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禁弾銃機のバレットショット  作者: 咲本 星
一章
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1話「知らない世界」

「えっと、どちら様です?」


 いきなり現れた男に警戒する3人。ぴっちりとしたスーツ姿に七三分けの髪。いかにも仕事が出来そうなサラリーマンと行った風貌だが表情はニヤついていて胡散臭い雰囲気を醸し出していた。


 「おやおや、そんなに警戒なさらないで下さい。私はただ、これを持ってきただけですので」


 そう言うと男は夏楽が持ってきた物と同じ、黒のアタッシュケースを持ち上げた。


 「あ、それ!」

 「はい。如何やら私共の不手際で入れ替わってしまったようで....こちらはお返しさせて頂きます」


 男からアタッシュケースを受け取ると、夏楽はそのまま牧人に渡した。牧人は中を確かめる為に鍵を開け、蓋を上げる。本来の中身が気になっていた夏楽も、覗き込むように身を乗り出し中を見た。


 「何これ?筒?それと、弾?」

 「何を言っているんだ夏楽!これは初期中の初期に製造された機導銃のパワーバレルと、四世代の初期に百本しか製造されなかった幻のパワーカートリッジだぞ!しかも未使用!あぁ、ネットで見つけた時はパチモンだと覚悟していてがまさか本物だとは....大金はたいて良かった!あの時の俺、グッジョブ!」


 牧人のあまりの興奮具合に若干引きつつ、夏楽は男に向き直りお礼を言った。


 「ありがとうございます。わざわざ持って来ていただいて」

 「いえいえ、非はこちらにあるのですからお気になさらず。それでは、こちらの物を返していただきますね」

 「はい!柳瀬さん!」


 相手の人に機導銃を返そうと柳瀬の方を向くと、銃を握ったまま真剣な顔つきを男を見ていた。


 「あの、柳瀬さん?」

 「....一つ聞きたい」

 「はい、何でしょう」

 「これを一体どこで手に入れた?そしてこれ、本物(・・)、だな」

 「........」


 柳瀬の言葉を聞いた男は、先程のニヤケ顔が嘘なくらい無表情になった。そのまま互いを警戒しあう両者。はしゃぐ牧人の声が遠くになったような錯覚を覚える。

 夏楽は異様な空気感に固唾を飲む。二人が一触即発の状態で思わず夏楽の体も硬くなる。いつまで続くかと思われたが、男がいきなり笑い始めた。


 「ふふふっ、あはははは!成る程、あなたは本物を見た事がある、そう言う事ですね?」

 「そうだ、と言ったらどうする」


 笑う男に睨み付ける柳瀬。夏楽は、いまだに一人でコレクションを眺めてニヤニヤしている牧人を叩いて正気に戻す。


 「いてっ!ん?何があったの?」


 正気には戻ったが状況が分からなくキョロキョロしている牧人に、夏楽がコソコソ話で大まかな説明をする。漸く状況が飲み込めた牧人は、アタッシュケースの鍵を閉めるとそれを足元に置き、腰にある機導銃に手を添える。


 「いいですねぇ、本物を知るあなたには是非お話を伺いたい」

 「断る」

 「そう言わずに、お願いしますよぉ」

 

 粘着質な男の言い方に、嫌悪感を感じた夏楽は思わず「うえぇ」と声に出てしまっていた。

 それでも尚、男は柳瀬に絡み付くような視線と言葉を向ける。


 「....あんた、さっきとキャラが違うぞ」

 「あぁ、お気になさらずぅ。こちらが素の私ですのでぇ」

 「牧人」

 「はい」

 「今日はもう上りでいい。夏楽ちゃんと一緒に帰りな」

 「え、でも」

 「いいから!....行くんだ」

 「....分かりました。行こう、夏楽」

 「う、うん...」


 お店のエプロンを畳んでカウンターに置いた牧人は、自分の足元のアタッシュケースを持ち男の横を通り過ぎる。後に続くように夏楽も通り過ぎようとした時、頭に機導銃が突きつけられた。

