第六章「僕は、そうではなかった」
ジェンダル・コーウィンがシステムに召喚されて間もない頃のことだった。
ジェンダル・コーウィンが、システムによって「地獄の試練」に参加させるために魔法的に転送されて最初に現れた、あの初期位置からかなり離れた場所。
薄汚れた白色の石壁の上に、黒い髪を乱した一人の青年が立っていた。今置かれている状況にもかかわらず、その顔つきはどこか少し楽しげだった。
その顔つきはあらゆる面で、この人物が見返りを求めず誰にでも手を貸すような、典型的な「いい奴」であることを物語っていた。ただ、そういう性格だからというだけの理由で。
良く言えば、根っからのお人好しだった。
その青年は、引き締まった運動選手のような体つきをしていた。ジェンダルの痩せた体格とは対照的だった。
筋肉の上にさらに筋肉を重ねたようなボディービルダーでもなければ、怪物じみたゴリラのような体でもなかった。ちょうどその中間――筋骨隆々でもなく、かといって痩せすぎでもない体つきだった。
この町、あるいは小さな都市のこの一帯を吹く風は、ジェンダル・コーウィンが最初に現れた場所よりも暖かかった。
彼の髪は不規則な動きで揺れていた。
まるで、ここの風はあちらの風とは違う法則に従っているかのようだった。
実に奇妙な現象だった。
とはいえ、どちらもその同じ町の中の場所ではあった。
だが、この二つの場所の違いはそれだけではなかった。
ここはまた、少し人目を避けたような、隔絶された雰囲気を持っていた。あちら側では大勢の人々が通りを行き交い、店が立ち並び、食料や仕事道具、調理器具を売るいくつもの屋台があったのとは対照的だった。
この黒髪を乱した青年がいる場所は、その静けさゆえに、まるで別世界のようだった。
そしてその感覚は、どういうわけか、これほど活気のない場所であることが何一つ良い兆候ではないことをほのめかしていた。
まるで誰かが、全員に静かにしていろと命令を下したかのようだった――だが、そういうわけでもなさそうだった。
なぜなら、彼にとってさらに奇妙に思えたのは、その青年の視界の端からは――
近くに人間の姿一つ見えなかったということだった。
犬や猫、馬、あるいはその他何であれ、この青年が立っているこの場所に生きた人々が暮らしていると信じさせてくれるような証人になり得る生き物など、まったく見当たらなかった。
これが……これが、この場所における最初の大きな謎だった。
一体全体、この場所で何があったのか、あるいは何が起きているのか。
※ ※ ※
(ベン・サンプソン視点)
奇妙だな。
ほんの数秒前まで、空気はこんなに存在感を持っていなかった。だが今は重い、いや、とてつもなく重くなっている。
何度も腕をこすらなければならなかった。まるで冬の寒さに凍えているかのように。
これはあまりにも押しつぶされそうだ。
横を向くことすら、何かを考えることすら、鳥肌が立ってしまう。そのせいで、そのどちらもできずにいる。
まるで誰かが、僕が最も基本的なことをすることさえ制限しているかのようだった。呼吸はひどく乱れていて、まるで自分でも気づかないまま苦しんでいるかのようだった。
それに、ほんの数秒前まではとても暖かかった風も。今では重くなり、冷たく、奇妙で、簡単な言葉では説明できない何かを帯びていた。
すべてがひどく奇妙になっていて、今になってそうなったのだと考えることもできたが、ここに来るのは初めてだったので、そんなふうには考えなかった。
※ ※ ※
まあ、僕はとても好奇心旺盛な少年ではあるけど。
それはまったく普通のことだ。実際、僕はまだ16歳で、数ヶ月前になったばかりだけど、それでも引き際くらいは分かる。だからこそ、息が止まる前にすぐさま壁から飛び降りることにした。
目に入ってくる家々の造りは、僕が見慣れ、住み慣れてきたものとはまるで違っていた。
そこに表れている雰囲気からして……
今僕がいるこの世界が中世の時代であることは、もはや疑いようもなかった。
この時代でなければ、こんな種類やデザインの家は見られないだろう。
住居は分厚い石の基礎の上に建てられ、外から見える濃い色の木材の骨組みが露わになっていた。梁は明るい漆喰の壁の上に幾何学的な模様を描き、赤みがかった瓦で覆われた傾斜屋根は、通りの何メートルも上まで突き出ていた。家々は互いに密着するように立ち並び、中には石畳の道の上に傾いているように見えるものさえあった。小さな窓、木製のバルコニー、石造りの煙突が、古代の中世都市らしいその外観を完成させていた。
本当に、本当にこんなことが起きているんだ!
