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少年傭兵は幼女を拾った。でも厄災の魔女かもしれない。  作者: 阿井りいあ
一章

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5/5

5 責任重大な任務


 リグが幼女の髪を切るのに奮闘している間に、モッシュとテオドールがいつの間にか片付けを終わらせ、出発の準備まで整えていた。


 モッシュは地面に膝をついて幼女と目線の高さを合わせると、言いにくそうに口を開く。


「予定通り今日はこの先にある村に向かう。この子の保護者がいるかもしれない。……その、村に行っても、大丈夫か?」

「モッシュ、その言い方は曖昧すぎますよ」

「いや、しかし……」


 モッシュが言い淀む気持ちも、リグにはなんとなくわかった。

 もしこの子が村で嫌な思いをしていたとしたら、戻るのは危険である可能性だってあるのだ。


 しかし、聞かれた幼女はやはり相変わらず首を傾げるばかりで、それが記憶喪失ゆえなのか本当に知らないだけなのかの判断が誰にもつかなかった。


「それじゃあさ、もし知っている顔を見つけたら教えて、っていうのは? リグの服を三回引っ張るの。出来そ?」


 テオドールがなかなか良い案を出してくれたが警戒しているらしく、幼女はさらにリグの後ろに隠れてしまった。


「ありゃりゃ」

「あんなことしてたら当然だろ! なぁ、えーっと。もし何かに気付いたり、知っている場所とか人がいたら俺に教えてくれるか? 服を三回引っ張るんだ。やってみて」


 今度はリグが訊ねると、幼女はこくんと一つ頷いてからリグの服を三回引っ張った。


「うん、それでいい。移動中は俺が背負っていくからな。裸足だと危ないし」

「僕も背負うよーっ!」

「テオドールはダメ。万が一この子がいいって言っても俺が許さないからなっ」

「なんでよ、リグ。酷くなーい?」


 キュッと足にしがみつく幼女を守るように、リグはギュッと幼女を抱きしめてやった。

 そのまま抱き上げると、改めてその軽さに心が痛む。村に着くまで、いや村に行って町に帰るまで背負っていても疲れない自信があるほどだ。


「リグにも休憩が必要だから、たまに私も交代しようと思うのですが……私でもいいですか?」


 幼女は静かに声をかけてきたカオンの顔を数秒見上げた後、ゆっくりと頷いた。

 背後でテオドールがまたしても文句を言っていたが、全員で無視した。


「むー、みんな酷い。でもさ、これだけは聞いてよぉ!」


 テオドールを置いて歩き始めた一行だったが、話した内容はさすがに無視が出来ない内容だった。


「いくらなんでも名前がないと不便じゃない? こっちが不審に思われても困るしさ」


 たしかに、名も知らない幼女を連れた傭兵チームというのは妙な噂が流れかねない。

 傭兵というだけで粗暴で野蛮な人の集まりだという偏見が今も残っているのだ。

 人里離れた森の中にある村なんて、よりそんな印象を抱く者も多いだろう。


 それに、場合によっては元々連れていた幼女なのだと嘘を吐いたほうがこの子の安全に繋がる場合もある。

 万が一にも幼女を狙う何者かがいた場合、自分たちの連れだと言い張ればおいそれと手出しは出来ないからだ。


 その際、名前も呼べなければ言い訳もなにも出来なくなってしまう。

 単純に、呼び名がないと不便なのもたしかだった。


「リグがつけてあげたらどうだ?」

「ええっ!? それはさすがに……」


 モッシュの提案に、リグはギョッとしたように声を上げた。

 子どもどころかペットを飼ったこともないリグは、何かに名前を付けるということ自体が生まれて初めてのことだ。


「見てみなよ。すっごく期待されてるよ?」


 テオドールに言われて抱っこしていた幼女に視線を落とすと、確かに目をキラキラさせているように見える。


「でも、本当の名前があるんじゃない……?」


 リグがそう問いかけると、幼女は最初の頃と違って迷いなく首を横に振った。


 覚えていない、あるいは名前など最初からないとでも言っているかのように。


 真剣な眼差しでそんな反応を返されてはそれ以上追及もできない。


 しばらくうんうん唸りながら考えていたが、リグは助けを求めるようにみんなに声をかけた。


「ねぇ。みんなだったらどんな名前つける? 参考までに!」


 あまりにも悩むリグを見て、それぞれが苦笑を浮かべながら口を開く。


「そう言われると確かに悩むな……リリー、とか?」

「アリアやマイア、なんていうのも素敵ですよ」


 モッシュもカオンも、悩むと言いながらぽんぽんとアイデアを出してくる。


 ただ、それらの名前は色んなところで聞いたことのある名前だ。

 リグがその中のどれかから選べば間違いないかも、と思いかけた時、テオドールからも意見が飛んだ。


「二人とも無難だなー」

「ならテオドールはどんな名前をつけるのですか?」

「そうだなぁ。ミリューなんてどう? 可愛くない?」

「へぇ、洒落た響きだな。何か由来があるのか?」


 モッシュからの質問に、テオドールは飛び切りの笑顔で答えた。


「僕が初めてキスした女の子の名前!」

「うわ、最低……」

「最低ですね」

「最低だな」


 一行は再びテオドールを無視することにした。


(でも、俺も人任せにしようとしてたもんな。ちゃんと考えなきゃ)


 モッシュやカオンから、この子のイメージや音の響きで考えてもいいんじゃないかというアドバイスを貰う。

 本当の名前があるかもしれないから、気軽に呼び名を考えるつもりで付けたほうがいいのでは、とも。


 言われてみれば、あまり真剣に考えると別れるときに辛くなるかもしれないと考えたリグは、想像だけですでに胸がギュッとなるのを感じたが、首を振って思考を切り替える。


(白い、虹色の目、小さい……小さい? いずれ大きくなるし、小さいって意味で付ければ本当の名前を知った時も辛くないかも)


 思いついてしまえばあとは簡単だった。


「……ポレット、なんてどうかな」

「ポレット、ですか。可愛らしい響きですね」

「いいんじゃないか。この子のイメージにも合う」

「うんうん、リグにしてはセンスあるね!」


 話に入ってきたテオドールのことはひと睨みしてやったが、センスを褒められたのは素直に嬉しい。

 リグは改めて幼女に視線を落とし、本人に聞いた。


「どうかな?」


 幼女は先ほど髪を切った時のようにほんのわずかに口角を上げると、大きく頷いてからリグの胸にギュッとしがみついた。


「よかった。それじゃあ君は今からポレットだ」


 リグはそう言いながら、ポレットを抱きしめる力をほんの少しだけ強めた。

 気に入ってもらえてよかったと、胸の内で安堵しながら。

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