9話「誘拐」
「あれ、ここは....?」
いつの間に寝ていたのか、フカフカのベッドで目を覚ます。真っ暗な部屋に、何で自分がここにいたのかを思い出そうとする。
寝起きでうまく働かない頭を必死で回転させ、放課後の事を思い出す。
「.....そうだ私、園山さんに撃たれて....」
撃たれた部分に何の異常もないか自分の体を弄る。痛みも違和感もない事に安堵しながら、ここは一体どこなのかを探ろうと真っ暗な空間の中、慎重にベッドから降りる。
電気を付けようと慎重に歩きながら手を突き出し、壁にたどり着く。そのまま壁沿いに歩くと手に何か当たり、それがスイッチだと確認する。指を動かしてそれっぽいものを押すとカチッと音がした。
「おぉ、付いた」
音と共に部屋に明かりが灯る。急な明度の変化に目を瞑りながらゆっくりと光に目を慣らし、自分がいる場所を確認する。
「ここは....どこ?」
自分がいた場所は何処かの一室だろうか?窓は無く、外の様子を伺うことはできないが、先ほど自分がいたベッドにモニター、出入り口であるドアに簡素なテーブルとイス。そして、テーブルの上に置いてある自身のスクールバック。それだけであった。
取り敢えず部屋から出ようとドアに近づく。見た目からスライド式の自動ドアであるのは分かるが全く反応しない。
「あのー、すいませーん!誰かいませんかー!」
ドアを叩いて大声を出すが全く反応はない。試しにドアに耳を当て、外の音を聞こうとするが何も聞こえてこない。それならとスクールバッグからスマホを取ろうと中を探す。
「え....無い」
何かの間違えだろうと中身を全て出すが連絡手段であるスマホのみが無くなっていた。本格的に焦りを感じ始めてきた時、モニターが点滅し、お面を被った人物が映し出された。
『あー、あー、んんっ、聞こえているかな?』
変声機を使っているのだろう、明らかに人間では無い声が聞こえる。
『まあ、おそらく大丈夫だろう。それでは改めて.....やあ、こんにちは、早里夏楽くん。いや、おはようと言った方が正しいかな?』
画面に映る男が自分の名前を呼ぶ。知り合いだろうか?いや、それは無い。自分の知り合いにこんなことをする人物がいない事は夏楽自身がよく分かっていた。
『初めまして。名前は、そうだな....取り敢えず名無しと名乗っておこう』
「ななし....?」
『そう。名が無いと書いて名無し。うん、それでいこう』
「あれ、こっちの声....⁉︎」
『勿論、聞こえているよ。それに見えてもいる。誰も録画だなんて言ってないからね』
その言葉に、反射的に部屋の中を見渡しカメラを探す。天井の四角や壁を見てもそれらしいものが全く見当たらない。
『あぁ、探しても無駄だよ。カメラは天井や壁に埋め込んであるし、見つけたところで君にはどうしようもないよ』
「....それで、一体此処はどこですか」
意味がないと分かりつつ相手を睨む。兎に角、何か一つでも相手から話を聞き出そうと頑張ってみる。
『そこかい?そこはただの部屋だよ』
「いや、そうじゃなくて」
『ま、別にどこでも良いじゃないか。何も取って食おうって訳じゃない。少々手荒になってしまったが、君には少し利用されてもらうよ』
「利用って....貴方ですか、園山さんを唆したのは」
『唆したなんて失礼な。彼女を救い、その対価としてこちらのお願いを聞いてもらっただけだよ』
「....そんなに欲しいんですか、インディットナンバーズ」
『あぁ、欲しい』
お面で表情は分からないが、明らかに相手の空気が変わった。絶対手に入れる覚悟や渇望、そんなモノが画面越しに伝わってきた。
「それで、私をこんなところに閉じ込めてどうするつもりですか」
『別にどうこうするわけじゃない。言ったろ?利用させてもらうと。実はこの部屋の映像だけ、限定したチャンネルで見れる様になっていてね。君のご両親を招待させてもらった。こちらから確認したが、如何やら見てもらえてるそうだ』
「ママ!お父さん!」
『無駄だよ。音声はカットしてある』
「っ!」
悔しさに歯を噛み締める。何とか脱出の手立てはないかと部屋の中を物色する。だが、特に使えそうなものはない。スクールバッグの中も、教科書や筆記用具、ポーチやお財布が入ってるだけ。
その懸命な様子を見ながら、相手は楽しそうに笑っている。
『それ以上は意味がないからやめときな』
「....何で、私をここに閉じ込めたんですか」
『言ったろ?インディットナンバーズの為さ。君があの日、インディットナンバーズを目にし、それが本物というのもわかっている』
「だったら!....だったらインディットナンバーズが何処にあるかなんて知ってるんじゃないですか」
『勿論知ってるさ。機導銃専門対策本部、そこにあるんだろ?』
「知ってるから何で私を.....!」
『確実に手に入れる為さ。場所は知ってる、でもあそこに直接取りに行くのは少々手間でね。それなら、木ノ下達と関わりが出来た君を利用しようとお願いしたのさ』
「でも!....それでもし、あの人達がインディットナンバーズを渡さなかったら....?」
『その時は、やっぱり直接取りに行くしかないかな。勿論、君を連れて』
その頃木ノ下達は、夏楽捜索の為に、防衛省の会議室に作戦本部を作っていた。
「其方の状況は?....うん、分かった。引き続き頼んだ」
電話を切ると例の映像が映っているモニターに目を移す。
ことは1時間前。
いつもより夏楽の帰りが遅いのを心配した両親がスマホに連絡をした。だがそれは、夏楽に繋がる事はなく、機械音声のみが流れる。何度か電話をかけると1通のメールが届き、URLが貼ってあった。
状況的に怪しいURLを押し、サイトに移る。するとそこには、夏楽が暗い部屋で横たわっている映像が。只事ではないと両親は警察へ、念の為、牧人は柳瀬へと電話を掛けた。
「柳瀬さん!」
『牧人か?どうした?』
明らかに焦る声色。何かあったのをすぐに感じとる柳瀬。
「夏楽が、夏楽が!」
『落ち着け。少し深呼吸....よし、何があったかゆっくりで良いから話せ』
牧人から一通りの話を聞き、一旦電話を切る。そのまま木ノ下と志原を集め、先程牧人に聞かされた内容を伝える。
「志原、監視はどうなっている!」
「午後に定時連絡をもらっております」
「今すぐ通信しろ!」
「はっ!」
志原はオペレーターの元に向かうため部屋を出る。残った2人でこれからどするのかを話し合う。
「柳瀬、これは恐らく....」
「だろうな。このタイミング、それに、夏楽ちゃんを攫った事を考えると十中八九アイツだろう」
「くそっ!情報規制はやったのだが...」
「恐らく内通者、もしくは情報屋か...」
「内通者の可能性の方が高いだろう。何せ、お前のインディットナンバーズの封印を解いた直後だ。それに、前に回収したインディットナンバーズの封印も終わっていない」
「そしてこのタイミングで夏楽ちゃん誘拐...」
「兎に角、至急作戦本部を立てる。こちらでの指揮は私が取るが、現場では頼んだぞ」
「久々すぎて体動くか心配だな」
「失礼します!先ほど確認しましたが、監視との連絡が取れません!」
「分かった。志原、第三会議室にて至急作戦本部を立てる。柳瀬と共に人員の配置、機材の配置を急げ!」
「はっ!」
柳瀬と共に部屋と後にする志原。1人残った木ノ下は、何処かへと電話をする。
「....私です。はい、実はーーー」