歩き始めたその時、僕はようやく完全に頭が冴えて考えられるようになった。
さっきからずっと言っていたこと全部、本当は言うべきじゃなかった。
だってこれ、すごく変じゃないか?
だって、もし中世の時代にいるのなら、それは夢を見ているということになる。だって僕が生まれたのは中世じゃなくて、現代の世界なんだから。
それに、夢を見ているとも思えない。
だって、そもそも眠ってすらいなかったから。
あるいは、眠っていたかどうか自体、覚えていないだけかもしれないけど。
まあ、いずれにしても、これはすごく馬鹿げて聞こえるかもしれないし、実際馬鹿げてはいるんだけど。
でも、この世界に現れたことが本当に、本当に嬉しくて、もう二度と出たくないくらいだ。
うーん、そう言ったところで、さて、どこから始めようか。
※ ※ ※
僕はベン・サンプソン。
先祖代々の木の周りに、ようやく草がいくらか生え始めたばかりの若者だ。
髪は黒くて、だから、思うほど不細工でもないと思うけど、かといって家の中でも、家族の中でも、友達の中でも、一番のイケメンというわけでもない。
そのどちらでもない、中間くらいだと思う。
有名人みたいに見える、あの上位ランクの連中の中で目立たない程度には、十分下だ。
そして、ジャングルのチンパンジー呼ばわりされない程度には、十分上だ。
まあ、とにかく僕は今の自分が好きだ。ネットで見たけど、それが成功するための一番いい心構えらしいから。
ありのままの自分を愛すること! 自分を卑下したり、他人と比べたりしないこと。
でも僕は結構運動神経がいい。だからこそ、すごく良い持久力を持っている。
これは、すごく平凡であることの代わりに天が僕に与えてくれた利点なんだと思う。
もしそれが本当なら、心の底から感謝している。
あ、それと、一番大事なことを忘れちゃいけない。
そう:
「彼女はいない」
僕の町の女の子たちの理想は高すぎて、僕はそこに当てはまらない。だから彼女はいないけど、いつか未来にはできると思う。
遅すぎるということはない。
そう願いたい。
それに、僕はゲームとウェブ小説の大ファンでもある。
だからこそ、あれこれと知っていることがある。
まあ、とにかく。
そんなわけで、何をすべきか知るためにも、ここが一体どこなのか突き止めないといけない。
嬉しくはあるけど、同時にすごく腹も立っている。今頃ランキングを上げているはずだったのに、こんなところに現れてしまった。
僕の数少ないホモ・サピエンスの友達――というか仲間たち――は、僕がログインして一緒にプレイしなかったことや、僕が参加しなかったせいでランクが下がったりしたら、きっとものすごく怒るだろう。
みんな、ごめん。でもこれは僕のせいじゃないんだ。どうか分かってくれることを願っているよ。
今この瞬間、僕はパニックになっているべきなんだと思う。
だって、ほんの数秒前まで生きていた時代とは違う場所に現れたんだから、緊張するのが普通だ。
でも僕の場合はそうじゃない。なぜなら僕は……
「え……!」
「お前は誰だ?」
「それ、どういう意味?」
「いや。それより、お前、恐怖でガタガタ震えて、パンツにちびってるべきなんじゃないのか、あ?」
驚いた表情でそう言ってくる。でも、なんて素朴なんだ。なんでそんなことにならなきゃいけないんだ。おかしい。本当におかしい、こいつ。
「で、なんでそうならなきゃいけないんだ?」
完全に無関心を装って答えた。もっとも、内側ではもう限界だったけど。
「はは、お前、すごく変な奴だな?」そう笑われた。喜んでいいのか分からなかった。
「かもな」僕も笑い返した。
「お前は、俺を見て怖がらなかったり、パンツにおしっこ漏らさなかったりする、初めての奴だ」なぜかそう言いながらすごく誇らしげだったけど、その後はそうでもなくなった。だって、そいつのやり方は僕には通用しなかったから。
童貞パワー! よっしゃあああ!
