちらで主人公が違うのでボルックはこう言う事情があった上で、そういう行動をとっているという目線で楽しんでいただければと思います。


【マッドジャック】の“子供たち”に関しては5人はちょっと多かったかなと思ってます。4人か1人で良かったかな。細かい設定は――


アンルイ(男)…みんなのリーダー。

ドゥリム(女)…アンルイとよく言い合ってる。責任感が強い。

トワト(男) …アンルイとドゥリムの仲裁役。

キャトクル(女)…みんなの様子を眺めるのが好き

サクウェル(男)…気弱な子。よくオロオロしてる。

全員エスパーとしてのレベルは高く、『ピース』を手足のように使えます。


まぁ、レイヤー家の話はまた別の話となるのでこの辺で割愛。


スカーレットの事も割愛。


ファンタジーとSFが混ざった外伝となったために、カオスもカオスでしたが、正直読み飛ばしても本編には殆ど関係ありませんのであしからず。

まぁ、600話外伝は絶対に映像化できませんので、機体のデザインとかは勝手に脳内保管してください。


あとがきはこれにて以上です。

600話外伝に関してまだ知りたいことがあればコメントでどうぞ。可能な限りお答えます。

明日からは本編を再開します!


本編

『https://ncode.syosetu.com/n2071jf/1』


Мake the call

『hhttps://ncode.syosetu.com/n6016la/1』

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