53 魔法使いのズルさ
翌日、朝早くからリグはポレットに起こされ、花壇を見に行くこととなった。
まだ昨日の疲れが残っていたが、寝る前にしたポレットとの約束を思い出し、リグは重い体を無理矢理起こす。
そういえば、昨晩は張り切って片付けに向かったかと思えば、ものの十分ほどで戻ってきたので不思議に思ったものだ。
(テオドールはちょこっとだけやってさっさと帰ってきたと言うし、ポレットはすっごく綺麗になったと興奮してるし)
気にはなったがリグはすでにへとへとで、一度横になってしまったから余計に動くことが出来ず、明日の朝に見に行くから今日は寝ようとポレットを宥めた。
その結果、陽が昇る前に起こされて今がある。
まだ寝ぼけ眼だったがポレットに手を引かれるがまま花壇にたどり着いたリグは、その光景を見て一瞬で目が覚めた。
「ね、きれいになったでしょ?」
「う、うん。すごいね……え、これ昨日の夜にやったの?」
「うん! でもテオ、ちょっとこまったかお、してた」
「うーん、なるほど」
あまりにも綺麗に片付いている町の入り口付近。瓦礫は一か所にまとめられ、今すぐにでも花壇を作って花を植えられそうなほどだ。
今はまだ陽が昇り切っていないため人も少なく、騒ぎにはなっていないが、それも時間の問題だろう。
リグはポレットを小脇に抱え、慌ててみんなの下へと駆け戻った。
「どういうことだよ、テオドール!」
「んー……え? あー、あれねー……ポレットちゃんがぁ、つい張り切っちゃったって感じー……」
「張り切ったって……まぁ予想はつくけどっ」
リグの大きな声により、テオドールはまだ半分以上眠ったまま気怠げに答えてくる。
昨晩はどんな気持ちで「ちょこっとだけやった」なんて報告したのだろうか。
いや、考えなくてもわかる。テオドールのことだから、みんな疲れているし面倒なことは全部明日、と思考を放棄したのだろう。
「どうすんだよ、あれ! 絶対に騒ぎになるぞ!」
「リグ……何があったんだ?」
「あ、モッシュ! 聞いてよ!」
騒ぐリグの声に、モッシュとカオンも起きてきた。
まだ周囲には眠っているチームも多いことに気付いたリグはハッとなって口を両手で押さえると、今見てきた光景をコソコソと報告する。
「町の入り口付近の瓦礫撤去が終わっている、ということか。はぁ、やたら戻ってくるのが早いとは思っていたが」
「一瞬の、出来事でしたぁ……」
「でしたぁ!!」
「ポレットにそんな嬉しそうな顔されちゃ、なんにも言えねぇなぁ……」
まだ目を閉じたままのテオドールの言葉尻を、ポレットが元気に復唱している。
すごいでしょ、えらいでしょと言わんばかりの目をされては、モッシュはもちろんカオンでさえ何も言えない。
「皆さん、ひとまず朝食にしましょうか」
まだ起きたばかりに面倒ごとを考えたくない気持ちが勝った一同は、笑顔で告げられたカオンの提案に乗ることにした。
◇
食事を終えた後に話し合いをした一同は、結局のところやってしまったものは仕方ないので騒ぎになったら正直に名乗り出ようという結論に落ち着いた。
考えてみれば秘密にするような内容ではないし、まだ来たばかりならポレットやテオドールの実力を知らなかったで通るだろう。
昨日の作業中は長旅で疲れていたと言えば、力を出し渋っていたということにもならないはず。
その割にポレットは元気いっぱいなのだが、子どもなのでいくらでも誤魔化せる。
ダメ押しに、テオドールに一芝居打ってもらえれば完璧だ。
「いやぁ、いい練習が出来たね! この調子なら任せられるよ。ポレットちゃん、今日は本番いってみようか!」
「うん!」
朝食後に一同が来てみれば、予想通りちょっとした騒ぎになっていた。
そこですかさずテオドールとポレットが大げさにそう言うと、周囲の人たちは納得と関心の入り混じった表情で二人を見始めた。
中には「そういうことか」と安堵してその場を去っていく者もいる。うまく誤魔化せたようだ。
ちなみにテオドールの言った本番というのは、被害の大きい場所での瓦礫の撤去作業を指している。
実際、人も瓦礫も多く、道が狭い場所で失敗などしようものなら二次災害を引き起こしかねない。そうなる前に失敗しても被害がさほど出ない入り口付近で練習したのだろうとみんなが勝手に思ってくれたわけだ。
その練習が思いのほかうまくいってしまった、という設定である。
相変わらずテオドールの言い訳は一級品だ。ポレットがまだ幼いのも功を奏したかもしれない。
誰も疑問を持つことなくその場が収まったことで、リグもようやくホッと胸を撫でおろす。
作業二日目ですでにポレットの魔法がすごいという噂は立ってしまうが、それは遅かれ早かれわかってしまうこと。
むしろ、最初から周知されればその後の作業も捗るという面で、ある意味よかったと言えるかもしれない。
一方で、あっという間に片付いてしまったこの光景を見ると、魔法の使えないリグとしては複雑な気持ちだ。
昨日は全身筋肉痛になるほどの肉体労働をしたというのに、ほとんど作業が進んでいないことを思えばそれも仕方ない。
そんな時、隣に立つモッシュからも珍しく愚痴が漏れた。
「まったく、魔法使いってのは俺たちの一か月の働きを一瞬で済ませるから腹立たしいよな」
「え、モッシュもそういうこと思うんだ?」
「そりゃ思うだろ。さすがにやってられねぇ、とまでは思わないが。悔しい気持ちはあるな」
首を回しながら言う疲れた様子のモッシュも、リグと同じ気持ちではあったらしい。
意外に思って目を丸くしていると、カオンもまた苦笑しながら告げる。
「気持ちはわかりますが、適材適所だと考えておきましょう。被害の大きな場所を魔法使いに任せられれば、私たちは人の手でやらないと危険な細かな作業に集中出来ます」
「だな。俺たちは瓦礫撤去後の整地や建設、その他諸々のことを考えながら動こう。大工とも打ち合わせだ」
ものは考えようだ。正直、ほとんどの作業は魔法使いがいれば解決するのだが、役立たずになるわけにはいかない。
もはやこれはリグたちの意地。絶対に魔法がない場所で活躍してやろう、とリグは密かに闘志を燃やした。