 あまりの早抜きに反応できなかった三人。

 男は滑稽と言わんばかりに顔を歪ませ、ケラケラと楽しそうに笑う。


 「おやおやおやおや、その腰の手、離した方が良いですょぉ」


 夏楽の頭に機導銃が突き付けられた瞬間、牧人はアタッシュケースを落とすと腰に、柳瀬は手に持った機導銃を近くのカウンターに置き、逆の手をエプロンの内側にそれぞれ手を伸ばしていた。

 男の言葉と機導銃に掛かる引き金が少し絞られた事で、二人は自身の機導銃から手を離し、両手が見えるように上げた。


 「くそっ!夏楽を離せ!」

 「その子は関係無い!」

 「牧兄、柳瀬さん!」


 助けを求める夏楽に動きたくても動けない二人。そんな三人の様子を、男は楽しそうに笑いながら眺めていた。


 「くっくっくっ、良いですねぇ良いですねぇ。こんなに臭いセリフを聞けるのはいつの時でも楽しいものです。あぁ、あまりの楽しさに私、引き金の指が軽くなりそうですぅ」

 「クソ野郎っ!」

 「いつまで虚勢を張れるか、試してみましょうかぁ」


 瞬間、夏楽は顔の横を何か早いものが通り過ぎたのを感じた。


 「えっ...」

 「....っぐぅ!」


 次に見た光景は肩を撃ち抜かれ血を流す牧人の姿だった。牧人は突然襲ってきた痛みに呻き声を上げながら傷口を手で抑え、血を止めようとしていた。


 「牧兄!」

 「牧人!っ、お前!」

 「あぁ〜、やはり、痛みに歪めるその表情は素晴らしぃ。あなた方の表情も素晴らしぃ!もっともっと、負の表情を私に見せて下さぃ!」


 険しい表情の柳瀬、涙を浮かべる夏楽、苦悶の表情の牧人。状況は最悪で、もう助からない、誰もがそう思った時、一発の弾丸が夏楽と男の間を通り抜けた。


 「っ⁉︎」


 思わぬ攻撃に、男は夏楽から距離を取ると弾が飛んできた方向へと視線を向けた。

 その隙を逃さない柳瀬は男に肉薄し、エプロンから取り出した機導銃を男に突き付けた。

 

 「終わりだ」

 

 一瞬の出来事だったが、事態はあっという間に収束。男は機導銃から手を離すと降参のポーズをした。

 夏楽は牧人の側に行き、ハンカチで傷の応急手当てをする。


 「いててっ」

 「もう、牧兄の馬鹿!」


 泣きながら牧人の手当をし、血があまり流れなくなったのを確認する。安堵した夏楽は柳瀬と男の方を向く。すると、路地の向こうから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。


 「先輩。お久しぶりです」


 そこには、制服に身を包んだ綺麗な女性が数人の男性を連れて立っていた。思わず「綺麗...」と呟いた夏楽にニコッと笑いかける。

 自身の呟きを聞かれていた恥ずかしさと、笑いかけられたその笑顔に照れてしまった夏楽は思わず顔を背けた。


 「....人払いはしたはずですが」

 「無駄です。私達の情報網を舐めないで頂きたい。こいつを連れて行け。そこの怪我人も病院へ」

 『はっ!』


 部下と思われる人達は、スムーズに男を連行。怪我をしている牧人もストレッチャーで運ばれて行った。牧人と一緒に行こうとした夏楽だが、柳瀬にお願いされこの場所に留まった。


 「改めて、柳瀬先輩。お久しぶりです」

 

 敬礼をして二人の前に立つ女性。彼女の口ぶりから、柳瀬に関係ある人なのは一目瞭然。年頃である夏楽も恋路には興味津々。二人がどんな関係なのか、とてもとてーも気になっていた。


 「先輩はやめてくれ。もう仕事は辞めたんだから」

 「それでも私は、先輩の事を尊敬していますので」

 「少しの間指導しただけだろ」

 「その指導が素晴らしかったのです」


 置いてけぼりになる夏楽。一体誰なのか柳瀬に聞こうと声を掛けた。

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