58 ルームサービスパーティー
カオンとモッシュを見送った後、リグとポレットはテオドールの部屋に移動した。
テオドールは早速ご機嫌な様子でルームサービスを頼むと、あっという間に軽食や飲み物が部屋に並ぶ。
「さすがに頼み過ぎじゃない……?」
「いーの、いーの。カオンのポケットマネーだから」
「そういう問題じゃなくてさ……いや、それもだめじゃないか?」
「食べきれないものは空間魔法で収納しちゃうし」
「ま、まぁ、こういう時、魔法って便利だよな」
あとで叱られやしないかと思いつつ、目の前にご馳走が並んでいるのを見てリグも思わず喉を鳴らす。
すでに頼んでしまった分を返すわけにもいかない、と言い聞かせ、嬉しそうにハムを食べるポレットと一緒にリグは好物のチーズに手を伸ばした。
濃厚な味わいに舌鼓を打ちつつも、リグはやはりどこかで疎外感を感じてしまう。
「リーグ!」
「うわ、痛っ」
そんな時、つんと強めに額を指で押され、リグは慌てて両手で額を押さえた。
じろっとテオドールを見るも、相変わらず悪びれた様子なくにやっと笑っている。
「何を考えてるか当ててあげよっか。僕たち大人組はすごい肩書があるのに、自分はなにもない、とか思ってるんでしょ」
「なっ」
「その上、最近はポレットちゃんも魔法使いとして有名になっちゃうことが多かったし、焦ってるんだ」
心の内をべらべらと暴かれ、腹が立つような、テオドールが恐ろしいような、複雑な気持ちだ。
リグはふいっと顔を背けると、口を尖らせてぶっきらぼうに返事をする。
「う、うるさいな」
「可愛いとこあるじゃん」
「からかうなっ!」
最近はテオドールの絡みもさらっと受け流せるようになってきたが、やはり遠慮なく人の触れられたくない部分に踏み込んでくるやり方は気に入らない。
久しぶりに鬱陶しいと感じていたリグだったが、意外にもテオドールはふっと困ったように微笑んで、静かな声色で言葉を続けた。
「ねぇ、リグ。これを言うとなんか安っぽく聞こえるけど……肩書なんてないほうがいいよ」
あまりにも珍しい態度だったため、リグも肩の力を抜いてしまう。
その言葉にも、妙に実感が込められてるように感じた。
「肩書ってね、首輪みたいなものなんだよ。優遇されるし、美味しい思いもたくさんする。でもさ……だんだん周囲の人たちは首輪しか見なくなるんだー」
「首輪しか……?」
「そ。ただの『テオドール』として接してもらえるようになったの、モッシュたちとチームを組むようになってからなんだよね」
あまりにもさらっと重い話を聞かされ、リグは息を呑む。
テオドールもまた、魔塔で疎外感を感じていたようだ。
(それって、テオドールの能力だけを必要としているみたいだ)
都合の良い時にテオドールを頼り、働かせ、うまくいかなければ責任を押し付けられる。
かなり昔、大人たちが話していた内容をぼんやりと思い出し、リグは今初めてその時の話を理解した。
テオドールが嫌になって魔法省を飛び出す気持ちもわかるというものだ。
一般的に、魔法省に就職すれば将来安泰だと言われているが、優秀過ぎると搾取されてしまうだなんて思ってもみなかった。
「だから、今がすごく楽しいんだ!」
「テオドール……」
「それにさ、肩書きがあっても、みんなを救えるヒーローになんてなれない。誰しも手が届く範囲でしか仕事は出来ないし、抱えられる重さってのには限界がある」
恐らくテオドール自身が体験したことによる話なのだろうが、なんとなくカオンやモッシュも似たような経験をしてきたのではと予想出来る。
傭兵として活動してきたリグにだって、全てを助けることは出来ないと歯痒い思いをしたことはあるのだ。
大人メンバーたちのような責任の重さはないが、だからこそ上の立場だったらその重責はどれほどのものか、リグにはまだ想像もつかない。
「なのに、取りこぼすと急に非難が集中するんだよ。理不尽だよね。勝手に期待しておいてさー。ま、そのための肩書きなんだけど」
「……責任が伴うってことだよな」
「おっ。賢いね、リグ」
明るく話してはいるが、本当に色々なことがあったのだろう。
それこそ、久しぶりに王都に来たというのに、顔も出したくないほどに。
「今の僕は、このチームを守るためだけに力を使ってる。仕事中はその仕事内容のためだけに。目の前のことだけを守ればいいっていうのは、すっごく気楽でいいよ~」
もちろん、自由な傭兵生活にもそれなりの代償はあるし、結局傭兵に所属している以上は国に鎖でつながれているようなものでもある。
ただ人には向き不向きがある。テオドールにはこの自由な生き方が性に合っているのだろう。
天才的な実力があるせいで、担ぎ上げられてしまっただけなのだ。
そうはいっても、人の上に立つことが向いている人もいる。
そして、向いていなくともその立場から逃げられない者も。
「そう考えると、王様って大変だな。見捨てることも放り投げることも出来ないじゃん」
「へぇ、そこに気付くとはね。案外リグみたいなのが王様に向いてるのかも」
「え、なんでそうなるんだよ。天地がひっくり返ってもあり得ない」
「あははっ! それはそうなんだけどねーっ!」
自分が王様だなんてとんでもない話だ。想像だってしたことがないし、憧れすら抱いたこともない。
テオドールの話を聞く内に、リグは自分がそういう肩書きというものを求めていないのだということに気付く。
それはそれとして力は欲しいとも思っているため、自分の中にある矛盾に苦笑してしまった。
スッと目の前にローストビーフの乗ったお皿が差し出される。
視線を上げるとテオドールが口角を上げていた。
「リグはさ、僕らにないものを持ってるよ。僕ら大人組はそれが羨ましいんだ」
「俺は何も……」
否定しかけたリグに対し、テオドールはさらにお皿をぐいっと押し付けてくる。
まるでそれ以上の言葉を許さないかのようだ。
「ほらほら、今日はたくさん食べな! こういう時に遠慮したらもったいない! ポレットちゃんもね!」
「ハム、おいし! これもすき!」
「そうだね、おいしいね! アップルパイが気に入ったのかな? 追加注文して収納しておこうか」
「やったー!」
無邪気に笑うテオドールとポレットを見ていたら、悩んでいたことが本当にちっぽけなもののように思えてくる。
とうとうリグは諦めて、ローストビーフの追加注文をねだることにした。




