第三話 たまり場
「妾のターン、ドロー!魔法カード腐海を発動!闇属性以外のモンスターは墓地へ送られる」居間ではヤスミンさんとユウさんがカードゲームで盛り上がっている。その傍らではみつるさんが肉まんを頬張り、俺の向かいではやよいさんが読書をしている。
「掛かったっすね!トラップカード死屍累々。このカードは1ターンに3体以上墓地へ送られると発動するっす。モンスターを特殊召喚し、即時攻撃可能っす」「なん、じゃと!」
「モンスターツイフェミンを召喚、滅びのババアストリー厶!!」「ぬおぉ!」ヤスミンさんが崩れ落ち、場が静かになった。
「あの、やよいさん。今日も何か教えてくれるんですか?」やよいさんは首を少し振った。
「次はヤスミンさんかオミクロンさんが担当かと予想していたんですけどね」
「やすしはいずれ使う。けんたは第二寮住まいで、歳が二周り離れているから交流がない」けんたとはオミクロンさんの事だろう。
「オミクロンは四天王最強の矛じゃ、奴の瘴気は浄化装置では抑えられん」ヤスミンさんが立ち直りこちらへやってきた。
「四天王が揃えばあの厄災を繰り返しかねんぞ」例の臭人蠱毒事件か。既に三人揃っていますが。
「中学の頃、女子を臭いと思わなかったんてすが、転生少女は臭いが特別強いのでしょうか?」ヤスミンさんはみつるさんを見て顎をしゃくった。
「転生少女は転生前の能力を部分的に引き継ぐんだお。体臭は転生前とほぼ同じ、体重も純少女より大分重いお」以前、ヤスミンさんを背負った時を思い出す。
「それでヤスミンさんが重かったのか」
「若者が嫌うモスキート音も聞こえないっすね。見た目は子供で中身は中年、人体の不思議っす」おじさんの匂いがする少女か。少女に囲まれるシチュエーションは良いのだけれど、純粋に喜べない。
次の日も転生少女四人は俺の家へやってきてゲームをしたり食事を取ったりしていた。完全にたまり場になっている。
「伯父が居たころもこんな感じだったんですか?」向かいに居るやよいさんに問いかける。
「こんな感じだった」やよいさんはタブレットから視線を外さずに答えた。
「みんなここの鍵を持っていたりしますか?」
「私だけ」やよいさんだけならいいか。やよいさんはタブレットを置いて俺を見つめてきた。
「明日は仕事があるから誰も来ない。昼に起きて夜に寝る生活を心がけて」
「わかりました。仕事をしていたんですね」全員ニートかと思っていたから、ちょっとショック。
「仕事と言っても大学病院で検査を受けるだけだお」肉まんを手にしたみつるさんが説明をしてくれた。
保護区に住む転生少女は全員研究に協力しているらしい。
「エッチな事とかはされないんで安心してほしいっす」ユウさんが俺の前へ顔を突き出した。
次の日。久々に静かな一日を過ごした。コンビニやスーパーへ行っても転生少女は見かけなかった。
引きこもって居た頃は一日中ネットでアニメや漫画を読み耽っていたが、今はそんな気になれず、転生少女について調べる事が増えた。
大半は都市伝説のような出所不明の情報だ。
転生少女は不老。転生少女はキスをすると魔法が解ける。不老なのは事実だと思うがキスで変態が解けるとは思えない。ユウさんは唇が触れそうになるくらい接近してくる。
転生少女は病気にならない。転生少女は魔法が使える。
みつるさんの行動から推測すると病気にならない可能性はある。魔法は流石に無いだろう。ネットの情報はこの程度か。
転生少女に関する情報は管制下にあり、写真や個人情報を流布すると警察の厄介になる。保護区への立ち入りはかなり厳しく、ユーチューバーが拘禁刑になった事もある。
ネットの情報よりも俺のほうが転生少女に詳しいな。優越感に浸りながら布団へ入った。
翌日も転生少女四人が集まった。
四人までのゲームをするときはみつるさんがお菓子を片手にナビ役を努めてくれる。
インターホンが鳴ったので俺のコントローラをみつるさんに渡して玄関へ向かった。保護区は訪問販売が禁止されていて、セールスが来ることは無い。
ドアを開けると、背の高い中年女性が佇んでいた。女性は俺を見て一瞬目を見開き驚いた仕草をしたが、すぐに笑顔になった。
「こちらは片品さんの御宅でしょうか?」
「はい、そうです」
「タカヒロさんは御在宅でしょうか?」伯父の知り合いだろうか。気が重いが伯父が他界したことを伝えなければ。
「伯父は、いえ、タカヒロさんは半年前に」「タカヒロは死んだ」やよいさんが玄関へやってきて叔父の死を告げた。
「うそ…」やよいさんの言葉を受けて女性はしゃがみこんでしまった。
「大丈夫ですか?」俺が女性に近寄ろうとしたら、襟首を引っ張られて止められた。
「タカヒロはここには居ない。帰って」やよいさんが冷たく言い放つ。
「たっくんが居ないのなら、どうして、やよいちゃんはここに居るの?」女性はうつむいたまま、くぐもった声で言った。
「私はタカヒロに頼まれた。甥っ子の面倒を見てほしいと」
「なら、わたしにも手伝わせて」女性は立ち上がり俺を見つめた。
「さちこはタカヒロに頼まれていない。さちこがタカヒロを捨てたのだから」この女性は伯父の元恋人なのか。
「誰も愛せないくせに!知ったようなこと言わないでよ!」女性はやよいさんを睨みつけ大声を張り上げた。
「そうかもしれない、でも、さちこも同じ、誰も愛せないから独り」「わたしの心にはいつもたっくんがいたわ!恋愛は単純じゃないのよ!やよいちゃんはいつも、彼の心に居座って愛だけ受けて何も返さない。いつまで彼の優しさにつけこむの?わたしだって」「何やら騒がしいと思えば、お主は確かタカヒロの母君じゃったな。久しいのう」ヤスミンさんが現れて剣幕が止んだ。
女性は引きつった表情でヤスミンさんを睨む。
「ヤッサン、その方はタカチンの元カノっすよ」ユウさんが間違いを指摘すると。
「そりゃ五歳年上ですけど!たっくんがいい歳して前髪下ろしたままデートをするし!子供みたいにうろつくから、親子に間違われるのよ!それから」女性の逆鱗に触れてしまったらしく剣幕がよりいっそう激しくなる。
言葉で御せないと察したやよいさんがヤスミンさんのマントを掴んで仰ぎ始めた。仰いだ風は女性へ流れる。
「げっほっ!げほっ!ひっぃ!」漂うカレー臭に女性は逃げて行った。
「うむ、何やら悪いことをしてしまったな。スライムの年齢など判断つかぬのでな」「ヤッサン、グッジョブっす!あれはもう二度とこないっすよ」肩を落とすヤスミンさんを笑いながら叩くユウさん。その影で、やよいさんが微笑むのを見た。めちゃくちゃ可愛いけど邪悪な気配を感じるのは気のせいだろうか。
伯父を捨てた女性。雰囲気的にやよいさんは嫌っていそうだ。
追い返して可愛そうな気がした。
「優しさにつけこんでくるのは悪人」やよいさんが俺の手を引いた。




