6 村での調査開始
野営地から村までは歩いて半日ほどかかった。
ほとんどリグが背負って歩いているとはいえ、ポレットのために休憩を多く挟んだためだ。
四人だけなら陽が真上にくる前には着いていただろうが、今はすでに真上を過ぎた頃。
リグのお腹の虫がぐぅぅぅ、と情けない音を鳴らした。
「もう少し我慢な。村の代表に挨拶してから飯にしよう」
「うっ、ごめん。大丈夫だから気にしないで」
「あはは! 腹の虫は鳴っちゃうものだから仕方ないねー!」
モッシュには気遣われ、テオドールには笑われ、リグの耳は赤くなる。
何が恥ずかしいといえば、ポレットに聞かれているのが一番恥ずかしいのだ。
その時、ポレットのお腹からも小さくキュルルと鳴る音が聞こえてくる。
後ろを見た時にポレットと目が合ったリグは、思わず吹き出して笑った。
「俺たち、おそろいだな」
ポレットもまた、恥ずかしそうにしながらも小さく笑ったように見えた。
村に着くと、モッシュが真っ先に村長のもとへと向かった。
リグたちは少し離れた位置でその会話に耳を傾ける。
リグはポレットの姿を隠すように背負った上から外套を被せており、カオンやテオドールはそんなリグが隠れるようにさり気なく立っていた。
「そうか、町から来なさったのか。今はこの通り村中がバタバタしていてね、もてなしは出来そうにない」
「構いません。食料も自分たちで持って来ていますから。村のものは村で、保護した子どもたちのために使ってください」
「そうかい? 傭兵にしちゃあ、しっかりした男だな。少し誤解をしていたようだ。なんも出来やしないが、ゆっくりしてってくれ」
「ええ、ありがとうございます」
モッシュが村長らしきご老人と話しているのがところどころ聞こえてくる。
どうやらポレットのことはまだ聞かないつもりらしい。もう少し村の様子を見て、安全を確認してから調査に入るのだろう。
こういうことは、現地の者の話だけで判断してはならない。今はちょうど国から派遣された保護団体や役人も来ていることだし、別々で話を聞いて擦り合わせていくのがセオリー。
組織ぐるみであった場合、村長であっても、そして国からの組織であっても信用出来ないなんてことは珍しくないのだ。
さらにいえば、今回は被害者が子どもだ。子どもは特に嘘が吐けず、純粋に起きたことだけを教えてくれる。
おそらくリグの仕事は子どもたちへの聞き込みになるだろう。ポレットも一緒ならより警戒されにくいはずだ。
モッシュはチームの代表として村長や保護団体の責任者、役人に話をしに行き、その他村人への聞き込みはテオドールが適任。
そしてカオンは周囲の警戒担当だ。その時々で、最も危険がありそうな者についていくのがいつもの割り振りだった。
今回はポレットもいることから、カオンはリグについてきてくれることになった。
何かあってもリグ一人だけならその素早さと身のこなしで逃げ切ることが出来るのだが、今はポレットがいる。
それでも逃げるだけなら自信はあるものの、カオンがいれば安全性は大幅に増すだろう。
カオンの強さは尋常ではない。王国騎士団トップ級の剣の腕前なのだ。
穏やかで世話焼きな普段のカオンからは想像もつかないが、チームの中でも断トツの強さを持つ。
(それなのに嫌味なところもなくて、ポレットにもすぐに好かれて、なんでも出来て。嫌になるなぁ、もう)
それでも、リグ自身カオンのことは好きだった。それこそが、カオン最大の強みなのかもしれない。
「村で子ども服を買ってきました。多少サイズが合わないかもしれませんが、目測だから許してくださいね」
「ありがとう、カオン。ポレット、着替えられる?」
カオンが調達してきてくれたのは、ポレットのための服一式と靴だった。
下着は新品だったが靴とワンピースは古着。村で買える服となるとそんなものだろうが、とても状態が綺麗だ。
特にワンピースは袖や裾に絞りの模様が入った藍染めの服で、着古されているからか色が落ちているが、それが優しく爽やかな印象を受ける。
マントで隠してやりながらもぞもぞと着替えるポレットがワンピースを着て出てくると、そのあまりの可愛さにリグの頬が緩んだ。
「とっても似合ってるよ、ポレット」
「ええ、本当に。少し大きめですが、サイズは問題なさそうでよかったです」
「カオンはセンスがいいよ。よく見つけたね」
「ふふ、自分でもなかなかの掘り出し物を見つけたと思います」
少し自慢げに胸を張るカオンは、冗談も上手い。次第に張り合うこと自体が馬鹿馬鹿しいと思えてきたリグは、無意識に肩の力を抜いた。
「これで堂々と村も歩けるな!」
リグがそう言いながら手を差し出すと、ポレットは迷わずその手を取る。
ポレットの小さく頼りない手をしっかりと握ったリグは、ニッと笑ってからゆっくり歩き始めた。
ポレットの負担にならない速度で、ゆっくりと。
小さな子どもに合わせて歩くのは早歩きよりも疲れるのだということを、リグはこの時初めて知った。
もちろん、ポレットのためを思えばこの程度の疲労などあってないようなものだ。
「あ、向こうに子どもたちが集まってる」
「村の子どもでしょうね。保護された子たちは手続きもあって役人の近くにいるはずですし」
村の子どもたちだけというのなら好都合だ。手っ取り早くポレットがこの村出身かどうかを確認出来る。
リグはポレットの手を引き、逸る気持ちを押さえながら子どもたちに近付いていった。
……のだが。
「わぁ、髪が真っ白!」
「おばあちゃんみたい~!」
子どもたちがポレットを一目見た瞬間、そんな言葉を投げかけてきたのだ。
それだけで、ポレットがこの村の出ではないことがすぐにわかった。
「そんなこと言うなよ! ポレットはこんなに可愛いのに!」
リグがそう言い返すと、子どもたちが少しだけ怯むのがわかった。
子どもたちの視野は狭い。おそらく真っ白なポレットにだけ目がいっていたのだろう、近くにリグとカオンがいることに初めて気付いたかのような反応を見せていた。
「リグ、行きましょう」
「で、でも」
カオンがそっとリグの肩に手を乗せたが、リグとしてはどうしてもポレットに対する子どもたちの態度が引っかかる。
その時だった。
「いやっ! 近付かないで! 気持ち悪い!!」
子どもたちの中の一人、赤毛の幼女がひと際取り乱したようにそんな声を上げた。




