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第十三話 円満

 昨夜、みつるさんから頼まれ事があった。俺は二つ返事で受けたのだが。


 今、俺の家ではみつるさんと黒髪の少女が口論している。


「伯父さんは臭いから別の部屋がいいよ!」みつるさんの姪の渋川まどかちゃんは駄々をこねている。みつるさんの妹さんが入院したらしく、二人は俺の家にしばらく泊まる事になった。みつるさんの寮の部屋はエアコンが壊れていて、繁閑期のこの時期はすぐに修理ができないそうだ。


「二階で騒ぐとショウ氏に迷惑だお、書斎で我慢してくれお」当初は書斎だけ借りられれば良いと言っていたのだが、空き部屋が在ることを知ったまどかちゃんは一人部屋を欲しがった。


「臭いのヤダよ!」多感な中学一年生の女子に伯父との相部屋は難しいか。


「空いている部屋を使って構いませんよ。掃除をしないと埃っぽいかもですが」みつるさんは大きく溜め息をはいた。


「ありがとうだお。でもあんまり甘やかさないで欲しいお」いつも温和なみつるさんがキリッとした表情をしている。お菓子も手にしていない。


 みつるさんはまどかちゃんに二階の空き部屋を掃除させた。




 昼食はみつるさんが有り合いの物で作ってくれた。今日は肉まんが並んでいない。


「久しぶりにオムライスを食べました、美味しいです」みつるさんは料理の手際が良くて、見た目も味も完璧だった。


「玉ねぎ食べられないって言ったでしよ!」まどかちゃんは玉ねぎを除けている。


「もう中学生なのだから食べ物を好き嫌いしちゃ駄目だお」俺も小学生の頃は好き嫌いがあったが、つばさに煽られるのが嫌で大人ぶって食べるようになった。


 今では何が口に合わなかったのか思い出せない。(ショウ二ー、ニンジン食べられないの?マジ子供じゃん、ショウ二ーじゃなくてショウボウじゃん!きゃはは!)つばさのセリフだけは覚えている。


 女子対策につばさを呼ぶ手はあったが、まどかちゃんがつばさの影響で怪獣化したら申し訳ないからやめた。




 食後、残った玉ねぎ片はみつるさんが食べた。


「伯父さん、暇だからスマホ貸してよ」


「スマホは重要なデータが入っているから駄目だお。書斎に漫画があるからそれを読むといいお」


「えー、古臭いし、音楽を聞きたいよ」


「煩くするのは迷惑だお。コンビニで雑誌でも買ってあげるお」みつるさんはまどかちゃんを外へ連れ出した。今日のみつるさんは娘に手を焼いている父親のようだ。




「みつるの姪とは上手くやれそう?」二人が外出中にやよいさんがやって来た。最近はインターフォンを鳴らさずに入ってくる。


「今のところ直接会話はしていません。女子にはこの前の作戦をするべきでしょうか?」


「あれは彼女を作る練習。今回は普通に子どもと接するようにすれば良い」俺は年下との付き合いが従兄弟くらいしかない。


「取り敢えず様子を見てみます」




「やよいちゃんはこの服が似合うと思うよ」帰ってきたまどかちゃんは、やよいさんに懐いた。老猫的な落ち着きが女子には人気なのだろうか。二人はファッション誌を見ている。