何も言い返さなかった。
「どうした、言葉が出ないのか?」そいつはさらに追い詰めてくる。
「いや、ただ考えてるだけだ」僕は壁に背をあずけた。どういうわけか、その表面もひどく冷たかった。この奇妙な場所にあるものすべてと同じように。
でも部分的には、そいつがそう言うのも分かる。だってその見た目は本当に奇妙だったから。
どう見たって、頭がおかしくなりそうな見た目だ。
そいつが匂わせるほど怖くはなかったけど、こんなものを見ると、脳がしばらく「脳みそする」羽目になる。今見ているものを消化するために。
それは、あるべき以上に太ったハムスターだった。赤と青の色をしている。
だが、その体重だけが違いというわけではなかった。
なぜなら、ほんの数秒前まで、石壁の上に止まる前は宙に浮いていたのだから。
「自己紹介させてくれ。俺はシンビ……」
そいつが話し終える前に、僕は遮った。
「待って……お前、ガイド役のペットなのか?」
「ガイド役のペット?」
「ゲームが始まる前にルールを説明する、あの変なウサギみたいなやつ」ここで一旦言葉を止めた。ちょっとした言い間違いがあったから。「まあ、お前はハムスターだけど、同じようなもんだろ? ウサギとハムスターって」
そいつは頷いた。
「じゃあ、システムってのもあるんだよな?」と僕は尋ねた。
そいつは呆然とし、その表情はさらに驚いたものになった。
それも当然だ。
だって……そこにシステムが何の関係があるっていうんだ、って感じだろう。
くくく、素人め。
「なんで知ってるんだ?」とそいつが聞いてきた。
そいつは本当に馬鹿だ。それは答えになってない。
どうして知っているか。
まあ、僕はウェブ小説をたくさん読むし、ゲームもたくさんやる。
だから当然、これが長年見てきたあのウェブ小説みたいなものだと分かるに決まっている。
主人公が別の場所へ転送されて、奇妙な試練に参加し、報酬を得るという、あのよく使われる王道パターンをよく知っている。
だから、その主人公というのは、明らかに僕のことだ。くくく。
それだけじゃない。
僕の国で起きているいくつかのことについて調べたことがある。
太古の昔から、数え切れないほどの人々が何の説明もなく姿を消してきた。
そして最近では、まあ、インターネットが登場してからというもの。
掲示板では、陰謀論者たちがずっとこの話題について議論を続けている。何かが起きていて、それは超自然的な力だというものだ。
コメントを読みながら、何日も寝ずに過ごしたこともある。
~きっとこいつら、難しい試練に参加させられてるんだよ(ドクロの絵文字四つ)~ ユーザー『ギャング少年』の投稿。
~いや、違う。本当は異世界に転送されてるんだよ、異世界転生系ってやつ(人差し指を立てるオタク風の絵文字)~ ユーザー『テラ・テラ』の投稿。
~お前ら本当にどうかしてる。そんな話が失踪と何の関係があるんだよ、きっとサイコパスに誘拐されて、残酷に殺されただけだろ~ ユーザー『ゲーム大好き』の投稿。
~@ゲーム大好き の言う通りだ、異世界転生がこれと何の関係があるんだよ。何でもかんでもそれと比べるのはやめろって。でも……くそっ! もしお前らが正しかったらどうする?(目をキョロキョロさせる猫のスタンプ)~ ユーザー『マッチョ』の投稿。
~読んでる……~ ユーザー『匿名』の投稿。
(+2000件のコメント)
量は多かったけど、クリックして読み続けた。だってその陰謀論はすごく面白かったから。
――
だからこそ、僕は考えた……
もし本当にそんなことが全部起きているんだとしたら?
