55 正反対の旅立ち
最強魔法使い二人組のおかげで、町の復興はみるみる進んだ。
町中にある大きな瓦礫を撤去した後は、町へと続く道の整備を迅速に行ったおかげで物資がたくさん届くようになったからだ。
物だけでなく人も大勢派遣され、あとは町の者たちだけでなんとかやっていけるだろうというところまできた。
その間、約半年。
数年、下手したら十年近くかかるのではと思われた作業が、こんなにも短縮されたのはやはりテオドールとポレットの力によるところが大きい。
そのおかげか、この町ではすさまじい魔法を連発するテオドールに恐れを抱く者はほとんどおらず、むしろ崇拝する者が出てくるほどだ。
ポレットやリグは誇らしいと思ったのだが、本人は嫌われていた時のほうが生き生きとしていた気がする。
つくづく、テオドールという男は天邪鬼らしかった。
「なんだかあっという間だったね、半年って短い」
「リグもそう思うんですね。大人になるともっと時間の経過が早く感じますよ」
「そうだぞ、リグ。気付くと五年、十年経ってるからな!」
次の町へと旅立つ日、リグは花壇を眺めながらしみじみと思う。
しかし、カオンやモッシュの元も子もない話に思わず脱力してしまった。
大人というのは、どうしてこうも若者を「こっちの世界」とやらに引き込みたがるのか。
「蛍花も満開ですね。本当にこの花は一度芽吹けば成長も早い。この光景が見られてよかったです」
改めて蛍花の咲き誇る花壇を見て、カオンが嬉しそうに呟く。
本当ならもう町を出て行く準備は万端なのだが、苦労した分思い入れもひとしおで、なかなか発てずにいるのだ。
リグだって同じ気持ちだ。そうとは言わないけれど、モッシュやテオドールでさえ、もう少しこの満開の蛍花を見ていたいに違いない。
「ほかのはなも、みたかったな」
「そうだなぁ、そこだけは残念だな」
ポレットの寂しげな声に、リグの眉尻も下がる。
誰よりも花壇の再生に力を入れていたポレットは、余計に離れがたいだろう。
しかも、他の花壇の花がようやく芽を出した頃に出発しなければならないなんて、後ろ髪を引かれるに決まっている。
「ポレットちゃん、またいつでも様子を見に来ておくれ」
「何年経っても、この花壇の美しさは俺たちが守ってやるからよ」
町の人たちがしょぼくれるポレットを慰めてくれているが、ポレットは頷きつつもその表情が晴れることはない。
出来れば笑顔で去ってほしいと誰もが思ったその時、テオドールの下に真っ白な鳩が手紙を携えて舞い降りた。
使い魔がエルザの手紙を運んできてくれたのだ。
この町に来てからは忙しくてなかなか手紙を出せずにいたポレット。蛍花の芽が出たところでようやくエルザに手紙を送ったのだが、エルザのほうも忙しいのかずっと返信が来ていなかった。
それがまたポレットを落ち込ませていたのだが、ここへきてついに待ち望んでいた手紙。
ポレットの顔が少しだけ明るくなった。
「どうだ? エルザはなんて言ってた?」
少しでも励ましてやりたくて声をかけると、ポレットはバッと手紙をリグに見せながら目を輝かせて言う。
「エルザも、おはな、みたいって! このまちに、きたいって!」
「! そうか。きっとポレットが植えた花を見たいんだろうな」
ようやく笑顔が戻ったポレットに、リグたちはもちろん町の人たちもホッと安堵の息を漏らす。
ポレットも、自分が頑張って再生させた花壇を友達に認めてもらえたようで嬉しいのだろう。
手渡された手紙を改めて読んでみると、そこには約束が書かれてた。
『今は無理だけど、大きくなったら一緒にその町に行くわよ。案内はまかせるからね、ポレット』
いつかまた来ようね、というリグたちの曖昧な言葉より、友達からの力強い約束のほうが現実味がある。
なんだかエルザに負けたみたいで複雑な心境だが、今はポレットの元気を取り戻してくれた彼女に感謝だ。
「改めて傭兵チームの皆さん、貴方たちのおかげでこんなにも早く復興出来ました。感謝してもしきれません」
「いや、俺たちだけの力じゃないさ。町の人たち自身が立ち上がったからこそ。あー……テオドールやポレットの魔法は反則だったかもしれないが」
モッシュの冗談に町の人たちからも笑い声が上がる。
この町では強力な魔法使いに良い印象を残せたようだ。
強い力は使い方次第で善にも悪にもなる。受ける印象は、使った魔法によって決まるのだろう。
厄災の魔女ディザもまた、凶悪な魔物を倒すような魔法ではなく人々のためになる魔法を使ったからこそ、周囲の人にも受け入れられたのだろう。
(きっと、ずっとそういう魔法だけを使っていきたかっただろうに……兵器として利用されて絶望しただろうな)
魔女の歴史を思うと胸が苦しくなる。
人というのは、本当に自分勝手な生き物だ。
悲しい思考に沈みかけた時、町の人の明るい声がリグを連れ戻す。
「テオドールさんやポレットちゃんの素晴らしさは語り継いでいきますよ!」
「えっ、僕!? えぇー……?」
「そうですよ! テオドールさん、貴方の力は恐ろしいほど強い。けれど、この半年見ていればわかります。貴方は間違った力の使い方をするような人じゃないって」
正面からそんなことを言われたテオドールが、困惑したように一歩後退っている。
その姿がなんだか面白くて、リグはさっきまでの暗い感情が薄まっていくのを感じた。
「貴方は素晴らしい魔法使いです!」
「そうそう。こんなにすごい師匠がいるなら、ポレットちゃんだって立派な魔法使いに成長するはずさ!」
「……あー、はは、まいったなー。照れちゃうじゃん」
真っ直ぐな賛辞は、普段飄々としているテオドールの弱点かもしれない。
「テオ、いじわるだけど、いいまほうつかい!」
「ちょっと、ポレットちゃん? 意地悪は余計だよっ!!」
困ったように頬を掻くテオドールに対し、褒められているのかわからないポレットからの追撃に一同はさらに笑った。
(前の町を立ち去る時とは正反対だな)
酷い惨状の町にたどり着いた時はどうなることかと思ったが、まさかこんなにも満たされた気持ちで去ることが出来ようとは。
「ディザもきてくれたらいいな」
「……そうだな。きっと見てくれる。花壇を綺麗にしてくれてありがとうって、思ってくれるさ」
無邪気なポレットの言葉を聞くと余計に思わずにはいられない。
全ての人たちがこうして、人の本質を見て判断してくれたらいいのに、と。




