第十五話 死闘
転生少女保護区唯一の体育館内にはテーブルと椅子が並べられていた。
「今回はオイラとみつるんが活躍するターンっす」ユウさんは自信げだ。
今日は転生少女の対戦型カード大会に連れて来られた。
非公式の大会で、省庁の人も関与していない。スポーツで不利な第三寮向けに行っている大会らしい。
「やよいさんは何故出禁なのでしょうか?」「カード好きの多くが、例の事件の被害者だからだお」臭い人達を閉じ込めたアレか。みつるさんはいつもと違う光沢のあるジャージを着ている。
「我ら四天王は今年から参加が解禁されたのじゃ。オミクロンはメンコ世代だから関係ないがのう」あの剛腕でメンコをやったら強そうだな。
大会は予選リーグから始まり、本戦はトーナメント形式になる。館林さんが進行役を務めていた。
「妾は所詮、四天王最弱じゃ…」ヤスミンさんだけが予選で負けてしまった。
「ショウちん、ここでオイラの戦いを見て欲しいっす。多分オイラの初戦の相手が例の奴っす」ユウさんが危惧しているのは留学生十人の中の最後の一人。
ユウさんが席につくと、向かいの席にフードを目深に被った人が座った。
「輪廻の先で、貴様とまた相まみえようとは」ユウさんの相手が上着を脱いで顔が顕になると、玉ねぎが腐ったような臭いが漂ってきた。
「その顔、この臭い。覚えがあるっす!まさかっ!シュウシュウ王!?」
この金髪の少年風の転生少女はユウさんの知り合いなのか。
「ブレイカー、いや、今生では四天王最強の臭人、不潔のミドルピローユウサクで通っているようだな」
「臭臭王さとし…カード大会で何度も戦ったっすね」ユウさん、ライバルキャラが来てくれて良かったですね。
「貴様に何度大会を壊されたことか。破壊する者め」そしてサイが振られた。
「我のターン、ドロー!魔法カード魂の浄化を発動。二千ライフを代償に墓地を永久消滅させる」ここで展開が大きく動いた。互いに使用したカードが再利用出来なくなりデッキが徐々に小さくなる。
「くっ、墓地デッキが潰されたっす。ゲホッゲホッ」
思うようにカードを出せなくなったユウさんはダメージを受け続ける。
強烈な玉ねぎ臭によるダメージも影響しているようだ。俺も気分が悪くなってきた。
「四天王最強がこの程度か?大会を中止にするほどのかつての覇気はどうした?」
「今のオイラに四天王の力は無いっす。たけど、今のオイラには仲間がいるっす。たとえここで倒れても、仲間がお前を討ってくれるっす…」ユウさんのライフは残りわずかだ。
「王は一人だけでよい。我が四天王を全員葬ってやろう」臭臭王は不敵な笑みを浮かべた。
「モンスター、エックスフェミンを召喚っす!滅びのババアスプラーッシュ!」
「ぐぁぁあ!!」崩れ落ちる臭臭王。結局、ユウさんが勝利した。
「何故だ?無味無臭の凡俗と化した貴様が何故強い?」
「オイラはカードに勝つために臭くなったんじゃないっす。風呂と洗濯を忘れるくらいカードが好きなだけっす!」ユウさんの言葉に衝撃を受ける臭臭王。
「我の負けだ。今は貴様が強い。だが覚えておけ、強い力は戦いを呼ぶものだ」臭臭王はカードを片付けて去っていった。
俺も気分が悪いので屋外に出て休むことにする。
カード大会は準決勝まで進み、ユウさんとみつるさんは勝ち進んた。
ユウさんの次の相手は鋭い目つきの青髪の少女だった。
「第三寮の首魁、アキさん久しぶりぶりっす」「首魁ではなく寮長だ。さとし君は期待外れだった」この人が第三寮に留学生を呼び込んだのか。
「さとしは強いっすよ。こんな平和な大会じゃ、力を活かせないだけっす」「君が俺に勝てたなら、評価を改めてやろう」戦いが始まった。
「モンスター、ツイフェミンを特殊召喚っす!滅びのババアストリーム!」ユウさんの得意コンボが決まった。はずだった。
