大人気ゴッドチューバーの密着警察24時。やらせ無しのガチ逮捕劇で同接爆上がり
大人気ゴッドチューバーの密着警察24時。やらせ無しのガチ逮捕劇で同接爆上がり
『ハァーイ、全宇宙のリスナーのみんなっ! 大人気ゴッドチューバーのキュララちゃんだよっ☆ 今日はなんと、辺境のポポロ村駐在所にやってきてまーす!』
交番のデスクで始末書を書いていた俺の頭上で、パタパタと白い天使の羽を羽ばたかせながら、キュララが自撮り棒付きの水晶カメラに向かって元気よくピースサインを決めていた。
画面の向こうには、数十万人というリスナーがリアルタイムでコメントを書き込んでいるのだろう。
『今日は特別企画!【密着・異世界警察24時】! このクールでイケメンな巡査長、リオンさんの激務に一日完全密着しちゃいまーす!』
「……おい。誰が肖像権の使用許可を出した。それと、俺は『激務』じゃなくて定時退社を推奨してるんだ。帰れ」
『ああっ、リオンさん! そんな冷たい顔もステキ! リスナーのみんな、どんどんスクショしてね!』
俺が冷たくあしらっても、キュララは全く意に介さない。
それどころか、カメラの端に少しでも映り込もうと、芋ジャージ姿のリーザが俺の背後で必死に反復横跳びを繰り返している。
「あ、あのっ! 私、シーラン国の親善大使で地下アイドルのリーザですわ! 画面の前の皆様、どうか私のお賽銭箱(口座)に赤スパチャを――って、ちょっとキュララさん! カメラの画角から私を外さないでくださいの!」
『あははー、なんか後ろで雑音がするけど気にしないでねっ!』
人気ゴッドチューバーと、極貧タダ活アイドル。
交番の中は、同接(同時接続)数とスパチャを巡る女たちの見えない火花が散っていた。
俺は痛む胃をさすりながら、制服の帽子を深く被り直した。
「……勝手に密着するならしろ。ただし、捜査の邪魔をしたら公務執行妨害でしょっぴくからな」
『はーい! 了解でーす!』
俺はパトロールバイクに跨り、エンジンを吹かした。
上空からはキュララのカメラドローンが追従してくる。まあいい、どうせ田舎村のパトロールだ。せいぜい迷子のロックバイソン(牛型魔獣)を探すくらいで、配信の撮れ高なんて――。
『ビーッ! ビーッ! 緊急通報!』
俺の業務端末が、けたたましいアラートを鳴らした。
『タローマート(村のスーパー)にて、窃盗および器物損壊事案が発生! 被疑者は複数。武装したゴブリンのならず者集団です!』
「……フラグ回収が早すぎるだろ」
俺はサイレンを鳴らし、アクセルを全開にして現場へと急行した。
* * *
タローマート・ポポロ村支店。
店のガラスは割られ、中から下品な笑い声が響いていた。
「ギャハハハ! この村の名産『ポポロシガー』と『陽薬草』は高く売れるぜェ!」
「酒も全部持ってけ! 俺様は悪徳神様から【怪力無双】のチートをもらったんだ、こんな村の自警団なんか指先一つで――」
商品を乱暴に袋に詰め込んでいる3匹のゴブリン。
そこに、俺のバイクが急ブレーキをかけて停車した。
上空からは、キュララのカメラがその様子をバッチリと捉えている。
『さぁリスナーのみんな! 事件発生だよ! ここは天使である私の出番だねっ!』
キュララが空中でウインクを決め、無駄に派手なポーズを取った。
『ホーリー・メイクアップ!!』
まばゆい光に包まれ、キュララの服が神聖な『聖騎士の鎧』へと変身する。背中の羽が輝き、いかにもファンタジー世界の天使といった神々しい姿――。
かと思いきや、彼女が亜空間から取り出したのは、鈍い黒光りを放つ『M4カービン突撃銃』だった。
『神の裁き(5.56mm弾)を受けてみよっ☆ ……って、あれ!?』
キュララが銃を構えるよりも早く。
俺はスタスタとゴブリン達の前に歩み寄り、無言で『警察手帳』を突きつけていた。
「ポポロ村駐在所だ。強盗、および建造物侵入の現行犯で逮捕する」
「あァ!? サツだァ!? ナメやがって、俺様の【怪力無双】でミンチにして――」
ブブーッ!!
