63 ついに打ち明ける時
モッシュも帰ってきたことで、今日はリグたちの止まっている部屋にルームサービスを頼み、朝食を摂ってから次の町へと向かうこととなった。
落ち着いて話すなら今しかない、とリグはポレットと一緒にこれまでのことを打ち明けることにした。
最初こそ緊張したものの、自分でも思っていた以上に冷静に伝えることが出来た。
話を聞くモッシュたち三人が最後まで口を挟むことなく聞いてくれたことも大きいだろう。
ポレットの夢の話やリグの推測まで全て話し終えた頃、気付けばカオンが食後のお茶を淹れてくれていた。実に絶妙なタイミングだ。
「……って感じで、俺からの話は終わり。さすがに俺だけで抱えきれなくなってきて、それで、ポレットと相談してみんなに話すって決めたんだ」
リグがそう話を締めると、隣にいたポレットが力強く頷いた。
きっとみんなは真剣に受け止めてくれる、と思ってはいたのだが。
「は~~~、そんな歴史だったんだねぇ、厄災の魔女!」
「……なんかさ、こう、テオドールの反応は力が抜けるよ」
「諦めろ、リグ。テオドールは今歴史に対する好奇心しかない」
予想通り、いや予想以上に軽く受け入れられたため、リグも脱力してしまう。
だが、ある意味でそれがよかった。一切疑うことなく信じてくれたことがやはり嬉しい。
とはいえ、テオドールの食いつきは凄まじく、知られざる歴史を知った感動で興奮しているようだ。
「だってさ、これまでどれだけ調べてもわからなかったんだよ? 魔塔で地位を得て閲覧禁止エリアの書庫にも立ち入れるようになってさ、それでも真実はどこにもなかったんだ。興奮せずにはいられないよ!」
基本的にやる気のないだらだらした姿を見せることの多いテオドールだが、やはりこういうところで魔法使いなのだと改めてリグは実感する。
知的探求心や好奇心のためなら平気で寝食を忘れてしまう。だからこそリグの話を誰よりも真剣に聞いていたのだろう。
「当時の王族は厄災の魔女を利用したんだ。そりゃあ明るみに出したくないよねぇ。消された歴史ってやつ」
「おい、テオドール。そんな話を……」
「すでに結界を何重にも張ってるよ。ご心配なく」
いくら部屋の一室で話しているとはいえ、どこで誰に聞かれているかわからない。……というモッシュの心配は最初からいらなかったようだ。
モッシュは呆れたようにカオンと目配せしている。もちろんリグもやや引き気味だ。
「で、リグは何が心配なの? たしかにとんでもない事実を知っちゃったけどさ、それは全て過去の話じゃん」
「そうやって割り切れたらいいけど……でも」
ようやくテオドールが少し落ち着いた時、リグはいよいよその時が来たと思った。
何が心配なのか。そんなもの、最初から決まっている。
「どうしてポレットがそんな夢を見たのか、ですか?」
「う、うん。そう……」
「そろそろ、この話もしたいから私たちに打ち明けてくれたのですね」
言い淀むリグの言いたいことを、カオンが代弁してくれた。
不思議そうにこちらを見上げてくるポレットの顔を見ていると、ギュッと胸が締め付けられる。
しかしカオンの言う通り、一人でその事実をポレットに告げるのが辛くて、リグはみんなに頼ったのだ。
ポレットを傷付けるかもしれない、ポレットが受け止められるかが心配だ、そんな不安と心配で押しつぶされそうだから頼りたかった。
準備は整った。リグはギュッと拳を作ると、覚悟を決めたように顔を上げた。
「うん。でも俺が話す。みんなは一緒に聞いてて。それで……フォローしてくれたら、助かる」
「あはっ、素直でよろしい」
ガシガシと乱暴に頭を撫でてくるテオドールの手を振り払い、口を尖らせてから改めてポレットに向き直る。
ポレットは相変わらず不思議そうな顔をしていたが、真剣な雰囲気は感じ取っている様子だった。
心臓の音がうるさい。だが、今はテオドールも防音の魔法を張ってくれている。
絶好のチャンスだ。リグは深く息を吸った。
「ポレット。どうしてポレットが厄災の魔女の夢を見るのか、そしてなんでそんなにたくさんの魔力を持っているのか。実は俺たち、ずっと思い当たることがあって——」
「っ、みんな静かに」
勇気を出して話を切り出したその時、急にテオドールがリグの口止めをしてきた。
なんだよ急に、と文句を言いかけたが、その様子があまりに真剣で、すぐにリグも警戒を強める。
すでにモッシュとカオンは臨戦態勢で、ただならぬ空気が流れた。
「いやね、テオドール。私に隠しごとだなんて」
そんな時、場にそぐわぬ明るい女性の声が響く。
あり得ない、リグは第一にそう思った。
ここはカオンが特別に取ってくれた高級宿で、最上階で、テオドールが防音の魔法まで張っていたというのに。
窓の外でふわりと浮かび、乱暴に窓を開け放したその女性は、蠱惑的な微笑みを浮かべていた。




