3話「本部到着」
車に乗る事30分。目的地に着いたのか車が停まる。重苦しい空気の中、やっと解放されると夏楽は内心ほっと一息ついた。
車に乗るや否や志原はタブレットで作業を、柳瀬は窓の外を見ながら黄昏おり、とても話せるような空気ではなかったのである。
「うーん!」
重苦しい空気から解放され、車の外で伸びをする夏楽。やっと楽になったと喜び、改めて防衛省の建物を見上げた。
「やっぱり大きいですね」
「そうね、ここには私達以外にもたくさんの人達がいるからね」
「あー....ほんとに行かなきゃダメ?」
「もう!ここまで来たんですから今更ですよ!」
「それでは着いてきてください。迷子にならないようにね」
「はい!」
未だに渋る柳瀬を引っ張り中へと入る。広いエントランスに感心しながら志原の後をついて行く。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
行く人来る人に挨拶をされる志原に、何かカッコいいと憧れを抱く夏楽。
それとは逆に、偶に睨まれる柳瀬。本人はとても居心地が悪そうな顔をしている。
そのままエレベーターで10階まで上がり、廊下を少し歩くと機導銃専門対策本部と書かれた部屋に着いた。
「着きました。さ、入りましょう」
「はい」
「んー....」
柳瀬に構う事なくドアを開ける志原。中に入ると机で作業していた人達が一斉に立ち上がり敬礼をした。
『お帰りなさいませ!志原副本部長!』
「お疲れ様。楽にして良いわよ」
『はっ!』
その一言で各々が作業に戻った。
呆気に取られる夏楽。そんな夏楽を見た志原は、クスっと笑うと夏楽にいつもはこんな事はしないと説明する。
「え、でも、皆さんの動きあんなに揃ってましたよ?」
「夏楽ちゃんと先輩が来ることは連絡してたから、急遽練習でもしたんじゃないかしら?いつも肩肘張ってるから偶にふざけたくなるのよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものよ」
「はぁ...」
あまり腑に落ちないと首を傾げる夏楽。そんな夏楽に「大人になればわかるわ」と志原は優しく囁くと、これ以上考えても分からないと考えるのを放棄した。
「さ、本部長はこちらです」
「えっと、私も付いて行っても良いんですか?」
「あ、そうね。夏楽ちゃんはここで一通りの説明を受けてもらおうかしら」
「いや、夏楽ちゃんも一緒に行こう。というか行ってください...!」
「何でそんなに弱気何ですか....」
年下の女子高生に本気で頼む柳瀬に困ったと志原を見る夏楽。
「良いですよ。先輩が宜しければ」
「え、良いんですか?」
「ただ、少し話が長いかも知れないけど、夏楽ちゃんはそれでも良い?」
「別に構いませんけど....」
「ありがとう!ありがとう夏楽ちゃん!」
本気で喜ぶ柳瀬。そんな姿に、柳瀬に対する好感度は少しずつ下がっていった。
「ではこちらに」
そのまま部屋奥へと進むと、『本部長室』とかかれた部屋の前に来た。志原が三度ノックをすると中から「入れ」と低めの男性の声が聞こえた。
「失礼します。今回の事件の重要参考人2名をお連れしました」
中に入ると、眼鏡を掛けた男性が机で書類の束にひたすらに判子を押していた。
見た目は柳瀬より若めだろうか?キチッとした格好で、いかにも仕事ができる大人の姿をしていた。
「初めまして、機導銃専門対策本部本部長を任されている木ノ下透だ」
木ノ下は作業を中断すると、夏楽の前へ来て自己紹介をはじめた。いきなりの事でタジタジになったが、出された名刺を受け取り夏楽も自己紹介をした。
「早里夏楽です」
「志原から聞いている。大変なことに巻き込んでしまい、本当に申し訳ない...!」
「あ、い、いえ、気にしないで下さい!」
突然の謝罪に困惑する夏楽。咄嗟に気にしてないと返答したが、木ノ下は一向に頭を上げる気配がないのでどうしたら良いのか困っていた。
「あの、本当に大丈夫ですから頭を上げてください」
「いや、我々が招いた不祥事。君のお兄さんに怪我までさせてしまい、何とお詫びをすれば良いものか」
「牧兄は頑丈なんで大丈夫です!本当に大丈夫なんで、もう頭上げてください!志原さん、助けて下さい!」
「本部長、まだ話があるのでそこまでにしておきましょう」
「うん...そうだな。明日にでも御両親にも謝罪に行かなければ」
「あはは...」
後日訪れる両親の苦労に、心の中で「ガンバレ...」と応援する夏楽。
すごく真面目な性格人だなと思いつつ、若干のめんどくささも感じていた。
「さて、立ち話もなんだ。こちらに掛けくれたまえ」
促されるまま部屋の一角にある応接スペースのソファに腰掛ける。ソファの柔らかさに「おぉー...」と感動しているとお茶が差し出された。
「ありがとうございます」
「良かったらこれも食べてね」
お茶と一緒に和菓子の練りきりも出される。可愛いうさぎの形で、食べるのが勿体なくて中々手を付けられないでいると、そんな様子が可笑しかったのか、志原がクスっと笑っていた。
「それでは、こちらの書類を読んでくれたまえ」
一枚の書類が夏楽に渡され、柳瀬にも同じものが渡された。小難しい言葉が書いてあるそれを黙々と読む。3分ほどで読み終わり、書いてある内容について聞いた。
「あの、これってつまりどういう事なんですか?」
「うむ。簡潔にまとめると、今回の事件について口外しない事。しばらくの間監視をつけさせてもらうこと。この2点だ。あぁ、お兄さんの事についてはこちらで面倒を見るので心配は無用だ。了承してもらえるならこの欄にサインをお願いする」
「わかりました」
そのままサインをする。2枚とも確認した木ノ下は書類を志原に渡した。
「ありがとう。さて、本来ならこれで終わりなのだが、柳瀬」
「...なに?」
「単刀直入に言う。戻ってこい」
「嫌だ、と言ったら?」
「アレはお前のせいでは無い!」
「でも!....僕はもう、戻れない」
「新たなインディットナンバーズが見つかった今、お前の力が必要なんだ!」
「僕はもう、あの頃の様には戦えない」
「....これは噂だが、何者かがインディットナンバーズを集めているという話を聞いた」
「それは...!」
「早里夏楽くん、これは君にも関係している」
「え、私もですか?」
「奴らはインディットナンバーズの事に関しては何でもやる集団だ。君にも用心してもらいたい」
「で、でも、噂なんですよね....?」
「勿論噂だ。ただ、信憑性は高いがね」
「木ノ下、それって...」
「あぁ、お前が思っている通りだ。アイツが動き出した」
「.....!」
柳瀬は目を見開き驚きの表情をした。段々と話についていけなくなって来た夏楽は大変だなー、ぐらいにしか思わなくなっていた。
しばらく沈黙していた柳瀬が顔を上げ、覚悟を決めた顔つきをしていた。
「わかった。手続きは頼む」
「ふっ、無論だ」
話が纏まったのだろう。やっと終わった空気を感じた夏楽はお茶を飲んで一息ついた。
「柳瀬にはもう少し残ってもらうが、早里夏楽くんはもう大丈夫だ。志原、送ってあげなさい」
「畏まりました。行きましょ、夏楽ちゃん」
「はい、失礼しました!」
そのまま来た時と同じ車で家へと送り届けられた。




