17話「隠し事」
「それで、昨日の処理はどうなった?」
「滞りなく済ませております」
「全く、脱獄を許すとは嘆かわしい」
「死人の処理も楽ではないのだかな」
「この体たらく、どう責任を取るつもりで?」
「何を言っている。そもそもお前たちが設備強化の予算を削減したせいなのだぞ」
「そちらの怠慢を此方のせいにされても困ります」
「なに?」
「あら、違いましたか?」
「囀るなよ小娘。誰のおかげでこの場にいることができると思っている」
「少なくとも貴方のおかげではありませんね」
「好き勝手に言わせておけば....!」
薄暗い室内に映し出されるいくつかの光。そこに映し出された者たちが、互いの姿が見えないまま思い思いに昨夜に起こった事件について話していた。
木ノ下もまた、責任者の1人としてこの場にいるが立場的に口を挟める訳もなく、ただ下らない言い争いを聞いて内心うんざりしていた。
「それを言うならそこの人だって」
「こっちに落ち度はないですが?」
「何を言っている、この間の会議でーーー」
「そこまでにしてもらおう」
良い加減に先に進めたいと思っていると、1人の人物がその場の全員を収める。今までの言い合いが嘘のように静まり返り、その人物の言葉を待っている。
「それぞれ言いたい事があるようだが、時間に猶予があるわけではない。手短に済ませよう」
その一言で場の空気が変わり、先程とは打って変わり、スムーズな報告が始まった。
「被害状況は?」
「死者23名、重傷者12名、軽傷者なし。設備の損傷は該当人物の房と倉庫が、他の箇所はありません。この際、該当人物の機導銃が持ち出されています」
「死者の遺族に対しての説明や機密保持の対応も既に済んでおります」
「他の囚人達の管理する為の人員はすでに配置済みです」
「ふむ。それで、足取りはどうなっている?」
「現在監視カメラの映像をあらっておりますが、ハッキングされ消息は不明。主犯となる人物は女だと判明していますが、詳しい事は分かっていません。ただ、物凄い強さだったとの証言がいくつか上がっています」
「木ノ下本部長」
「はい」
「今回の件、あやつらの関与は?」
「否定出来ません」
「やはりインディットナンバーズか....」
考え込むような声が聞こえ、少しの間沈黙したかと思うと、次の考えを決めたのか再び声が聞こえた。
「各自、此度の事件はくれぐれも内密にするように。それと、インディットナンバーズの発見と回収を最優先に。あやつらが絡んでいるなら何かしらの動きがあるはずだ。警戒を忘れるな」
『はっ!』
全体通信が切れ、部屋の電気を付ける。
ようやく終わったと気持ちを落ち着けていると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼します。コーヒーをお持ちしましたので宜しければどうぞ」
「あぁ、すまない。頂くよ」
志原がタイミング良くコーヒーを持ってきた事で一息付く。手元に置いてある報告書を眺めながらどうしたものかと頭を働かせる。
「木ノ下本部長。今回の件、いかように?」
「....柳瀬はどこに?」
「今日は自分のお店にいるようです」
「至急連絡してくれ。また面倒な事になりそうだ」
「了解しました」
その頃柳瀬はと言うと....