でも聞いてくれ。
本当に起きていたんだ。そして僕こそが、その証拠だった。
「ほら、これ以上待たせるなよ、システムはどこだ」と僕は言った。もうとっくに受け取っていてもおかしくないはずだ、だろ?
でも何かがすごくおかしい。だって覚えている限り、あの青いホログラム画面はもう目の前に浮かんでいてもいいはずなのに。
一体何が起きてるんだ? あれはどこにあるんだ?
もしかして騙されたのか、こんなに間抜けなガイドなんて読んだことがない。想像しておくべきだった。
「知ってるなら、集中しろ」とそいつは、それ以上何も聞かずに命令してきた。
本当に馬鹿な奴だ。僕がなんでそれを知っているのか、疑うべきなんじゃないのか。だって僕はこの件に関しては新米で、この場所に現れるのは初めてなんだから。誰かにとってはそれが筋というものだろう……見たところ、こいつは担当者みたいだし。機密情報をなんで持っているのか、いろいろ質問攻めにしてくるべきなのに。でも、しない。そいつはそういうことをしない。
とはいえ、そのおかげで僕にとってはますます楽になる。
そうして、何度もそいつを見下した後、ようやく僕は集中した。
そして数秒後、僕は煙だけでできた場所の真ん中にいた。
これがシステムってやつなのか?
おかしいな。これがシステムなら、青い画面のはずじゃないのか?
そして、視界にルーン文字が現れた。
少なくともそれは知っている。RPGをやりすぎたおかげで。
意味は分からなかったが、何かがそれを僕にも分かるように翻訳してくれた。
༺指定:ベン・サンプソン
出身:人間
坩堝:???
進化階梯:潜在
エッセンス:未覚醒
魂の状態:安定༻
つまり、それで全部か。
僕の坩堝……これって核のことだよな? うん、たぶんそうだ。
僕の坩堝はまだ定まっていない。
面白い。
それはどういう意味なんだろう。
まったく見当がつかなかった。
まあ、そんなに気にしているわけでもなかったけど。
僕が読んできたウェブ小説では、主人公はいつも平凡に見える何かから始まって、最終的には倒すことのできない化け物へと成り上がっていくものだった。
まだ定まっていない坩堝。
目覚めていない親和性。
潜在的な基盤。
そうだ。
まさに、強くなる運命にある者が持つような、あの手のスタートに聞こえた。
「くっ」
僕の顔に笑みが浮かんだ。
どう見ても。
これはすべて、チャンスのように思えた。
巨大なチャンスだ。
何千人もの人々が、こんな冒険を生きることを夢見てきた。
力を手に入れることを。
他の世界を探検することを。
英雄になることを。
そして僕は、それを本当に生きていた。
地獄の試練?
恐ろしく聞こえる。
でも正直に言おう。
どんな重要な物語にも、必ず序盤に試練があるものだ。
ある種の伝統みたいなものだ。
主人公は少し苦しむ。
そして強くなる。
特別な力を手に入れる。
それから、本当の冒険が始まる。
あまりにもよくあるパターンだから、この先に何が起きるかほとんど想像できるくらいだった。
もしかしたら師匠に出会うかもしれない。
もしかしたら伝説の剣かもしれない。
もしかしたら、他の誰も持っていない壊れ性能のスキルかもしれない。
可能性は無限だった。
もしこれが夢なら、目を覚ましたくなかった。
そして、もし現実なら……
なおいいじゃないか。
だってそれは、僕の人生がたった今始まったということなんだから。
何年もの間、異世界に転送された人々の物語を読んできた。
選ばれし者たちの物語を。
英雄たちの物語を。
特別な人物たちの物語を。
そして今、それが僕に起きていた。
偶然?
そうは思えなかった。
傲慢に聞こえるかもしれない。
でも、そう考えずにはいられなかった。
何十億という人々の中で……
なぜ僕なんだ?
