7 取り乱す幼女
赤毛の女の子の取り乱しようは他の子の比ではなかった。
ポレットに対する酷い物言いはもちろん気になったが、この子が心配になるくらいに。
「あの」
「こっちにこないでっ!!」
思わずといった様子でリグが声をかけるも、赤毛の子は震えながら拒絶してくる。
戸惑うリグの肩にぽんと手が置かれた。
「行きましょう、リグ。何か理由があるのかもしれません」
「う、うん」
さすがにこれ以上、女の子に何か言うことも出来ず、カオンに促されるままその場を離れた。
しばらく無言で歩き続けたが、リグはハッとなって手をつなぐポレットに視線を向ける。
(馬鹿野郎、まずはポレットのフォローが一番じゃないか!)
あの女の子の反応に驚いて失念していた。酷いことを言われて一番傷付いているのはポレットに違いないというのに。
「ポレット、大丈夫だぞ。ポレットの髪の色、俺は大好きだ」
急に声をかけられ驚いたのか、ポレットは目を丸くして見上げてきた。
きょとんとしている様子から、あの子に言われたことをあまり気にしていないようにも見える。
それはそれで問題だ。もし、ああいった酷い言葉を言われ慣れているのだとしたら、それは落ち込んで泣いてしまうよりも悲しいことだとリグは思う。
(なら、これからはポレットを褒める言葉で満たせばいい。たくさん褒めて、ポレットには自信をつけてほしい!)
リグはニッと笑うとさらに言葉を続ける。
「真っ白はすごく綺麗だし、何より似合ってる」
リグの意図に気付いたのか、カオンも笑顔で加わってきた。
「もちろん、私も大好きですよ」
「だよな! それにポレットは世界一可愛いからなんにも気にしなくていいんだぞ!」
「ふふ、リグは兄馬鹿ですね」
「ちょ、兄馬鹿って……」
クスクス笑うカオンに少しだけ恥ずかしくなったリグの声が萎む。
さすがに調子に乗って褒めすぎただろうかと思いつつ、それでも本心ははっきり伝えたいとも思うのだ。
ポリポリと頬を人差し指で掻いていると、カオンは続けて話してくれた。
「良いお兄ちゃんだということです」
「お兄ちゃん、か……」
なぜだか兄という単語は、リグの心をくすぐった。
今までどこへ行っても一番年下だったリグ。
モッシュに引き取られてからは特に、周りはみんな実力者だし、自分よりずっと大人だしで世話を焼かれる側だった。
だがポレットと出会ったことで、リグは初めて誰かを守りたいと思った。
ポレットを見守りたい、助けてやりたいと。
(俺、ポレットの兄ちゃんになりたいのかも)
本当の両親だけでなく、里親でも見つかればそこでお別れかもしれない。
それでもきっと縁は続く。いつかお別れになるとしても、兄になれたらと思わずにはいられなかった。
「ポレット、俺のことは兄ちゃんって呼んでもいいからな」
照れたように呟くリグを、ポレットはジッと見上げてくる。
キラキラして見えるポレットのアース・アイからは感情を読み取ることはできないが、こくりと一つ頷いてくれたことが何よりも嬉しかった。
◇
日が暮れ始めたころ、別行動をしていた仲間たちと合流したリグはそれぞれ得た情報を交換するため集まっていた。
話題は今晩どこで過ごすか、だ。なにせこの村は小さいためまず宿がない。
そのため町から派遣された役人や兵士のように野営をするつもりでいたが、思わぬ話をモッシュから聞かされたのだ。
「今日は村長が家に泊めてくれるそうだ。明日、子どもたちを乗せた馬車が一台町まで向かうそうなんだが、その護衛を頼まれてね」
「ちょうど良かったじゃん。引き受ける代わりに村長の家に泊めてもらうことになったって感じ?」
「そうだな。報酬を受け取るほどの距離でもないし、先に引き受けてしまった」
兵士を護衛につけるつもりだったらしいのだが、そもそも数も少ないため往復しなければならない。そこへリグたちが来たため、これ幸いと依頼することにしたのだという。
ポレットを屋根の下で休ませられるのはありがたいし、村にとっても役人たちにとっても助かるというわけだ。
早速一行は村長の家へ向かうこととなり、リグは道中でモッシュに訊ねた。
「ってことは、村長に黒いところはなかったってこと?」
「そうだな。村長側も役人側も話に矛盾はない。子どもを虐待する様子も見られなかったし、むしろここは親切な人の多い村だろうな」
「僕も同じ意見かなー。村人も派遣されてきた人たちも良識ある善人だったよ。元々村にいる子どもたちも元気に遊んでよく笑っているしね」
たしかに、村の子どもたちはポレットに対して意地悪は言ったが、それはある意味でこの村が平和だということでもある。
辺境にある村なら閉塞的で排他的な部分があるかもしれないと警戒していただけに、これは良い誤算だ。
それは間違いないのだが、どうしてもあの時の赤毛の女の子の剣幕を思い出すと、リグはなんとも言えない気持ちになってしまう。
「ん、どうしたんだ?」
「それが、先ほど……」
村長の家の前に着いたところで足を止め、カオンがモッシュに先ほどあったことを話そうとした時だ。
聞き覚えのある甲高い声が背後から飛んできた。
「なんでここにいるのっ!?」
「あ……あの子は」
「何の用!? ここはあたしの家よ! 今すぐ帰って!!」
まさしく先ほどの赤毛の女の子がまたしてもすごい剣幕で叫んでいる。
それだけでモッシュもテオドールも、リグたちに何があったのかをすぐに察した。
なおも叫ぶ女の子の声を聞きつけたのか、家の中から村長が慌てて飛び出してくる。
村長も女の子の様子に驚いている様子だ。
「帰れ! 帰ってよ!」
「こ、こら、エルザ! 酷いことを言うんじゃない」
「嫌だ、やだやだっ! あの子がここに来るっていうなら、あたしが出ていくっ!」
「エルザっ!」
そう言い捨て、エルザと呼ばれた赤毛の女の子はくるっと踵を返して走り去ってしまった。
もう日暮れで夜も近い。このままにしてはいけないと判断したカオンが後を追おうとした時、それより早く小さな影が目の前を横切る。
「っ、ポレット!?」
「リグ、追いましょう」
「うん!」
誰よりも早くエルザの後を追うように走り出したのは、ポレットだった。
(あの子が気になる、のかな)
二人の女の子の背を追いかけながら、リグは不思議そうにポレットの背を見つめた。




