2話「我儘な大人」
「あぁ、ごめんね夏楽ちゃん。この人は前の職場で部下だった人」
「志原紫です。よろしくね、夏楽ちゃん」
「は、はい!よろしくお願いします...」
思わず声が上ずってしまい、「私のバカァ...」と恥ずかしい気持ちを抑えてさっき助けてもらったお礼を言った。
「いいの、こちらこそゴメンなさい。もう少し早く来ることができたらお兄さんが怪我をしないで済んだのに...」
「い、いえ!牧兄は頑丈なんで大丈夫です!」
「ふふっ、気を使ってくれてありがとう」
その笑みに再度ノックダウンされる夏楽。
綺麗な人は同性までも魅了するのか、と変な事を考えながら一人悶えていた。
そんな夏楽の様子に苦笑いを浮かべながら、柳瀬は志原へと例のモノの事を尋ねた。
「志原。アレについて、どこまで知っている?」
「...こちら側としては日本に入ってきたのは知っていました。本物か偽物かの審議は実物を見ての判断でしたが、アレが本日、別の組織に渡る手筈になっているのは掴んでいたので尾行していたのですが...」
「夏楽ちゃんの荷物と入れ替わって、それに気付くまで行動が遅れたと」
「申し訳ございません」
いつもの柳瀬の様子と違い、こんな真面目な顔も出来るんだと場違いな事を考えていた夏楽。
話の流れから、件の機導銃がどんなモノなのか牧人に聞きそびれてしまった事を、柳瀬へと問いかける。
「柳瀬さん。その機導銃って結局なんなんです?」
「そうだね...夏楽ちゃん、機導銃に関する都市伝説って知ってる?」
「はい。100年前の日本が壊滅的になった事件に、機導銃が関係してるって話ですよね?」
「うん、合ってるよ。で、その続きがあるのは知ってる?」
「うーん....よく聞くのはここまでなんで、その先があるのは知らないです」
「まぁ、ネットでも一部の人が言ってるだけだからね。で、その続きが、事件に関係している機導銃、それにはNO.の彫刻がされていると言われているんだ」
「え、それって....」
夏楽は反射的に、志原の足元にある部下が回収した機導銃が入っているアタッシュケースを見た。
「そう。今回の発端となった物だ」
「で、でも!偽物かも!」
「いや、今回のモノは本物だよ」
「何で分かるんですか!」
「....昔、僕も持ってたんだ。違うNO.の物を」
「そ、そんな...」
今まで知らなかった柳瀬の過去を知り驚きを隠せない夏楽。柳瀬も自分の過去に対し後ろめたいのか、暗い表情をしていた。
二人の暗い空気をどうにかしようと志原が軽く咳払いをした。
「オホン。お二人共、その辺りで」
「あ、はい...」
「んっ、すまん」
「いえ。それではお二人には、これから私と一緒に来て頂きます」
「えっと、どこに行くんですか....?」
「大丈夫よ夏楽ちゃん。私達の本部に行って、今回の件の黙秘事項に了承してもらうだけだから」
「黙秘事項ですか?」
「そう。今回の件、特に、インディットナンバーズが関与している事件は世間一般に公にできないの」
「あの、インディットナンバーズって」
「あら、ゴメンなさい。インディットナンバーズって言うのはNO.が彫刻された機導銃の総称のことなの」
「インディットナンバーズ....まだ何丁もあるんですか?」
「そうよ。全部で13丁あると言われているわ」
「13丁も....」
不吉な数字に薄ら寒さを感じながら、もう自分には関係無い、さっさと忘れよう、と気持ちを切り替える。
ふと柳瀬の方を見ると、先程志原が本部に行くと言ったあたりから微妙な顔をしていた。
「柳瀬さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね....」
「早く行きましょうよ」
「んー....志原」
「はい」
「本部ってもしかして....」
「勿論、防衛省機導銃専門対策本部です」
「だよなぁ....」
行きたくないオーラを全身から出している柳瀬。普段からだらしなく、あまりやる気の無いオーラは出していたがこんなに嫌がっているのは珍しいと思った。
「柳瀬さん、我儘言ってないで早く行きましょうよ」
「えー....でもなー....ちなみに本部長って誰?」
「木ノ下本部長です」
「木ノ下かー....木ノ下なー....」
「何がそんなに嫌なんですか?」
「いやー、昔の職場だからちょっと行きにくいなーって。それに、昔の同期がすごい出世してて顔が合わせづらいんだ」
「....もっと大人になりましょうよ」
「グサッとくる言葉だなー」
あははは、と乾いた笑いをする柳瀬に志原がため息をついていた。
「先輩。木ノ下本部長も、先輩に会いたいと言ってましたよ」
「僕は会いたくないかなー....」
「どの道、今回の件で本部に来ていただかなければならないのです。諦めて一緒に来てください」
「あー....ほら!僕はお店の片付けがあるから後日でも!」
「心配ありません。私の部下が現場検証を済ませ次第、現場の修復や後片付けを済ませますので」
「お店のシャッター閉めたり売上の計算とか!」
「それだけなら今済ませていただいても構いません」
「いや、売上の計算に時間掛かるし...」
「あれ、前に『うちの売上って1日五万もないんだよねー』って笑ってたじゃないですか」
「あー....そんな事も言ったね....」
八方塞がりで焦る柳瀬。どうしたものかと考えを巡らせる。・・・結果、どんな事をしても無駄だというのが分かってしまい、諦めることにした。
「....しょうがない。僕も男だ、覚悟を決めた!」
「こんな事で?」
「夏楽ちゃん夏楽ちゃん、僕の覚悟揺らいじゃうから。茶化すのやめて」
「はいはい」
「では行きましょう。近くに車を手配してますので」
「はーい!」
「....はい」
志原に先導されるように路地から商店街を抜け、すぐ側の人気の少ない路地へと入る。するとそこには、黒塗りの車が一台止まっていた。
「わぁー、ドラマでよく見るやつだ!」
「それではお二人は後ろへ。私は助手席に座りますので」
全員が乗り込み車は発進。
そんな光景を上から眺めている人影があった。
「ふーん、そっかー。ま、収穫はあったし、今回は良しとしよう。うん」
一人で納得し、人影はその場を翻すと姿を消した。




