65 行くというならみんなで
気まずい沈黙を挟み、最初に口を開いてくれたのはモッシュだ。
モッシュは一度リグに優しい目を向けると、すぐミリューに視線を戻した。
「リグの言う通りだな。ポレットは見ての通りまだ幼い。保護者がともに行くのは当然だよな?」
「あらぁ、そうきたのね。いいの? この後は別の町で復興作業が控えているんじゃなかったかしら?」
「国からの要請というのなら仕方ない。俺は特に、あまり逆らえない立場なんでな」
モッシュの言ったことは正論だ。ミリューがわずかに顔を歪ませていることからもわかる。
きっとこちらが黙っていたら、ただポレットを連れて行かれるだけだっただろう。あるいはただの一般傭兵だったら、聞き入れてくれなかったかもしれない。
(モッシュだから。そしてテオドールとカオンがいるから、この人もあまり強くは出られないんだ)
身分なんて邪魔なだけだとテオドールはうんざりしていたが、いざという時に自分たちを助けてくれるのもまた身分。
そして、どうせ持っているのならカオンの言うように使える物は使うべきということなのだろう。
そうでもなければ、モッシュは遠回しにでも自分の立場をひけらかすようなことを言ったりしない。
「あはっ、僕らはチームだからね。リーダーが行くというのなら僕も行く~」
「それなら私もですね。一人で留守番したって意味はありませんし」
「みんな……」
テオドールやカオンも同意し、リグの肩に腕を回してきた。
リグは、全員がポレットを守ろうと、そして自分の味方をしようと動いてくれたことが何よりも嬉しかった。
ミリューは小さくため息を吐くと、諦めたように微笑んだ。
「んもー、厄介者が勢ぞろいで入城ってこと? んふっ、面白いじゃない。私はその子を連れてこいと言われただけで、その他のことは頼まれてないから勝手についてきたらいいんじゃない?」
どうやら止めようとはしないらしい。それが意外だと思う反面、面白そうという感想を抱く辺りテオドールみたいだと感じる。
魔法使いというのは本当にこういう人が多いのだろうかと思わざるをえない。
なんにせよ、話が通じないわけではなさそうだ。
ミリューは人差し指を立てると、最後につんとした態度で言葉を付け加えた。
「でも、そこから先は知らないわ。城に入れてもらえるかはわからないわよ。その理屈が私のように通じるとは思わないことね」
「やー、話が分かるね、ミリュー! 君はやっぱり魅力的な女性だ!」
「私が魅力的なことは太陽が毎朝昇ることと同じくらい当たり前のことよ」
最初は恐ろしいとしか思えなかったミリューが、ほんの少しだけ親しげに感じるのは放たれていた威圧感が消えたからだろう。
ここで気を許すわけではないが、緊張しっぱなしだったリグはようやく少し息が出来る気がした。
「リグ、にぃ。いっしょ?」
ポレットも場の雰囲気が和らいだことを察知したのだろう、それでもまだどこか不安そうな声で訊ねてくる。
リグの服をギュッと握りしめたままのポレットを安心させるため、リグは頭を撫でながら答えた。
「ああ、ずっと一緒だ。俺は絶対にポレットから離れないからな」
「……うん!」
そうはいっても、城に行ったらまた離されるかもしれない。
検査だといって連れて行かれるかもしれない。
ポレットが……魔女の力を持っていると判断されるかもしれない。
(嫌だ。絶対に離れない。ポレットは俺が守るんだ)
今はまだ乗り込むような形で一緒に城に向かうことが決まっただけ。心強い味方がいるのは間違いないが、不安は消え去ってはくれない。
こんなにも不安なのは、自信をもって「ポレットは無害だ」と言えないからだ。
厄災の魔女と何らかの関係があることはすでに明らかだが、まだ何も判明していないため捕えられてしまうかもしれないことに怯えてしまう。
(どうしてポレットが夢で魔女のことを見てしまうのか。どうしてこんなにも魔力があるのか。それを解き明かさないと)
わかったらわかったで、厄災の魔女だということを証明してしまうかもしれない。
けれど、このまま逃げ続けて怯えながら暮らすのは嫌だった。ポレットにそんな暮らしもさせたくない。
城に行くことで何かがわかるなら、むしろチャンスだ。リグはそう考えることにした。
「リグといったかしら」
「っ、な、なんだよ」
ふいにミリューに声をかけられ、再び肩に力が入る。
ミリューは愉快そうに目を細めると、ずいっとリグに顔を近付けてきた。
ふわりといい香りがして、反射的にリグの顔が熱くなる。
「育て甲斐のありそうな坊やね。さっきの威勢、とても良かったわ。それに、よく見たら可愛い顔してるじゃない」
「っ!?」
するり、と頬を撫でられたリグの全身に鳥肌が立つ。強い魔物を見つけた時とはまた違う嫌な感覚に言葉も出てこなかった。
ただ身体が勝手に反応し、ポレットを抱きしめたまま勢いよく後方に跳び距離をとっていた。
「あら。つれないわね。でも素早い動きだわ。この私が目で追えなかったなんて」
「ちょっとミリュー。リグに手を出すのはやめてよ。そうやって僕のファーストキスも奪ったよね」
「良い男は見逃さないだけよ。ふふっ、そう怯えないで。冗談よ、リグ。仲良くしてね」
手をヒラヒラ動かしながらウインクをしてくるミリューに、リグはげんなりした。
「リグにぃ。ポレット、あのひと、ちょっとにがて……」
「……ああ。俺も苦手だ」
腕の中で素直な感想を告げるポレットに同意を示しつつ、リグは大きなため息を吐く。
「ふふ、おそろいだね」
けれど、屈託なく笑いながら小声で言うポレットを見ていたら一瞬で心が癒されるのを感じた。