「トラップカード、フリークスカウンター。このカードは特殊召喚に対して発動できる。相手から受けたダメージの半分を相手に与える」お互いのライフがゼロになった。
「相打ちは後手の勝利っす…」ユウさんは負けた。
「君の力はこんなものか、期待外れだ。毎年、俺が優勝するたびに四天王さえいればと負け惜しみする輩がいたが、今日でその言い訳は出来なくなるな」
「まだっす。オイラは力を失ったけど、仲間が出来たっす。みつるんが仇を討ってくれるっす!」奥の席が騒ぎ、みつるさんが勝利したのが見えた。
決勝戦が始まった。
第三寮の寮長アキさんは毎年優勝している強者だ。みつるさんの実力はユウさんと同じ位だったはず。
「みつるん、背中が汚れているっすよ」みつるさんは背中を見ようと首を回した。
「見えないお」「上着を脱ぐッす。シミは早めに処理しないとっす」ユウさんがみつるさんの上着を奪った。その瞬間、肉まんの臭いが周囲を満たした。
「みつるんの封印を解いたっす。四天王の力を思い知るっす」「返してくれお。いつもの上着と薬を隠したのユウ氏だお?」アキさんは眉間にシワを寄せながら手を上げた。
「審判、公衆衛生に問題がある人物は退場させるべきだ」審判の館林さんは悩みながら後ずさる。
「異議ありっす。臭臭王さとしを連れてきた第三寮にも責任があるっす。お前が始めた戦いっす」ユウさんが反論した。
「意義を認めます。精一杯戦ってください」館林さんはそう言いながら離れていく。
「君は部下に甘すぎる。うっ!」えづくアキさん。俺も吐きそうだ。
戦いは熾烈を極めた。
「いくのじゃ!みつる!」「四天王の力を見せるっす!」「二人ともうるさいお…」俺と四天王以外の転生少女たちは遠巻きに観戦している。四天王達は臭いに耐性があるようだ。
「硬いな。だが俺は負けん。うぇっぷっ…」アキさんの方が優勢に見えるが、みつるさんへダメージが通らない。
持久戦になればアキさんの精神が決壊する方が早いかもしれない。
外野から折りたたまれたビニール袋が投げ込まれた。
「負けるな寮長!」「アキさん頑張れ!」観戦者達のアキさんへのエールがだんだんと増えてゆく。
「俺のターン、ドロー。三体のモンスターを生贄にオオクニヌシを召喚!場にいる全てのモンスターを攻撃!」「神のカードじゃと!?」「こいつは魔法じゃ破壊できないっす」ヤスミンさんとユウさんが狼狽える。みつるさんのモンスターは全て破壊され大ダメージを受けた。
「トラップカード死屍累々だお!ポイズンスライムを特殊召喚。このカードはプレイヤーのライフを直接攻撃できるお」みつるさんの反撃でお互いに瀕死になった。
「くっ、トラップカードを置いてターンエンドだ。おぇっ」アキさんが苦しげにえづくと、みつるさんは目を閉じて大きく息をはいた。
「僕のターン、ドロー。魔法カード台風19号を発動だお。自陣敵陣のトラップを全て破壊だお」場に残されたのは神とスライムだけになった。
「ポイズンスライムでプレイヤーを直接攻撃だお…」みつるさんの静かな宣言とともにアキさんのライフはゼロになった。
会場は静まり返り、アキさんはガクリと机に突っ伏した。
「渋川さんの優勝です!」館林さんの一声で、会場は再び賑やかになり、少女たちがアキさんを称賛しながら屋外へ運んでいった。
会場に残されたのは四天王の三人と俺。完全にこちらが悪役だ。
「よくやったのう、今宵は祝杯じゃ!」「オイラの仇を討ってくれてカンゲキっす!」ユウさんとヤスミンさんは周囲を気にせず大喜びだ。
「普通に戦いたかったお…」
その後、四天王はまた出場禁止になった。
アキさんは勇者アキと呼ばれるようになり、嫌がる素振りを見せつつ、皆に慕われて満更ではないようだった。
それと何故か俺はブルマ王とかブルマ大魔王と呼ばれるようになっていた。後で観戦していただけなのに。




