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少年傭兵は幼女を拾った。でも厄災の魔女かもしれない。  作者: 阿井りいあ
一章

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54 花壇再生奮闘記



 テオドールやポレットの魔法使い組の働きもあって他の部分に手が回るようになり、町の復興は大きく進んだ。


 また、夜な夜なポレットが花壇を作る様子を見て手伝いたいという町の者たちも増え、花壇作りもどんどん捗り、ひと月後には見事な花壇が蘇った。


 花壇の仕切りとなるレンガの最後の一つをポレットがはめた時、周囲で歓声が上がる。

 ポレットもぴょんぴょん飛び跳ねながら喜び、嬉しそうにリグに訊ねた。


「これで、おはな、さく?」

「さすがに種を蒔かないと。ここにはどんな花が植わってたんだろう?」


 ポレットの愛らしい質問に、泥だらけになって疲れ切った町の人たちの顔にも笑顔が浮かぶ。

 子どもの純粋な気持ちというのは、精神的疲労回復に効果抜群だ。


 だからこそだろう、リグの疑問に町の人たちのほうからおすすめの花を教えてくれた。


「蛍花がいいよ! 町のシンボルなんだ」

「蛍花? けっこうどこの町でも見かけるよな?」

「そう。ありふれた花だが災害後の土地でも咲くだろうし、まとまって植わってると風に乗って光る綿毛が飛んでいくのがすごくきれいなんだぜ!」

「へぇ……たしかに見ごたえがありそうだな。それに、種の調達も簡単そうだ」


 蛍花は比較的メジャーな黄色い花で、どこに植えても簡単に育つ野花の一種だ。

 丈夫で強く、雑草の扱いをされることも多いが、見た目の愛らしさと光る綿毛が美しく、好む人も多い。


 光りながらふわふわと風に乗って飛んでいく綿毛の様子が蛍に似ていることから蛍花と呼ばれており、ポレットも見かける度に綿毛を摘んではふぅっと息を吹きかけ、種を飛ばして遊んでいる。


「さすがに蛍花だけでは寂しくないかい? 他の場所には違う花を植えて、土の状態を観察するのはどうだ?」

「花屋なら詳しいかもしれないな!」

「俺、連れてくるよ!」


 町の人たちが口々に提案を出し、疲れ切っているというのに駆けまわっている。

 すでに夜も更けているのだから明日でもいいのに、皆花壇の完成で興奮が冷めていないのだろう。


 リグもまたワクワクしている自分に気付く。つまり、ポレットはもっとだろう。


 目を輝かせながら花壇を見つめるポレットの頭をリグは優しく撫でた。


「花壇いっぱいの花が見られるの、楽しみだな」

「うん、たのしみ! おはなさいたら、ディザ、くるかなぁ……」

「う、うーん、どうだろう。会えるかはわからないけど」


 せっかくの前向きなポレットを悲しませたくない。

 リグは少し考えてから明るく告げた。


「この花壇があれば、いつ来ても大丈夫だ」

「……うん!」


 それにリグも、ディザがいるならこの喜びを伝えてやりたい、そう思った。


 ◇


「リグにぃ、リグにぃ! きて! はやくぅ!」

「んぁ? ポレット……うぅ、もう朝、か……?」


 ひと月後、まだ薄暗い早朝からポレットは眠るリグを揺すり起こしてきた。

 どうやらかなり興奮しているようで、今が何時かなどポレットには関係ないらしい。


 毎日疲れ果てるまで肉体労働をしていたため、リグの身体もだいぶ慣れてきてはいたが、それでもここまで朝早く起こされるとすぐには動けない。

 しかしこのまま寝たふりをしたところで延々と揺すられ続けることを思えば、すぐ起きてポレットに付き合うのが正解だろう。


 リグは緩慢な動きで上半身を起こしたが、それさえも待てないとばかりにポレットが腕をぐいぐい引っ張ってくる。

 まだ辺りは暗いというのに元気いっぱいだ。


「わかった、行くからあんまり引っ張らないでくれ、ポレット」

「むー! わかった! はやく、はやくっ!」

「はいはい」


 ポレットの様子からして危機が迫る状況ではないことはわかる。だからこそリグの頭もすぐには働かないのだ。

 だがここまで興奮している理由は気になるところ。


 リグは軽く伸びをすると、ポレットの後に続いて静かに野営用テントから這い出した。


 ポレットが連れて来たのは、例の花壇だ。

 予想はしていたため驚きはないが、ポレットの大興奮の理由が一目でわかってすぐに頬が緩む。


「芽が出てるな!」

「うん! いっぱい! ね、はなさく? いっぱいさく?」

「ああ、いっぱい咲くぞ!」

「やったーっ!!」


 花壇が完成したあの日からすぐに蛍花の種を植えたのだが、すぐに芽が出るはずの蛍花はなかなか芽吹かず、ポレットや町の人たちは落ち込む日々を過ごしていた。


 町の花屋を中心にみんなで話し合い、土を山から運んできて総入れ替えを行うという、意外にも大掛かりな作業を経て、ようやく先日新たに種を蒔いたのだ。

 その努力が実り、今朝ようやく芽が出たのだからポレットの喜びもひとしおだ。


 しかし。


「ポレット。まさか毎日こんなに朝早くから様子を見に来てたのか?」

「うん!」

「はぁ……」


 この町の人たちはみなポレットやリグたちに好意的だ。最初こそ傭兵だからと警戒もされたが、ポレットのおかげですぐに態度が軟化したのだ。

 そのため危険は少なく、昼間であれば見守ってくれる人も多いので花壇までなら一人で行ってもいいと伝えてあった。


 しかしながらここはまだ復興途中の町。

 暗くなる時間帯は人も多く、どんな悪人がやってくるかわからない。

 夜は絶対に一人で出歩かないようきつく言ってあったのだ。


(ポレットの中では、寝て起きたら朝、なんだろうなぁ……)


 実際、時間的には朝なのだろうが、周囲は暗く人も少ない。

 ポレットにはもっと、根本的な危険を教えるべきだったとリグは反省した。


「いいか、ポレット。今はたしかに朝だけど、まだ暗いよな? 人もあんまりいないだろ?」

「? うん」

「つまり、今は朝だけどまだ暗くて危険な時間帯なんだ。言っている意味がわかるか?」

「! えと、あぶない……?」

「そうだ」

「ごめんなさい!」


 以前に比べてだいぶ理解が早い。ポレットもここ数カ月でずいぶんと成長したのだろう。

 自ら失敗に気付いて反省し、謝ることが出来るのならこれ以上の注意はいらないだろう。


 リグはフッと肩の力を抜くと、目線の高さをポレットに合わせて屈む。


「わかってくれればいいんだ。でも俺だって、夜はダメとしか言わなかったからさ。今度からはなんでダメなのか、一緒に考えていこうな」

「うん!」

「はー、ほんと、今日まで何もなくてよかったよ。ポレットが無事でよかった」


 やはり子育ては難しい。これまで毎日暗い中、一人で歩いていたポレットを思うと冷や汗が止まらない。


 だが、リグもまだ未熟な身。一つ一つ、二人そろって成長していければいいのである。


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