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第十六話 夏の終わり


 今年の夏は過去一番充実した。その夏も暦の上は今日で終わる。



 淹れたての湯呑みがテーブルに置かれ、俺の向かいの席にやよいさんが座る。いつもの光景だ。


 やよいさんが紙袋から書類を取り出してテーブルに置いた。通信高校のパンフレットだった。


「暇な時に目を通しておいて」やよいさんはそう言ってゲーム機をセッティングし始めた。


 やよいさんと初めて出合った日を思い出す。進学と就職のための助言。


 あの時、俺は考えたくないと答えた。そろそろ考えろという事か?気が重い。


「少し散歩をしてきます」俺は逃げるように外へ出た。




 当て所なく歩く。何も考えたくないのに一人でいると余計に考えてしまう。


 ふと、目についた壁に囲まれた区画へ行ってみることにした。


 前々から気になってはいたが何だろう?「止まりなさい」女子の声に呼び止められ、振り返るとオミクロンさんが居た。


「オミクロンさん、こんにちは」よく目撃はするが挨拶をするのは初めてだ。


「その先は…あっ貴方は!大魔王ブルマー!」ピシッと指を差された。ブルマの人からえらく出世したな俺。


「ショウです。この先に何があるんですか?」


「ショウ?そう、貴方ならいいわ。ついて来なさい」俺はオミクロンさんの後を歩いた。


 四方を壁で隠された先は公園だった。ただし遊具等は無く、舗装された地面にベンチが数カ所設置されているだけだ。


「これは…」「あまり見せたくない光景なのよ」少女達がタバコを吸っていた。ここは喫煙所か。


「合法的に少女にブルマーを履かせたいという貴方の気持ちはわかるわ。でも、現実も見ないとだめよ」「ブルマーは世代じゃないのでわかりませんが、転生少女が酒を飲む光景ならよく見ていますよ…」だが、タバコは別格の衝撃だった。少女でなくても女性がタバコを吸うのは嫌悪感がある。美容に悪いだろうし、俺の周囲の女性では見かけない。


「遠い日の原風景を追い続けても手に入るのは紛い物よ。花の命は短いから美しい」オミクロンさんは自らを抱きしめるように腕を組んだ。


「よくわかりませんが、俺は造花も好きですよ」タバコを吸っていた転生少女達が俺とオミクロンさんに気づいた。


「ブルマ大魔王が四天王を統べているのは本当らしいな」「まさか!?人類ブルマ計画!?」「ブルマ履かされるぞ!」タバコ少女達が騒ぎ出した。


「ブルマーとセーラー、私と貴方の原点は同じかもしれない」オミクロンさんが俺に向き合った。


「でも、私は愛と正義のセーラー戦士。魔王の傘下には加わらないわ!」オミクロンさんは俺に言い放って去っていった。


 この人たちには悩みとかあるのだろうか…帰ろう。




「おお、帰って来おったな」「ショウちん、こんにちはっす!」「お邪魔してるお」居間ではいつもの四人がゲームをしていた。毎日遊んでいて羨ましいな。俺もニートだけど。


「やよいさん。俺には学校や就職は気が重いです。何か自分なりの生き方は無いのでしょうか?ユーチューバーとか小説家とか。転生少女候補者とか…」やよいさん以外の三人の顔が曇った。


「候補者制度はだいぶ前に終わったお」「全て失敗に終わったそうじゃな」年齢的に期待はしていなかったけど。


「ショウ、それは学業や仕事をしながら見つけるもの。私達は自分の人生を歩んだ末にこの姿になった」見た目は少女だけど説教が親父のみたいだ。


「オイラは同人作家をやっていたっすけど、お金にはならなかったっす」「妾は反社に追われる日々じゃった…」「僕は何年も浪人したから気持ちがわかるかもだお。同級生に追いつけない焦燥感お」みんなも俺と同じように悩んでいた頃があったのだろうか。いや、俺よりも沢山の不条理と悪意に直面してきたはず。


「ショウは勘違いをしている。通信高校は高卒資格を取るだけのもの。ショウの知っている様な学校ではない」


「学校ではない?」


「スクーリングは月に一回程度だから人との関わりは無い。将来のために資格を取るだけの場所」通信制とはそんなものなのか。


「高卒資格は重要だお。高度な資格を取るにも大学へ行くにも無くてはならないお」「うむ、ハロワの条件も高卒はほぼ必須と言えよう」「頭の良いオイラが勉強を教えてあげるっすよ」皆が後押しをする。


「学費は安いし、何年掛けて卒業しても良い。それに願書受付は冬だから、まだまだ時間はある」最後にやよいさんが付け足し、皆はゲームを再開した。


 俺はテーブルに置かれた資料を手に取り、軽く読み流した。


 行く末のわからないニートでいるよりも、肩書だけでも学生のほうがいいかもしれない。学校の場所は自転車で片道一時間かからないくらいか。


 両親がいつまで俺をここで暮らさせてくれるかもわからない。


「やよいさん、俺、行きます。通信高校へ」やよいさんは特に表情を変えずに「そう。手続きの時は私かマサヒロに聞いて」と答えて「ショウもやろう」と俺にコントローラーを渡した。


 俺にとっては重要な決断だったけど、まだ何も始まってはいないんだな。




 夏は終わるけど秋が来る。皆と過ごす秋も賑やかになるのだろうな。

第一章 夏編 完結

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