56 気の進まない寄り道
次に向かう町も復興の手伝いが主な仕事となるらしい。少しずつ氷山に近付きながら町を渡り歩くようなので、次の町といっても意外と近い。
実際、これから向かう町も丸一日ほど馬車で移動すれば着く距離だ。
「道の舗装をしながら来い、だなんて……人使いの荒い上層部だよねー」
馬車の屋根で胡坐をかき、常に魔法で道を整備しながらテオドールがぼやく。
移動中も休みなしだと思えば、愚痴を言いたくなる気持ちもよくわかった。
「その分、報酬が上乗せされるだろう。もちろん、上乗せ分はほぼテオドールの取り分だ」
「え、本当? それなら張り切っちゃおうかな」
「ポレットも、がんばる!」
「うんうん、上乗せ報酬の残りはポレットちゃんのお小遣いにしようねー」
「ねー!」
ポレットは「報酬の上乗せ」の意味をわかっていないが、普段あまりやる気を見せない師匠の張り切る姿が嬉しかったのだろう、二人でキャッキャと楽しそうだ。
今はテオドールがいるから特別にと、普段は上ることさえ許されていない馬車の屋根にいるから余計に興奮している。
もちろん、ポレットもテオドールに見守られながら魔法で整備の手伝いをしていた。
最初こそ加減が出来ずに失敗も多かったが、町での復興作業で数をこなしたおかげで今は文句のない綺麗な道があっという間に出来上がっている。
幼いながらも、すでにポレットは立派な戦力。とはいえ、戦闘の許可だけは当分の間後回しだ。
出来ることなら魔物であっても命を奪う行為はさせたくないというのがリグを含めた大人たちの共通認識だった。
「この先、数年は復興ばっかりになりそうだよな」
「あの災害があった日から覚悟はしていたがな。たまたま俺たちは僻地にいたから復興の手伝いが遅れただけで」
「あー、それはたしかに。あの時現場付近にいたチームはもっと大変だっただろうなぁ」
そう考えると、リグたちの労働環境はまだましなほうかもしれない。あの日から休みなく復興作業を続けているチームも多くいることだろう。
「だからこそ、辺境の地にいたチームが今こうして交代に来ているのですよ。まぁ、私たちのチームは魔法使いたちの評判を聞きつけて予定より早まったようですが」
「てへっ、ごめんね? 僕らが優秀すぎるばっかりに~!」
「構いませんよ、復興作業の役に立つのですから。ただ……」
反省ともいえないテオドールの反省をスルーし、カオンが顔をしかめながら言い淀む。
その気持ちはわかるのか、テオドールもまた嫌そうに顔を歪めて大きくため息を吐いた。
「整備なんかよりもずーっと気が重いよね。王都に立ち寄らなきゃいけないなんてさー」
「完全同意ですね」
「はぁ……仕方ねぇだろう。腹を括れ」
二人を宥めるモッシュも、面倒だという気持ちが顔に出ている。
一方でリグは王都に縁がないため特別何か思うことはない。ただ、三人それぞれの立場を思うと想像は出来た。
(王都で名が知られる存在っていうのも大変なんだな……)
それほどの実績と実力があるということでもあるのでリグとしてはすごいことだという認識なのだが、三人の様子を見ていると良いことばかりではないとわかる。
(でも、すごいことに変わりはないよな。……俺なんて、ただのガキなのに)
近頃はポレットも有名になってきているので、ますますリグの自己評価は低くなっていた。
しかし、落ち込んでいる暇はない。今は気持ちを切り替えて、せっかくの王都をしっかり見ておきたい気持ちがある。
そのためには、この三人にもしっかり切り替えてもらわなければならない。
「少しずつ氷山に近付いていくから、寒さ対策も必要なんだろ? いろいろと買う物もあるし、俺は王都は初めてだし……案内頼んだからなっ」
「そうですね、王都で良いものをたくさん仕入れておくと思って乗り切りましょう。リグとポレットには、王都の良いところを見てもらいたいですしね」
こうして、リグとポレットはカオンたちから王都の名所や美味しい食事のお店などの話を聞きながら旅を続けた。
◇
王都に到着したのは完全に陽が落ちた後だった。
歩道を整備しながらの移動だったため、時間がかかったのだ。
すでに門限が過ぎており、王都に入ることは出来ない。
今日は近くで野営をするかと思われたのだが、カオンがスッと前に出た。
「まさかライスナーの名を使う気か?」
「ええ。ずっと野営みたいなものでしたし、そろそろポレットをちゃんとしたベッドで休ませてあげたいじゃないですか」
「それはそうだが……いいのか?」
「モッシュだってわかっているでしょう? 使える物は使う。家名なんてただの手札の一枚ですよ」
モッシュの心配そうな顔とは真逆に、カオンはにっこりと笑う。
それを見て思わずリグは背筋が冷えたのだが、そう思ったのはリグだけではないようで。
「カオンってこういうところが怖いよねー……」
「何か言いましたか、テオドール」
「なんでもなーい!」
カオンだけは敵に回してはいけない。その場にいる誰もがそう思った。
早速、カオンは門兵に話をつけにいった。
リグたちは少し離れた場所でカオンを待つ。
「貴族ってだけで、夜も出入り自由なのはどうしてなんだ?」
「国や町の治安を守るのが貴族の仕事の一つだからな。緊急時にいちいち許可を申請していられないだろう? ……というのが表向きの理由だな」
「表向きの……」
そう言って言葉を濁すモッシュに、リグの表情は引きつる。
要はそれらしい理由はあるものの、貴族特権があるということ自体が大事なのだろうとすぐに察した。
リグもだいぶ、大人の考えがわかるようになってきたものだ。
そんな中、テオドールが誰にともなく呟く。
「……面倒ごとが起きませんようにー」
「やめろ、テオドール。言葉にすると本当になりそうだ」
「しなくても絶対に何かあるでしょ。それなら、せめて祈っておいたほうがいいじゃん」
いちいち不吉なことを言う魔法使いだ。
せっかくの王都滞在だが、心配がつきないリグであった。




