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第七話 勇気

 本格的な梅雨入りが始まったらしく、雨の日が続いた。


 今日は検査の日だから転生少女たちは家にやって来ない。


 スマホを片手にダラダラしているとインターホンが鳴った。


 一人暮らしでアポイントのない客が来たら居留守が最適解だと聞いたことがある。俺が躊躇しているとまたインターホンが鳴った。億劫だが対応するか。




 玄関のドアを開くと、以前家にやって来た中年女性が居た。確か名前はさちこさん。


「こんにちは、この前は取り乱してしまってごめんなさい」女性は頭を下げた。


「いえ、動揺されても仕方がないですよ」女性は紙袋を渡してきた。


「あの時は、無意識にこの家に来ちゃって、手ぶらだったの」俺は紙袋を受け取った。


「家に上がってもいいかしら?」そう言われて俺は迷った。


 この女性はやよいさんに嫌われているし、この前のヒステリーな印象が怖い。


「どうぞ上がってください」だけど俺は伯父の縁を大事にしたいと思った。




「本当にタカヒロさんは亡くなったのね…」さちこさんを居間のテーブルへ案内し、渡された紙袋のまんじゅうと冷蔵庫のお茶を出した。


「半年前に、脳卒中だったらしいです」


「そう…やよいちゃんが嘘をついたと思いたかった…」さちこさんは懐かしむように部屋を眺めた。


「俺、伯父とは小学生の頃くらいしか接点が無くて何も知らないんですが」


「伯父とはどのくらい付き合っていたんですか?」転生少女のみんなとは伯父の話を長々と話したことは無い。いつも作業やゲームをやりながら他愛もない話をするだけだから。


「二年間付き合っていたわ。四年前に、私が体調不良で道路脇に蹲っていたら、彼が病院へ連れて行ってくれたの。それから合うようになって」さちこさんは伯父との馴れ初めを話してくれた。


 話を聞いて受けた伯父の印象は、真面目で正義感はあるけど、私生活は怠惰で受動的。少々耳が痛い話だ。


 さちこさんも転生少女達とは上手くやっていたらしい。


「お付き合いして一年目にプロポーズをされたのだけど。断っちゃった。彼はちゃんとした仕事に就いていなくて、稼ぎが少なかったから」この家を見る限り貧乏な暮らしをしていたようには思えない。漫画やゲームが沢山あるし、空気清浄機やランニングマシーンなども充実している。


「伯父はどんな仕事をしていたんですが?」


「知り合いの紹介で運送系のアルバイトをしていたわ」


「伯父は家を待っていましたし、それなりに稼いでいたと思っていました」


「それは彼が私と付き合うまで転生少女候補者だったからよ」


「えっ?候補?」初めて聞く言葉だ。


「モニタリングの見返りに補助金を貰えていたみたいね。家もその関係で手に入れたのよ」政府はそんな事をしていたのか。


「やよいちゃんが私に冷たくする気持ちがわかるわ。もし彼が転生できていれば、今でもこの街であの子達と楽しく暮らしていたのでしょうね」さちこさんはニッコリと微笑んだ。


「あら、もうこんな時間ね。夕飯を作ってあげるわ」


「いえ、俺がここに住んでいるのは自立をするためなので。そろそろ買い出しへ出ます」俺は席を立ち、玄関へ向かった。


「またお邪魔してもいいかしら?」この人は何が目的なのだろう?今日の話で、この人がやよいさんの事を嫌っている事は理解した。


「伯父の話が聞けて良かったです。ですが、もう来ないでください」俺はきっぱりと拒絶した。


「貴方もあの子達に弄ばれるたけよ」そう言ってさちこさんは去っていった。





 朝の公園で、俺はブランコに座り揺られている。


 昨日はさちこさんを家に入れるべきでは無かった。あの時感じた悪意とやよいさんへの背徳感。


 転生少女の誰かと遭遇したら気が晴れると思って出かけたが遭遇無し。


 この際、ブルマの件で話しかけられてもいいから転生少女を感じたい。


「やっぱ、おじさんのほうが心が落ち着く」おばさんは苦手かもしれない。


「あらあら、悩み事ですか?」「うぉっ!」振り返ろうとしたら、ブランコが大きく揺れて投げ出されそうになった。


「急に声をかけてごめんなさい。手を振っていたのだけど見えていなかったのね」「館林さん、おはようございます。大丈夫です。気にしないでください」館林さんは隣のブランコに座った。


「おはようございます。片品さん。ここは平気ですけど、公園によっては大人が遊具を使うことを禁止している事があるので注意してくださいね」そう言うと館林さんはブランコをゆっくり漕ぎ出した。


「はい。注意します」俺も真似してブランコを漕ぎ出す。無言で揺れる二人。


「あの、実は」今日の事を館林さんに話す。


「そんな事が。大変でしたね。やよいさんはむしろ喜ぶと思いますよ」館林さんはこちらへ手を伸ばそうとしたが、拳を軽く握り引っ込めた。


「片品さんは結果、その女性を拒絶したのですから」他人を否定するのは心が酷く痛んだ。


「誰かに嫌われる事は勇気がいることです。頑張りましたね」


「俺はただ、やよいさんへの悪意が許せなかっただけです。勘違いだったかもしれないけど」自分の被害妄想壁が嫌になる。


「片品さんをそんな風に悩ませるなんて、その女性は悪い人です」館林さんは立ち上がり俺の背中を強く押した。


 ブランコがゆっくり前に流れて、後ろに戻り、また背中が強く押された。


「ふふ、こんな事をするのは子供の頃以来です」館林さんは笑った。俺も何だか可笑しくなってきた。




 家にやって来たやよいさんに、さちこさんとの件を打ち明けると「よくやった」と一言帰ってきた。それだけだったけど、心做しかやよいさんが微笑んだ気がする。

挿絵(By みてみん)

ミュージックビデオとプロモーションビデオがあるので、

よろしければ「変態少女化現象」もしくは「転生少女保護区」で検索してみてください。

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