第十四話 駆ける再び
「つまりショウニーは、女子二人を家に泊めているわけか。一人暮らしは羨ましいぜ」朝から駆がやって来た。居間には俺とカケルとみつるさんが居る。
「家出少女を連れ込んだみたいに言うなよ。保護者とその姪っ子なんだから」
「俺の部屋は隣が煩くて、友達は呼べねーし、勉強も身が入らないぜ」つばさと暮らしている件は同情する。
「いつでも遊びに来いよ。今日は布団が足りなくて泊まるのは無理だが」カケルなら皆とも馬が合うだろうな。
「ユウ君は今日は来るのか?」
「まどかちゃんに気を使って来ないと思う。来るとしても皆が集まるのは午後からだ」
「黒髪の子も来ないのか?」やよいさんのことだろう。つばさから写真でも見せられたか。
「まどかちゃんがやよいさんの部屋へ遊びに行っているから、二人は昼飯前に戻って来るはず」そう話していたら、玄関の方から足音が聞こえてきた。
「カケルちん、こんにちはっす!」ユウさんがカケルに向かって走ってきた。
「うぉっ!」カケルは既のところで回避したが、バランスを崩してよろめいた。
「危ないお」倒れかけたカケルをみつるさんが抱きとめてくれた。カケルの顔はみつるさんの胸に埋まっている。
「大丈夫かお?」「これは!ラキスケってやつっす!」大はしゃぎするユウさん。
「カケル、いつまでそうしているんだよ」俺がみつるさんからカケルを引き離そうと動いたら、カケルの腕がだらりと下がった。
「気を失っているお…」みつるさんは力の抜けたカケルを床に寝かして、脈と呼吸を調べた。
「カケル!しっかりしろ!」カケルの肩を叩いてみたが反応はない。
「みつるんの匂いで失神したっす」匂いで気絶することなんてあるのか?
「たぶん、迷走反射だお。寝かせておけば回復するお」ユウさんの襲撃からの慣れない感触と臭いが影響したのだろう。
今度は玄関から女子の話し声が聞こえた。「あれっ?男の子が二人増えているよ」「緑はユウサク、寝ているのはカケルだと思う」やよいさん達が帰ってきた。
「この子は何故寝ているの?」やよいさんが俺に問いかける。
「それは」「みつるんの胸に顔を突っ込んで気絶したっす」
ユウさんの言葉で、まどかちゃんが眉間にシワを寄せてみつるさんを見た。
「違うんだお!ユウ氏がカケル氏を襲って、その反動で転けて気を失ったんだお」みつるさんは悪くないと思う。
「ユウさんが未成年者のカケルにセクハラ行為をした結果こうなりました」まどかちゃんが居る手前、みつるさんをフォローする。
やよいさんがするりと動いてユウさんに詰め寄った。
「話せばわかるっす!打ち首獄門は勘弁っす」ユウさんは両手で胸を防御した。
「やよやよ…今なんで下を向いたっすか…?」引きつった表情のユウさんは玄関へ駆けて行った。
昼食後もカケルは眠ったままだった。
やよいさんがカケルの首に手を当てて脈を取る。
「頭は打っていないから平気だお」
俺も肩を揺するがカケルはぐっすり眠って居る。普段あまり眠れていないのか?
やよいさんとまどかちゃんはコンビニへ出かけた。保護区内は娯楽施設が少ないので必然的にコンビニへ行く。
みつるさんは汗をかきたくないらしく外出は晩御飯の買出しだけにしている。
また玄関から足音がする。ユウさんがまた来たかと身構えたが「何か飲み物を所望するのじゃ…」ヤスミンさんがやって来た。ヤスミンさんは額から汗が流れて、髪はびしょびしょに濡れている。
俺が冷えたお茶を出すとヤスミンさんは一気に飲み干した。
「ぷはぁー、今日は風か止んでしまってな、オミクロンとの戦いが長引いたのじゃ」ヤスミンさんはそう言いながらみつるさんのお菓子を食べ始めた。
「ヤスミン氏、シャワーを浴びたほうがいいお」部屋にカレー臭が広がった。
「少し休みたいのじゃ、ん?この童はだれじゃ?まぁ良いか」ヤスミンさんは丸めたマントを枕にしてカケルの隣で横になった。
「ゴホッゴホッ!」程なくしてカケルが咳をしながら上体を起こした。
「カケル、やっと目が覚めたか」
「あれっ?ここは?ショウ二ーの家?何か鼻と喉が痛いぜ」カケルは隣のヤスミンさんを見て硬直した。
「何で半裸の女子がっ!?」そう言いながらカケルはヤスミンさんの顔と身体を交互に見る。
「大丈夫か?何があったか覚えているか?」カケルみつるさんの方を向いた。みつるさんは笑顔でお菓子を食べている。
「あっ」と声を漏らしたカケルの顔が赤くなってゆく。
「用事を思い出したぜ!またなショウニー!」カケルは立ち上がり前屈みのまま駆け出した。
「元気そうで良かったお」
「ですね。しかし、もう一人を何とかしないと」静かになった部屋はヤスミンさんのいびきと匂いが満ちてきた。




