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第十一話 祝いと追悼

 父方の墓参りに行くのは三年ぶりだ。


 保護区の外まで歩いて、迎えに来た両親の車に乗った。


 両親は俺に「誕生日おめでとう」と言って、欲しいものがないか聞いてきた。


 俺は照れ臭くて現金と一言返した。




 車で一時間ほど進むと田園風景が広がった。


 墓の近くにある祖父母の家に上がり一息入れる。和風の家の引き戸をガラガラと開ける音が懐かしい。


 祖父母は大きくなったなと、身体が成長した孫を喜んだ。


 ニートの件を何か言うわけでもなく、迎えてくれた。きっと心配をかけたのだろうな。


 お盆に祖父母の家に来た時は、伯父と顔を会わせていたが、いつも一言挨拶するだけだった。今はもう居ない。


 仏間に伯父の写真が立てかけてあった。父と伯父が育った家。祖父母の家に初めて興味が湧いた。


 近くにやよいさんの実家も有るのかもしれない。三人はどんな子供時代を過ごしたのだろう?




 お茶を飲んで少し休んでから、祖父母と父母と俺の五人は徒歩で片品家の墓へ向った。


 墓地は寺から離れた飛び地にあり、古い住宅街の道端に墓石が数個だけ並んでいる。




 墓地は水道が無いので、ペットボトルに入れた水を俺と親父が一つずつ運んできた。


 以前まで、ボトルの一つは伯父さんの役目だった。


 俺はお墓に水をかけ、ボトルが殻になったら、次は親父が水をかけ始めた。


 墓石の掃除が終わると、祖父がローソクを立てて火を付けた。




 祖父母が墓前で手を合わせ、次に両親が手を合わせた。次は俺の番だ。


 俺は手を合わせ、転生少女保護区で知り合った皆の名前を心の中で呟いた。


 伯父さんの縁に感謝しています。俺は大丈夫です。ありがとう。




 祖父母の家へ戻ると、祖母が寿司の出前を取ってくれた。祖父母と両親が俺の誕生日を祝ってくれた。口には出さなかったが、成人まで育ててくれて感謝だ。




 保護区へ戻る頃には日が暮れていた。俺はコンビニには寄らずに真っ直ぐ家へ帰った。


 予想通り家の鍵は開いていて、中から人の気配がする。




 居間に入ると、パンパンと破裂音が鳴り「「誕生日おめでとう」だお」と言われた。


 予想外だったのは、出迎えてくれた一人が館林さんだった。


 やよいさんとヤスミンさんは床に倒れている。ユウさんも部屋の隅でぐったりしていた。


「ありがとうございます。館林さんも来てくれて嬉しいです」


「うふふ、それは良かったです」館林さんはずっとニコニコしている。


「ごめんなさいね。いつ帰って来るかわからなかったので主役無しで始めちゃいました~」笑顔の館林さんは可愛いが、酒臭かった。


「ショウ氏は、まだ御飯を食べていないかお?色々あるから食べるといいお」みつるさんはシラフのようだ。


「御飯を食べたらケーキにしましよう。渋川さんが作ってくれたんですよ」館林さんはそう言って、寝ているやよいさんのめくれ上がったスカートを直してから席へ着いた。


「ケーキは僕からのプレゼントだお。みんなもプレゼントを用意しているから起きたら貰うといいお」


 俺はみつるさんにお礼を言ってから食事をとった。




「ふふふ、皆さんいいですか〜?はいチーズ」ケーキを食べる前に館林さんが写真を取ってくれた。ユウさん以外の酔いつぶれていた面々は回復したようだ。


 みつるさんがカメラを交代してもう一度撮影した後、ロウソクが用意された。


 これは今朝、墓に立てたやつと同じやつだ。


「ごめんお、これしか無かったんだお」みつるさんがロウソクに火を点けて俺の前に置いた。やよいさんが部屋の電気を消すと、部屋はロウソクの明かりだけになった。オレンジ色の光がみんなの顔をぼんやりと照らす。


「「ハッピバースデイートゥユー、ハッピバースデイトゥユー。ハッピバースデイ、ディア ショウ。ハッピバースデイトゥユー」」歌の終わりに合わせて、俺はロウソクに息を吹きかけた。


 ロウソクの火は大きく揺れるが、全然消えない。これは風に強い屋外のロウソクのようだ。もう一度、息を吹きかけたが歯が立たない。俺がもう一度息を吹きかけるのに合わせてヤスミンさんが横から息を吹いてくれてようやく消えた。


 みんながおめでとうと言ってから電気を点け、みつるさんがケーキを切り分け始めた。


「はい、私からのプレゼントです」館林さんから箱に入った高そうなボールペンを貰った。


「丁度、普段遣い用に予備があったので使ってください」


「ありがとうございます。使わせていただきます」館林さんの誕生日を祝うフラグが立った!プレゼントを考えなければ。


「私からはこれをあげる」やよいさんからは野球のピッチャーミットとキャッチャーミットを貰った。


「秋からまた練習をするから使って。運動は大事」俺はミットを手にはめてみせた。新品のミットはとても硬かった。


 やよいさんの誕生日には安物じゃない履き心地の良いブルマでもプレゼントしようかな。


「オイラからはこれっす!」さっきまで元気のなかったユウさんが紙袋を渡してきた。俺は中に入っている一つを取り出した。プニプニしたボトル状の物体。


 紙袋の中には他にも小箱と液体の入った筒が入っている。


「ユウ氏、下品だお」「うむ、大人の滑り台じゃな」「あらあら」みんなのこの反応。明らかにアレだ。


 やよいさんだけ反応が無い。この手には疎いのか?