「私は青色がいい。まどかは何色が好き?」「うーん、私も青が好きかな。ピンクは子供ぽいし」みつるさんは汗をかいたらしくシャワーを浴びに寮へ戻っている。


 俺は手持ち無沙汰なのでスマホを見ながら二人の様子を伺った。


「やよいちゃんは夏休みの宿題やってる?」


「転生少女には学校も宿題も何も無い」


「いいなー。まだ全然手を付けてないよ」まどかちゃんは転生少女に関する知識があまりないのだろうか。


「宿題でわからない事があればショウに聞くと良い」


「俺ですか?」突然こちらに振られて動揺する。


「私やみつるが学生だったのは四半世紀前だから、勉強内容を覚えていない」


「まどかちゃん、わからない事があれば聞いてくれて構わないよ」自信はないが中一レベルなら平気だろう。


「ショウを利用すれば宿題が早く終わる」やよいさんの後押しがあり、まどかちゃんは宿題を始めるようだ。




「お兄さん、今度はここをやって見せて」俺には他人に物を教える才能は無いようだ。俺は数学が得意だから、数学が苦手な子が何につまずいているのかがわからない。


「この公式をここに当てはめてごらん」


「うーん、これで良いのかな?」じっくり考えさせてから答えを教えたほうがいいかもしれない。


「ただいまだお。ショウ氏もやよい氏もありがとうだお。今夜は僕が御飯を作るお」家事はみつるさんがほとんどやってくれるから俺的には楽だ。




 俺は寝る前にトイレへ向かった。


 まどかちゃんが隣の部屋で寝ているので静かに階段を降りると、居間の明かりが点いていた。


 中を除くとみつるさんがいつもの笑顔でお菓子をむしゃむしゃしていた。


 昼間は我慢していたんだろうな。


 俺は声をかけずに用を済ませて寝ることにした。




 翌日。


「一人でいけるよ!」「子供一人じゃ行かせられないお」みつるさんとまどかちゃんがまた口論している。


 起きがけも洗濯物を分けて洗うとか言い争っていた。


「僕も受けたことがあるお。大した手術じゃないお」「でも、お母さんすごく痛そうにしていたよ」まどかちゃんは母親のお見舞いに行きたいらしい。


「伯父さんが一緒に来てくれればいいのに…」「ごめんお…」まどかちゃんは二階へ行ってしまった。


「俺がみつるさんの代わりに同行しましょうか?」みつるさんは首を振った。


「ありがとうだお。でも、僕には姪を預かっている責任があるお。手の届かない場所には行かせられないお」いつも笑顔のみつるさんがしょんぼりしている。




 昼食の際に、まどかちゃんが家に居ないことに気付いた。


「一人で病院へ行ったのかもだお…」みつるさんは玄関へ向かった。


 俺も後を追い玄関先から道先を見たがそれらしい人影は無かった。


「まどかを探してくるお」みつるさんは駆け出した。


「俺は保護区外の駅方面を探しできます!」俺はみつるさんの背にそう言って自転車に乗った。




 最寄りの駅までは歩くと三十分以上かかる。自転車なら追いつけるかもしれない。


 安全運転をしつつ、全力でペダルを漕いだ。


 駅に着いたが、まどかちゃんは見つからなかった。


 みつるさんに連絡をしたが、あちらも見つけられて居なかった。電車に乗って追うか?


 駅員さんに訪ねたが、それらしい子は見かけなかったようだ。


 俺が考えあぐねていると、駅の隣にあるコンビニから少女が出てきた。まどかちゃんだ!


 俺は早足で駆け寄る。まどかちゃんはコンビニで購入した飲み物を飲んでいて、俺には気づいていないようだ。


「まどかちゃん」俺が声をかけても、まどかちゃんはコーラを飲む事を止めなかった。よほど喉が渇いていたのか、幸せそうにラッパ飲みをしている。


「ぷはっー。あっ!お兄さん?」


「心配したよ。病院へ行くつもりだったの?」すぐに連れ帰りたい気持ちを抑えて話を聞くことにした。


「行こうと思ったけど、電車賃が足りなくて駄目だったよ」たしか中学から大人料金のはずだ。


「そっか。じゃあ帰ろうか」「うん…」二人で帰路を歩き始めた。


「保護区の外へ出たい時は俺が一緒に行くから、勝手に出て行っちゃ駄目だよ」


「うん…ごめんなさい」俺はみつるさんに連絡を入れた。


「病院にも、一緒に来てくれる?」


「いいよ。みつるさん許可を取れればだけど」まどかちゃんはニコッと笑って残りのコーラを飲み干した。


「甘い飲み物は禁止られていたんだけど飲んじゃった」


「秘密にしておくよ」まどかちゃんの笑顔に釣られて俺も口元が緩んだ。




 みつるさんは玄関先で待っていた。方々探し回ったのか、疲れ切った表情をしている。


「伯父さん、ごめんね」まどかちゃんは心底反省した面持ちだ。


「僕がこんな身体じゃなければ、まどかの側にもっと居てあげられたのにお」


 みつるさんがまどかちゃんを抱きしめた。


「心配したお。こんな身体でごめんお」丁度、やよいさんがやって来て、何事かと俺の顔を見上げた。


 俺がやよいさんに説明をしようとしたら「げぇっ」蛙のような鳴き声とビチャビチャと水音がした。


 振り向くと、まどかちゃんが盛大に吐いていた。玄関先にコーラ色の水たまりができる。


「まどかは私がみるから、みつるはシャワーを浴びてきて」状況を察したやよいさんがまどかちゃんを介抱する。


「こんな身体でごめんお…」みつるさんは寮へ走って行った。すれ違いざまの強烈な腐った肉まん臭で俺も吐きそうになる。


 四天王の力は恐ろしい。

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