答えはかなり明白だった。
僕が特別だからだ。
選ばれたからだ。
これは僕の物語だからだ。
僕の冒険。
重要な誰かになるための、僕のチャンス。
主人公になるための、僕のチャンス。
……
なんて間違っていたんだろう。
※ ※ ※
友達はあまり多くないし、大勢の人と話すわけでもないけど。
時々、何時間も、いや丸一日でも、部屋に閉じこもってゲームをして過ごすことがあった。
だから、孤独には慣れていた。
でもこれは……
これは、はるかにひどいものだった。
僕の部屋の壁は見慣れたものだった。隅々まで、ひび割れの一つひとつまで知っていた。闇の中から僕を見つめている何かが隠れていないことも分かっていた。
この場所は違った。
奇妙だ。
見知らぬ。
敵意に満ちている。
何かに見られている気がした。
いや。
分かっていた。
見えない指のような、凍りつく感覚が背筋を滑り落ちた。全身がこわばった。一瞬、筋肉が反応しなくなった。
心臓が胸を激しく打ちつけていた。
ドクン~
ドクン~
ドクン~
一つひとつの鼓動が、前よりも強くなっていった。
空気がさらに重くなっていくようだった。
呼吸が速くなった。
思考が、理解できないほどのもつれとなって混ざり合い始めた。
ドクン~
ドクン~
ドクン~
脚を何か温かいものが伝い落ちるのを感じた。
ズボンを濡らしてしまっていた。
気づいてすらいなかった。
なぜなら、あれが近づいてきていたから。
一秒ごとに、より近くへ。
そして僕には、それが見えなかった。
ドクン~
ドクン~
ドクン~
走った。
まるで自分の命がかかっているかのように走った。
なぜなら、本当にそうだと確信していたから。
僕の足音が、誰もいない通りに響いた。
タッ。
タッ。
タッ。
その反響があらゆる方向から返ってきた。
まるで誰かが後ろを走っているかのように。
まるで何かが僕の動きを真似ているかのように。
路地に飛び込んだ。
壁に背を押し当てて、来た方向を振り返った。
誰もいない。
誰もいなかった。
だが、恐怖は消えなかった。
むしろ悪化した。
ゆっくりと頭を回した。
路地のもう一方の出口は、異常な闇に覆われていた。
それは単なる光の欠如ではなかった。
黒い塊のようだった。
何か生きているもの。
何か呼吸しているもの。
そして最悪なのは……
その中に、確かな気配を感じたことだった。
「くそ……」
唇が震えていた。
なぜ、そこに向かって歩いているんだ。
止まろうとした。
脚を別の方向に動かそうとした。
できなかった。
まるで見えない力に引っ張られているかのようだった。
一歩、また一歩。
もっと近く。
もっと近く。
もっと近く。
やがて、闇の中に二つの目が現れた。
形はなかった。
顔もなかった。
ただ、僕を見つめる二つの光る点だけがあった。
僕を待ちながら。
そのとき、自分の体の感覚がなくなった。
脚も。
腕も。
呼吸も。
すべてが消えた。
いやだ。
いやだ。
いやだ!
どうして僕が死のうとしているんだ。
どうしてだ⁉
死にたくなかった。
受け入れられなかった。
主人公は決して死なない。いつだって守られる存在だ。
分かってる、分かってるよ、ファンタジーでよく使われるあの定番のことは完璧に理解している。
これはただ僕を試しているだけだ。あと数秒で、僕のエッセンスと核が目覚めるはずだ。
世界中の誰よりも上に立てる、超壊れ性能のスキルを手に入れるはずだ。
そういうことが起きるはずなんだ……
だよな?
僕は間違ってないよな。
僕は狂ったように笑い始めた。あの目はどんどん近づいてきていて、自分の中に何かを感じられた。確かに感じていた。
だけど……何も起きなかった。
何一つ起きなかった。
どこにあるんだ。
僕の力はどこにあるんだ? なんで試練を突破して、次に報酬が与えられるっていうシステムのメッセージが見えないんだ?
なんでそれが起きないんだ。
そして、そのとき僕は真実を理解した。
僕は決して主人公なんかじゃなかった。
気づくのがあまりにも遅すぎた、ただの脇役に過ぎなかったのだ。