「本当はオイラをあげても良かったんすけど、オイラだと思って使ってっす」やよいさんのツッコミを待ったが来てくれない。


「いらないんですけど…俺の誕生日を知ったのは今日なのでは?よく用意できましたね」ユウさんは悪ガキ風の笑顔を見せた。


「誕生日イベント用に準備は怠らないっす!」ユウさんの誕生日には仕返しをしたいな。


「妾からはこれじゃ」トンと音を立ててテーブルにガラスの瓶が置かれた。


 瀟洒なデザインの瓶には褐色の液体が入っている。


 先程まで、無反応だったやよいさんが前のめりになり、館林さんのメガネが光った。


「やすし、やり過ぎ」「希少なブランデーですね」二人の反応を見るに高級品なのか?


「他にプレゼントに適したものが無かったのでな。皆で飲もうではないか」


「ヤスミン氏。ショウ氏はまだ十八歳だお、お酒は二十歳にならないと飲めないお」


「ん?そうなのか?ならば二年お預けじゃな」全員からプレゼントを貰った。


 俺はみんなに改めてお礼を言うと。


「もう一つ、渡すものがある」やよいさんが包装された箱をくれた。


 みんなの注目が俺に集まる。


「タカヒロから」「えっ?」やよいさんは伯父からと言った。


 包装紙を丁寧に剥がすと、有名なロボットの玩具が入っていた。


 五年くらい前にテレビで放送されていた有名なシリーズ作品の物だ。


「さすがタカヒロ、良いチョイスじゃな。妾は翼が生えているデザインは好かん」「最近のシリーズの中ではこれがかっこいいと思うお。ビーム兵器が無効化されている世界観が渋いお」「オイラの持ちキャラっす」世代を超えて男子には人気らしい。俺も好きだし。


 みつるさんのケーキはシンプルな見た目だけど味は素晴らしかった。お菓子を作れる男子は珍しい気がする。流石お菓子担当だ。


 叔父とみんなのプレゼントは生涯の宝物にする。ユウさんのは捨てるけど。




 皆はまたお酒を飲みだして、今度は伯父を悼んだ。


「タカチン、今生の別れは早いっす」ユウさんが泣き出した。


「泣くのはやめい。今宵は祝の宴じゃ。あやつもそのほうが喜ぶ」ヤスミンさんは器一杯の焼酎を一気に飲み干した。


 やよいさんと館林さんはお互いに日本酒を注ぎあっている。


「タカヒロ氏の体調が悪くなってからは、ここで飲み会をやらなかったんだお。みんなでタカヒロ氏を偲んで飲める日が来て良かったお」みつるさんも涙ぐんでいる。


「タカチンはオイラが女だと半年くらい気づかずなかったっすよ」


「あやつも魔法少女が好きでな、やよい姫に衣装を着せる方法を相談されたものじゃ」


「あら?あの方はメガネっ子も好きでしたよ」伯父の醜態は耳が痛いが、やよいさんにブルマを履かせた俺には何も言えない。




 みんなのお酒は進み、館林さんとみつるさん以外は床に倒れた。


「館林さんはお酒に強いんですね」


「そんな事は無いですよ〜」館林さんは笑顔のまま浮かれている感じだ。大分酔っていると思う。


「連絡先を聞いても良いですか?」「いいですよ」舘林さんがスマホを取り出した。俺は遂に館林さんの連絡先を入手した!


「みんな、そろそろ遅くなってきたお」みつるさんがヤスミンさんの肩を揺らすが反応は無し。


「そうですね。そろそろ時間ですよ」館林さんもやよいさんの肩を叩く。


「ショウ氏、ヤスミン氏をおぶるから手を貸してほしいお」俺はヤスミンさんの上体を起こして、みつるさんの背にもたれるようにした。


 みつるさんが立ち上がると床がミシミシとなった。


 館林さんは背負投げのような体制から器用にやよいさんを背負った。


 四人は玄関へ向かっていく。


「あの。ユウさんは?」


「寝かせておいて平気だお。たぶん」


「ユウさんだけは置いて行かれると困ります!」寝ているふりかもしれない。俺もユウさんを背負おうとしたが、重すぎて無理だった。だが、夜に襲われたら怖い。何とかしないと。


「お疲れ様でした」館林さんとみつるさんは家から出ていってしまった。


 俺は死ぬ思いで、抱きしめるようにユウさんを持ち上げて後を追った。




「心配しなくても後で取りに戻ったお」俺は頑張って四人に追いついた。


「それを先に言ってください…」だめだ、足より腕が持たない。早歩きして寮へ向かおう。




 館林さんの隣を抜ける際に呟きが聞こえた。


「館林さん?」と呟いたのはやよいさんの声だった。


「こうしていると、初めてあった日を思い出しますね」やよいさんはまた眠ったらしく返事は無かった。


 俺は振り返る余裕がなく寮へ急いだ。




 俺はユウさんを寮の入口に下ろして、膝に手を着いた。腕が疲労でガクガク震えている。


「後は僕が処理するから大丈夫だお」


「片品さん、お疲れ様、おやすみなさい」俺も挨拶して帰路に着いた。


 長い一日だったな。


 みんなの誕生日には何をプレゼントしようかな。


 俺が十八歳になった日が終わる。


 本当に長い一日だった。

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