8話「動き出した歯車」
「〜♪〜♪」
「おー、今日は気合入ってるな」
「今日だもんね」
「あー、今から緊張だよ!」
「今からって....まだどんだけ時間あると思ってるんだよ」
「だってしょうがないじゃん!こんなの一生に一度あるかないかなの!」
「そんなの分かんないじゃん。なあ静海?」
「んー、どうかな?私は一度も無いけど」
「いや、私もないけどさ。ほら、意外といるかもしれないじゃん」
「意外とって....優香って告白されたことなかったっけ?」
「ん?あー、中学の時な。付き合ってないけど」
「あるじゃん!私なんて本当に一度とないんだから!」
「でもラブレターとか貰ってないし....」
「いいじゃん!少なくとも優香は誰かにとっての脈アリだったんだから!」
「そうだよ。優ちゃんは気付いてなかったみたいだけど、裏で結構人気あったんだよ?」
「え、何それ初耳なんだけど?」
「皆頑張って隠してたからね」
「でも告白されたのなんて一回だけだぞ?」
「男子の間で色々あったんだよ」
「色々な...」
「優香は影でモテモテなんだ!みんな優香の子供ボディが好きなんだ!」
「子供ボディとは失礼な!この中で一番胸がでかいのは私なんだぞ!」
「胸なんて所詮脂肪の塊だ!別に無くても困らないよ!」
「ふっ、所詮小さきものの戯言」
「なんだとー!私は小さくない!平均なの!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて」
「うわーん!ずみちゃーん!優香がいじめるよー!」
「あ、ずるいぞ!」
「はいはい、2人とも、まずは落ち着いて」
「「はーい」」
手紙に書かれた約束の日。朝から夏楽は放課後を今か今かと待ち侘びていた。
こんな気持ちは初めてで、自分でも不思議な感じだ。
そんな早る気持ちのままいたせいか、いつもより時間が遅く感じだが、授業が終わった。2人には後日結果を伝えると約束し、1人で校舎裏へと向かう。途中トレイの鏡で身だしなみを確かめながら目的地へと到着した。
「あ、あれ、誰もいない」
早く着きすぎたのかと暫く待つ。緊張で心臓がバクバクと煩いくらいになる。相手が来るまでに落ち着こうと深呼吸を繰り返す。何度か繰り返す内にようやく落ち着いてきたのか、最後に息を吐くと足音が聞こえ、誰かが近づいてくるのが分かった。
ようやく相手が来たのかと足音の方へと振り返ると、そこには意外が人物が立っていた。
「あ、えっと、どうしたの園山さん?」
そこにはクラスメイトの園山が立っていた。園山は、夏楽の目の前まで来るといきなり頭を下げだした。一体どうしたのかと慌てて頭を上げさせる。
「えっ、ちょっ、いきなりどうしたの⁉︎」
「いえ、どうやら勘違いさせちゃったみたいで。そのゴメンなさい」
「勘違いって....も、もしかしてこの手紙って....」
「うん、私なんだ」
「あー、えー....それじゃあ、園山さんが私に大事な話が?」
「うん。そうなんだ」
まさか園山さん私の事が....?なんて変な想像をしながらイヤイヤ違うだろと自分にツッコミをする。でももしかしたら....?余り強引に迫られたら断れないかも、などと1人で考えていると、園山さんがこちらを見て笑っていた。
「あ、ご、ゴメンね!それで、話ってなに?」
変なことを考えていたのを悟られない様に話題を元に戻す。それを悟ってくれたのかは分からないが、園山は話を始めた。
「ねえ、早里さん。私、実はとっても体が弱いの」
「う、うん、知ってるよ?」
「体力も無くて、すぐに病気になる。外も余り歩けないから肌もこんなに白い。小さい頃は友達と外で遊べなくて、遊べてもすぐに疲れちゃうから気を遣わせちゃうのが嫌で、本当、何でこんなに人と違うんだろうってずっと思ってたの」
園山がいきなり話し始めた内容が予想外すぎて頭がついていかない。何故いきなり自身の事を話し始めたのか。
「歳を重ねて、体も成長して、小さい頃に比べればマシにはなったけど、治ったわけじゃない。季節の変わり目や雨に濡れた時、乾燥がひどい時だってすぐに体調を崩しちゃう。学校にもキチンと行けてなくて、友達は出来るけど心配ばかりかけちゃう。そんな自分が嫌で嫌でしょうがなかった」
彼女の表情が変わる。悲しい顔、苦しい顔、怒りの顔、コロコロとコロコロと変わる。
「もう一生治らない。ずっとこのまま。結局医療が発展しても治せないものもある。仕方ない。こんな体に生まれてしまった自分が悪い。そう思う事にしたの。もう両親の悲しい顔は見たくない。『丈夫な体に生んであげられなくてごめんね』そんな言葉聞きたくない!」
彼女は空を見上げる。いや、正確には自分の後方を見ている。何かあるのだろうか?
「でもね、あの日、あの人が私を救ってくれた」
クスリと笑うその顔に、何とも言えない不安感を覚えた。
「不思議な人だった。たった一発の弾丸が私を貫いたと思ったら、今までが嘘だと思えるくらい体に力が漲ったの。それからその人はこう言ったの『これで君は自由に生きられる。ただ、その命のほんの少し、一生のうちの1割にも満たない時間を、僕に貸して欲しい』って。私は迷わず言ったの。少しと言わずいくらでもって。その時の私には、その人が物語に出て来る様な白馬の王子様。いえ、それ以上。神にも等しい存在になったの」
「あ、あの、園山さん?」
「おかしいと思った?何を言ってるのと、頭がおかしくなったのかと思った?違うの、全然違う。私は正常だし、寧ろ以前の私よりもっとずっとまともだと思ってる。両親だって喜んでくれた。私だって嬉しかった。自由に動ける事が、走り回れる事が、何より、みんなと一緒の時間を過ごせる事が何よりも嬉しかった。これからは普通に子と一緒の様に過せる。朝起きて、学校に行って、授業を受けて、部活して、帰りにどこか寄って買い食いしたり。そんな、今までできなかった事が全部出来るの。できる様になったの。」
動きたくても動けない。何もされていないのに。園山の剣幕に押され、体が思う様に動かない。頭の中では逃げろ!と叫ぶ。だけど体が一向に動かない。
「だから早里さん。もう一度聞くね?インディットナンバーズ、見たことあるよね?ある場所、知ってるよね?」
「しら....ない!!」
動け!動け!何度も心の中で叫ぶ。だけど体は言うことを聞かない。意地でも動かそうと力を目一杯入れるが少しずつしか動かない。
「そっか....まだ嘘をつくんだね」
動けない夏楽との距離を詰める。元々目の前にいたのだ。あってない様な距離はあっという間にゼロになる。
「ねえ、早里さん。私、別に貴方に害を与えたいわけじゃない。正直に話してくれればそれで良いの」
「だから、知らないって.....!」
尚も体が思う様に動かない。本当にどうしたのか、頭の中がパニックになりながらも必死にもがく。それでも体は動いてくれない。
「そっか。それじゃあしょうがないね。私も本当はこんな事したくなかったんだよ?だけどしょうがないよね。うん、しょうがない。正直に話してくれない早里さんが悪いもん」
「なに...を⁉︎」
「だからね、早里さん。貴方の時間、私に頂戴」
「なにいっ....」
一発の銃声が、校舎裏に鳴り響いた。