ゴブリンが棍棒を振り上げた瞬間、その頭上に『※チート凍結(BAN)』の赤い警告ウィンドウがデカデカと表示された。
「……へ?」
「はい、公務執行妨害も追加な」
棍棒の勢いが完全に消え失せたゴブリンの腹部へ、俺は一切の躊躇なくM870ショットガンの銃床を叩き込んだ。
「ごぼァッ!?」とカエルのように目玉をひん剥いて崩れ落ちるゴブリン。
残りの2匹が「ひっ!?」と逃げ出そうとしたが、俺はポンプアクションを引き、非致死性のゴム弾を瞬時に2発撃ち込んだ。
ズドン! ズドン!
「「ギャアァァァァッ!?」」
逃げる背中に的確に命中し、ゴブリン達はスーパーの床に転がった。
俺は流れるような動作で腰から手錠を取り出し、うめき声を上げる3匹の手首を後ろ手でガチャリと拘束する。
現場到着から制圧、逮捕まで。かかった時間はわずか『10秒』だった。
「よし、本庁に応援(護送車)を要請しろ。……おいキュララ、いつまでポーズ決めてるんだ。終わったぞ」
『ええええええっ!? わ、私の見せ場は!? それに今の何!? 手帳見せただけで相手のチート消えたんだけど!?』
キュララが慌ててM4カービンを下ろしながら、カメラのコメント欄を覗き込んだ。
そこには、凄まじい勢いで滝のように流れる視聴者からのコメントがあった。
『うおおおおおっ!!』
『何今の!? クソ速ぇぇぇ!!』
『無駄な動き一切なしwww』
『天使の変身シーンを完全にシカトして秒殺するお巡りさん草』
『あの手帳ヤバすぎだろ、チート特効かよ!』
『ショットガンのポンプアクションASMR助かる』
『迷惑系勇者のやらせ討伐より、100万倍リアルでスカッとしたわ!!』
画面は赤や黄色の高額スパチャ(投げ銭)で埋め尽くされ、同接数は普段のキュララの配信の数倍にまで膨れ上がっていた。
『す、すごい……! リオンさん、トレンド1位になってますよ!? みんな、やらせ無しのガチのプロの仕事に大興奮してますっ!』
「チッ……目立つのは嫌いだって言っただろうが。後でアーカイブ消しとけよ」
俺は舌打ちをしながらも、上空でホバリングしているキュララのカメラ水晶をチラリと見た。
(……だが、あのカメラ。空撮での索敵や、証拠映像の記録としてはかなり使えるな)
少しだけ、このゴッドチューバーの利用価値を再評価する俺だった。
『ああっ! リスナーの皆さん、後ろでなんか芋ジャージの人が「私も映して!」ってジャンプしてますが、気にしないでくださいねっ☆』
(……リーザ、まだやってたのか)
* * *
その頃。
ルナミス帝国の高級ホテルの一室で、シャンパングラスが壁に投げつけられ、粉々に砕け散っていた。
「……ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなァァァッ!!」
勇者ゼロスは、エンジェルすまーとふぉんの画面に映るリオンの姿を見て、血走った目で絶叫していた。
彼の個人チャンネルのコメント欄には、アンチからの書き込みが殺到していた。
『ゼロスの討伐配信、全部やらせだったんじゃね?』
『さっきのポポロ村の警察のガチ逮捕見たら、お前の配信とかお遊戯にしか見えんわw』
『オワコン勇者乙』
「俺が……俺の【マネー】で作った完璧な人気が、たかが田舎の警察なんかに奪われてたまるか……ッ!」
ゼロスはギリッと歯を食いしばり、スマホの連絡先から『ワイズ(炎上神)』の番号を呼び出した。
「……ええ、俺です。例のポポロ村の件……ええ、予定変更です。あの村は、俺のプライドを傷つけた。社会的にも、物理的にも、完全に更地にしてやりますよ」
迷惑系勇者のどす黒い悪意が、ついにポポロ村へ向けられた本気の『宣戦布告』へと変わろうとしていた。
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