69 魔女とわかった暁には
話を聞き終えたモッシュは少し考えてから再び静かに口を開く。
「事情はわかった。それで、精密検査では何を調べるんだ」
「魔力量の正確な測定と……質、でしょうか。厄災の魔女と同じ魔力を使っていないか、また影響を与えられていないかを調べます」
「……それぞれ、引っかかったとした場合の対処法は?」
重要なのはそこだ。検査に引っかかったとして、ポレットはどう扱われるのか。
場合によってはここで交渉は決裂となる。
(そうなったら……俺たちが敵に回すのは「国」になるのか)
想像さえつかないほどの規模の大きさに、思わず震えてしまいそうだ。
少し前までのリグなら、どうしようもない現実に諦めてしまっていたかもしれない。
けれど今は絶対に諦めたくない理由が、ポレットがいる。頼もしい仲間がいる。
リグは、決意のこもった目をしていた。
「そうですね……魔力量に関しては、どれだけ多くてもテオドールという師匠がいるのでさほど問題ありません。ただ、魔力の質が魔女と同じであった場合、魔女の生まれ変わりか魔女本人として捕縛対象となります」
「……影響を与えられている、というのは?」
「逃げ出した厄災の魔女が何者かに魔法を施し、何かを誤魔化している可能性もあります。その子が魔女に利用されているかもしれないとみなされ、長期的に調査に協力してもらうことになるかと……」
「調査か。万が一、その可能性有りとされた場合……どのような扱いを受ける?」
モッシュがスゥッと目を細めた時、室内の温度が下がった気がした。
先ほどのようにテオドールが何かをしたわけではないのだが、そう錯覚させるほどの圧をモッシュから感じる。
魔法使いは冷や汗をかきつつ、同時に得心がいったとばかりに頷いた。
「なるほど。お嬢様が酷い扱いをされないかが心配なのですね。ご安心ください。魔女と断定されぬ限りは我々がそうならぬよう、目を光らせますゆえ」
魔法使いはピンと背筋を伸ばし、真っ直ぐモッシュを見つめながら断言した。
よく見ると膝の上に置いた拳が震えている。もともと気の弱い御仁なのだろう。
「その言葉、違えないことを祈ろう」
それでも勇気を出してくれたのだ。モッシュ同様、彼は信用に値するとリグも感じた。
これならもしも何かに引っかかることがあっても大丈夫、そう思える。
「……国は今、厄災の魔女を見つけることに全てをかけています。恐ろしい魔女を捕縛し、今度こそこの世から消し去る……我々は平和を脅かす災害の脅威を何より恐れているのです」
とはいえ、厄災の魔女の誤解は解けていない。変わらず危険人物扱いだ。
魔女はいまだ行方不明。ポレットの夢を見た限りだと、ディザは人に迷惑をかけるような魔法の使い方はしないとリグは思うのだが。
(長く、理不尽に捕らえられたんだ。復讐しようと思っていてもおかしくはないよな)
とても悲しいことだが、怒るだけの権利がディザにはある。
ただ事情を知ったからこそ、もし自由になったのだとしたらディザには心穏やかに、誰にも見つからない場所で過ごしてもらいたいと願わずにはいられない。
ままならない。そう思ってリグが悔しさを押し殺していた時だった。
「ディザ、わるくないもん!!」
「っ、ポレット……!」
「どうして、どうしてわるくないのに、つかまえるの。わるいのは、ディザをりようした、わるいひと!!」
迂闊だった。リグでさえ悔しいと思うのだ。追体験したポレットが怒らないわけがない。
ポレットはまだ幼い。その怒りの感情を押さえられないのも無理はなかった。
「わるいひとが、へいきですごしてるのに、ディザがひどいめにあうなら……こんなくに、いらない!!」
「ポレット! だめだっ!!」
急激にポレットに魔力が集まっていく。魔法にそこまで明るくないリグにも、その危険さがわかった。
何より勘が警鐘を鳴らしている。このままポレットを止めないと、大変なことになると。
「リグ、どいて」
「え」
ギュッとポレットを抱きしめていると、すごい力で引きはがされる。
見上げた先にはテオドールが立っていた。
「困った弟子だね……まったく」
テオドールは眉尻を下げながらそう言うと、ポレットに向かって魔力の塊をぶつけた。
それによりポレットは衝撃で吹き飛ばされ、危うく壁に激突するのではないかというギリギリで見えないクッションのようなもので包まれたように柔らかく跳ねた。
「ポレット! テオドール……っ」
「荒療治でごめんね。でも無傷だから。気絶しているだけだよ」
「っ、わかった」
乱暴ではあったが、おそらく今のが最善。
リグはふわふわと浮かぶポレットに駆け寄り、意識を失う彼女を再びその腕に抱いた。
(そうだよな。腹が立ったよな)
ポレットを責めることなんて出来やしない。けれど、非常にまずいことになってしまった。
「や、厄災の、魔女……!」
目の前でポレットの怒りを見た魔法使いが震える声で告げた言葉が、やけに響いて聞こえた。
魔法使いだからこそ、余計にその異常さがわかったのだろう。
ずっと面倒くさそうな様子だったミリューでさえ、驚愕の眼差しでポレットを見ている。
意味のないことではあるが、リグはそれらの視線から守るようにポレットをしっかり抱きかかえた。
幼児とは思えない、いや、テオドールにも引けをとらない魔力を前にしてそう思ってしまうのもまた、無理もないことだった。