「何か嫌な予感が⁉︎」
「どうしたんですか?」
「いや、何か良くないことが起こりそうな予感が」
「ちょ、縁起でもないことやめてくださいよ」
「そろそろ志原辺りから電話がある気が....」
「まさかそんな事」
その時、カウンターの上に置いてある柳瀬の端末が着信を知らせる。牧人と顔を見合わせた柳瀬は恐る恐る画面の表示を確認する。
「「あっ....」」
そこには志原紫の文字が。流石に出ないわけにはいかないと、お店の事を牧人に任せ少し離れた場所に移動する。
「.....はい」
「柳瀬先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様。今日はこっちの日の筈だけど?」
「至急連絡したい事が。昨夜の件です」
「それに関しては詳しい話を聞いてないけど」
「詳細につきましては、この後送る資料に目を通しておいてください」
「分かった。それで、要件は?」
「木ノ下本部長がお呼びです。至急こちらまで来てください」
「....今から?」
「今からです」
「了解。少し時間が掛かるけど、お昼前にはそっちに行くよ」
「分かりました。木ノ下本部長にもその様に伝えておきます」
「それじゃあ」
「はい、失礼します」
「はぁ....」
お店に戻り、作業をしている牧人を呼ぶと今日はもう店じまいする事を説明する。開店準備の途中で店じまいとはこれいかに。
苦笑しながらも見送ってくれる牧人に癒されながら、戸締まりを確認してお店を後にした。
乗らない気分のまま防衛省に着くと、気分を切り替え本部へ向かう。予定より少し早く着いてしまったが、問題ないだろうと足を進める。
「おはようございます」
「おはよう」
本部へ入るとデスクで作業していた数名がこちらに気づき、挨拶をしてくれる。それを返しながら本部長室の扉をノックする。
「どうぞ」
中から声が聞こえ、扉を開けて中に入ると疲れた様子の木ノ下がいた。
「柳瀬か。すまんな、いきなり呼び出して」
「それは別に良いけど、何があった?」
「昨晩の事件、資料は読んだか?」
「まだだけど、それがなにか?」
「今すぐ見てくれ。話はそれからだ」
「分かった。少し待っててくれ」
端末を開き、紫原から送られた資料を読んでいく。コーヒーを飲みながらその様子を見ていた木ノ下は、柳瀬の表情が徐々に険しいものに変わっていくのを見ていた。
10分ほどで読み終わったのか、端末を閉じ、木ノ下が淹れたコーヒーを飲んで一言。
「マジヤバ」
「だろう?」
「まさか一ノ瀬の脱獄とは....」
「手引きしたのも、アイツの仲間だろうな」
「でも、何でアイツが....」
「それは、本人に直接会って問いただすしかないだろう」
「でも少し変なんだよな。夏楽ちゃんから聞いた話からすると、どうにも俺が知ってるのと違う点が」
「それは私も感じていた。だか、少なくとも無関係というわけではないだろう」
「だよな。それで、俺はどうすれば?」
「当分は此方での仕事を頼む」
「この事は夏楽ちゃん達には?」
「この事件自体が機密事項に指定されている。話すのは得策ではない」
「上が考えてる事はいつも一緒か」
「不祥事は避けたいのだろう」
2人であれこれと話し合っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「本部長、志原です」
「入ってくれ」
「失礼します」
入って来た志原は一枚の封筒を持っており、それを木ノ下へと渡すと柳瀬の隣に座った。
「志原、あれは?」
「本部長に頼まれていたものです。今回の主犯の手掛かりが」
「ふむ....」
封筒の中に入っていたのは2枚の写真とUSB。早速中を確認する為にUSBを端末へと繋げる。その中を確認している木下を他所に志原に新しいコーヒーを淹れてもらい、2人でのんびりとしていると中の確認が終わったのか開いている画面をこちらに向けて来た。
「柳瀬、志原、2人も中を見ておいてくれ。それとこの写真だが、写っている人物の詳細はどうなっている?」
「1人は椎名真奈。元海洋実働隊所属で、今はフリーの傭兵モドキをやっております」
「この人、この前の」
「お前が戦ったと言っていた人物か?」
「うん。海洋実働隊所属だったのか。道理で強いわけだ」
「もう1人ですが、詳細は不明。こちらのデータベースに情報が無いとなると一般人かと」
「見た目的には高校生っぽいけど....」
「志原、もう1人の情報をわかる範囲でいい。洗っておいてくれ」
「了解しました」
「柳瀬、椎名真奈の事だが」
「昔の知り合いに当たってみるよ」
「頼む。それでは各自、行動開始」
「「了解!」」




