14話「少しの興味」
「ふ、ふふんふん♪」
「.....よし。それで、何かいい事あったのか?」
上機嫌な様子の夏楽に作業の手を止める牧人。
部屋に入ってきた時からいつもとは違う様子には気付いていたが、自分の作業を優先しようと手元に集中し直す。区切りがいい所まで終わらせると夏楽に理由を聞く。
「実は、今日修習所で仲良くなった子がいるんだ!」
「へー、どんな子なんだ?」
「銀成学院に通ってる安納凛ちゃんって言うんだけど、すっごく可愛いの!それでそれで、射撃もすっごく上手なの!」
「安納....どこかで聞いた様な?」
「どうしたの?」
「んー.....夏楽、その子って兄妹いるか?」
「兄妹?それは聞いてないけど、どうして?」
「お金持ちで、安納って苗字に聞き覚えがあってな。えーっと、確かこれに」
本棚から『月刊GUN SHOT』を最新号から何冊か取り出し、ペラペラと何かを探す様にページを捲る。意外に早く見つかったのか、二冊目の途中で手を止める。
「あったあった。これだよ」
牧人が見せたページにはある選手の特集が組まれており、1人の女性が写っていた。
「PMG銀メダル、安納花蓮選手の軌跡ってこの人....」
「機導銃の大手メーカーANU社の令嬢で、PMG若手のホープ。最近CMで見ないか?あの有名なスポーツドリンクのやつ」
「見た事ある。でもこの人が凛ちゃんのお姉さん?」
「まあ、苗字が同じってだけの可能性もあるけど、銀成学院に通ってるならもしかしたらな?」
「はー....今度会ったとき聞いてみる」
「そうしてくれ」
その後も習った所で分からなかった箇所を聞いたり、射撃のコツを聞きながら1日が終わった。
翌日。いつも通り学校終わりに修習所へ行き、休憩スペースへと足を進めるとコーヒーを飲んでいる凛を見つけた。
「凛ちゃん、やっほー!」
「こんにちは、夏楽」
「ねえねえ凛ちゃん、昨日お兄ちゃんから聞いたんだけど安納花蓮って人知ってる?」
「っ!......えぇ、知ってるわ」
「もしかして、お姉さんとか?」
「.....そうよ」
「そうなんだ」
「えぇ....」
「・・・」
「・・・」
「・・・?」
「・・・?えっと、それだけ?」
「うん?そうだけど?」
「姉さんの話が聞きたいとか....」
「別に?」
「サインが欲しいとか紹介して欲しいとか....」
「全然知らない人のサイン貰ってもね?会ってみたくはあるけど、どうしても会いたいって訳でもないし」
「なら、何で姉さんの事....?」
「昨日お兄ちゃんに、花蓮さんと凛ちゃんが兄妹かもしれないって言われて、気になって聞いただけだよ?」
「ほ、本当に?」
「うん。あ、そうそう、昨日お兄ちゃんに射撃のコツ聞いたんだけど擬音ばっかでよく分かんなくて。凛ちゃんはどうやってあんなに的に当ててるの?」
「え、ええ。それはねーーー」
今まで凛の周りには常に花蓮の名前が付き纏っていた。
『君のお姉さんは優秀だね』
『こんな事も出来ないのか?君のお姉さんはすぐに出来たのに』
『花蓮様の妹なの⁉︎あの方は普段家でどんな風に過ごしてるの?』
『花蓮様に紹介してくれない?私達友達でしょ?』
どんな時でも姉と比べられ、近づいてくる人は私を通して姉を見ていた。誰も彼もが自分を見てくれない。安納の名と花蓮の存在。そればかりを求めて近づいてくる人に嫌気がさした。段々と誰も近づかない様に振る舞うのが癖になり、学校でも孤立気味になったがどうでも良かった。
学院から離れた場所の修習所に通っているのも知り合いに見られて比べられたくなかった為。
「それで、撃つごとに修正してるんだけど思った場所に全然当たらなくて」
「撃った時の銃口のブレが押さえられてないんだと思う。いつもより強めに握ってみたら良いんじゃない?」
でも、夏楽に声を掛けられて、普段ならすぐに断っていたけど落とし物を教えてもらったから少しだけならとお話をして。楽しかった。同じ歳の子と家の事も姉の事も関係なく話しているのはとても楽しかった。
だからこそ、夏楽から姉の名前が出た時は驚いた。あぁ、やっぱり彼女も他の人と変わらないのかと。でも違った。姉は有名人で、誰もが近付きたがるのに。
「でさー、この前の小テストなんかすごいボロボロで。先生に勉強しろって言われちゃった」
「夏楽はあんまり勉強は得意では無いの?」
「違うの!その時はたまたま!たまたま出来なかっただけ!」
「学生の本分は勉強よ?」
「う〜、凛ちゃんがイジメる〜」
本当に不思議。姉のことを聞いた理由が気になっただけって。それに気が付いたら、話の事も普段の学校の事や美味しいお店などの他愛無い話になってる。みんながみんな、夏楽みたいなら良いのに。
そんな事を考えながら、それはそれで大変ね、と一人心の中で笑う。
「あ、そろそろ時間だ。行こ、凛ちゃん」
「ええ」
ーーーーーー
「ただいま」
「おかえりなさいませ、凛お嬢様」
「ええ、ただいま。姉さんは?」
「花蓮お嬢様ならお部屋におります」
「そう。お父様とお母様は?」
「旦那様は本日のお昼からイギリスへ。奥様は新たなデザイン作成の為会社におります」
「ありがとう。私も部屋に戻るわ」
「承知致しました」
長い廊下を歩き、自分の部屋へと向かっている途中、ガチャリとドアが開く音が聞こえ、そこから姉さんが出てきた。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま」
「凛、最近何かあった?」
「.....いきなりどうしたの、姉さん?」
「いいえ、なんにも無いなら良いけど....少し気になっただけよ」
「そう、なら私は部屋に戻るわ」
「あっ....」
何か、姉さんが言いたそうにしていたが私はそれに気付かないふりをして部屋に戻った。
「ふぅ....いけない、またあんな態度を....」
どうにも姉に素っ気ない態度をしてしまう自分に嫌気がさす。周りからの姉への態度と執着に、いつからあんな態度を取る様になってしまったのかと改めて考える。昔は良かった。何の確執も無く、2人で笑い合った日々が。いつからだろう。姉に追い付かなければと思う様になったのは。
「少し休もう」
ベッドへと倒れ込み目を瞑る。起きてからの予定を頭の中で確認すると、少しばかりの眠気に誘われた。それを受け入れる様に意識は落ちていった。
ーーーーーー
「牧兄」
「今日はどうした?」
「昨日の事、今日凛ちゃんに聞いてきた」
「お、早いな。それで、どうだった?」
「牧兄の言った通りだった」
「ふ〜ん」
「うん。それだけ」
「良くやったぞ夏楽。褒美に、冷蔵庫にある俺のプリンをくれてやろう」
「やった!ありがと牧兄!」




