第五話 新たなる敵
野球大会の翌日。家で皆とゲームをしていたらインターホンが鳴った。
俺が対応に行くと開いたドアの先には館林さんの姿があった。
「片品さん、こんにちは、皆さん来ていますか?」館林さんが家に来るのは初めてだ。少し緊張する。
「館林さんこんにちは、みんな来ていますよ。どうぞ上がってください」館林さんを居間に招くと。
「これは寮長殿、ささっ奥の席へ。皆の者ゲームは中断じゃ」ヤスミンさんがみつるさんを退かして席へ案内した。
俺も折りたたみ椅子を出して着席する。何か始まるのか?
「今日は第二寮と第三寮の大会の審判をしてきました」野球大会は試合のない寮が審判を出す決まりだと聞いている。
「結果は第三寮が勝ちました。五回コールドゲームです」小さなどよめきが湧いた。
「あり得ないっす。あの超インドア集団が勝つなんて不可能っす」
「計略で覆せる力の差じゃないお。どうなっているんだお?」戸惑う二人を横目にヤスミンさんだけが不敵に笑みを見せた。
「新たなる強敵と言う事じゃな」
「そうです。今年から試験的に第三寮で留学制度を始めたのですが。選出に作為が有ったようで受け入れた留学生十人中九人が野球経験者でした」スタメン全員が野球経験者と言う事か。
「ユウサク、作戦を考えて」黙っていたやよいさんが微笑を湛えて言った。
「皆さん嬉しそうですが…ルールは守ってくださいね」嬉しそうにそう言った館林さんも負ける気は無いらしい。
そしてユウさんが徐に手を上げた。
「いい案が浮かんだっす。この作戦はショウちんの協力が必要っす」
今回も俺は体育館の選手席で試合を見る事になった。
「やよやよ出番っす」一回表の攻撃。ユウさんが合図をするとやよいさんはサングラスとジャージを脱いだ。
バッターボックスへ向うやよいさんはジャージの下に黒いホットパンツのような物を履いていた。
敵味方双方がどよめき、視線が集まる。
あれは昨日、俺が保護区から下山して買いに行ったコスプレ衣装だ。やよいさんの白い腿が眩しい。
「名付けて美少女ブルマ作戦っす」ユウさんの言葉に館林さんは渋い顔をした。
ブルマとは古の時代の兵器だと説明を受けたが、俺にはヤスミンさんがいつも履いているパンツとの違いはわからなかった。
その効果があったのかやよいさんは出塁をした。牽制の必要はないのにピッチャーの人がやよいさんを何度も確認している。
続く館林さんもヒットを放ち。ヤスミンさんのツーベースで一点先制。その後も続けて三点取ることが出来た。
「何が起きているんでしょうか?」疑問をユウさんへ投げる。
「青い記憶ってやつっす」「転生少女の美少女はやよい氏だけなんだお。美少女にブルマを装備させたら中年男性は萌死ぬんだお」みつるさんが補足を入れてくれたがよくわからない。
防御の回になると、やよいさんは前進守備位置にいた。バッターの視線がやよいさんに逸れる。ピッチャーの館林さんはストライクを刻んで三者凡退。
その後も多少のヒットは打たれたが無失点に抑え、四回からヤスミンさんが投げ、八点のリードで五回裏に入った。そこからの防衛で乾いた音が連続で響き、一点取られてしまった。
「正気に戻ってきたみたいっすね」そう言ってユウさんは携帯を片手にどこかへ行った。
何とか抑えてはいるが、回を重ねるごとに点差は縮まって行く。
九回の攻撃は不発に終わり残り二点差。
最後の防御回、このピンチをしのげるのだろうか?
不安な中、緑髪の少女が視界の隅に入った。
ユウさんが体育館の入口から入ってきた少女を出迎えている。あれはオミクロンさんだ。
まさかオミクロンさんが仲間に?と期待したがルール上あり得ない。ユウさんはオミクロンさんを敵陣へ連れて行った。
「ふむ、流石は我寮の軍師、抜かりはないようじゃな」ヤスミンさんがみつるさんのお菓子を食べ始めた。あとはやよいさんに任せるしか無い。
そして九回裏、最後の戦いが始まる。
「流石だわ、ヤスミン。あの強者達と互角に戦うなんて」オミクロンさんがこちらのベンチへやってきて賛辞を述べた。
「お主には借りが出来たようじゃな」ヤスミンさんは一歩下がりながら返答した。オミクロンさんは借りの意味がわからず困惑気味だ。
「結局、何が起きたんですか?」コスプレ組二人を横目に、俺はユウさんに質問をした。
「オミクロン爆弾っす。留学組に野球仲間を紹介してあげただけっすよ?」
「爆弾と言っているじゃないですか…」四天王の臭気で目を潰したのか。
ちなみにオミクロンさんの名前はウイルスじゃなくて星の名前が由来らしい。
「なにともあれ、オミクロン最強っす!胴上げはくさ…危ないからオミクロンコールっす」「「オミクロン!オミクロン!」」事情を察したメンバーが出を叩きながらオミクロンコールが始まった。
「えっ?何?!恥ずかしいからやめて!」オミクロンさんは逃げて行った。
「ショウもありがとう」やよいさんが笑顔で言った。時折見せる邪悪なエミとは違って心底嬉しそうだ。
皆で勝利を噛みしめる。自転車を往復二時間漕いだ甲斐があった。
その晩。
「どうすればいいんだ?」大会後は寮で祝勝会をやるらしく、そこで転生少女の面々とは別れたが、晩飯を終える頃にインターホンが鳴り、いつもの面子が酒を片手に家へやってきた。
「ごめんお。皆がショウ氏とも祝いたいって聞かなかったんだお」みつるさんはお酒が飲めないらしくシラフだ。やよいさんとヤスミンさんは床で倒れている。
「一緒にお風呂に入ろうっす」ユウさんはいつもの以上に絡んでくる。頼みのやよいさんはスカートがめくれてだらしない姿を晒し、マントを外した半裸に近いヤスミンさんにも目が行ってしまう。
「ショウちん、こんやは寝かさないっす」ユウさんの唇が迫ってくる。俺はユウさんの頭を掴んで防ごうとするが、ものすごい力だ。抑える腕が震える。
「みつるさん!助けてください!」みつるさんは笑顔のままお菓子を咀嚼し微動だにしない。終わったと思った。初めてはせめてもう少し可愛い子が良かった。
不意にイチゴの香りがし、カラスの鳴き声の様な悲鳴が轟き、ユウさんが床でのたうった。
いつの間にか、やよいさんが側に居た。
「エッチなのはダメ」キャミソールの肩紐がずれていますよ。
ユウさんの絶叫でヤスミンさんは目覚め、ユウさんも痛みで酔が冷めたらしい。
賑やかな一時が終わり四人は帰って行った。結局、酔っ払いの相手をしただけだけど、俺も役に立てて嬉しかった。




