52 深夜の瓦礫の撤去
スキップしながら移動するポレットの後ろから、テオドールは苦笑しながらついていく。
すぐに花壇があったと思しき場所に到着したはいいものの、もはやどこから手をつければいいのかわからないほどの有様で、テオドールはすでに帰って寝たい衝動に駆られたがぐっと耐えた。
「どこからどこまでが花壇だったのかわかんないねぇ。ひとまず、大きな瓦礫をどかしていこうか」
「うん!」
「どかす場所は~、この辺かな」
テオドールは辺りを見回してから町の出入り口に近い場所を選ぶと、魔法で大きな瓦礫を一つ移動させた。一度集める場所を作っておかないと、永遠に終わらない。
出入り口付近は大きな瓦礫で埋まっている状態なので、今夜はほんの一角でも山が減ればいいかな、という気持ちだ。
「時間が来たら止めにするからね。なんてったって今日は作業の初日! 最初から張り切りすぎると続かないから」
「ポレット、へいき」
「お子ちゃまはみんな、そういうことを言うんだよ~」
「むぅ!」
テオドールがポレットのもちもちとした膨らんだ頬を指でつつくと、ぷすっ、と間の抜けた音が鳴る。
ポレットはさらにぷんぷんと拗ねてしまったが、そんなことより作業だと後ろを向いてしまった。
「おおきな、がれきを、あっちにどかす」
瓦礫だらけの周囲を見回しながらポレットが呟く。それからおもむろに両手を前に突き出した。
「がれきを、あっちに、どかすっ」
「え、ちょ、嘘でしょ」
テオドールがポレットの魔力を感じたとほぼ同時に、その場にある瓦礫が一斉に宙に浮かんだ。
慌てて声を上げたが、ポレットが瓦礫をまとめて持ち上げたことで、一瞬にしてその下にある土が見えた。
唖然としているテオドールの前で、ポレットはまたしても独り言を言いながら両手を動かすと、テオドールが指定した場所にゆっくりと瓦礫を下ろした。
さすがに量があるため、地面に下ろした瓦礫の山は大きな音を立てながら崩れてしまったが、花壇があったらしい場所は綺麗になっている。
花壇の仕切りも見えるほどに。
(規格外すぎるなぁ、もう)
もちろん、テオドールにだってこのくらいは出来る。
しかしテオドールには順番にどかさないと瓦礫が崩れてむしろ手間が増えるだろう、という頭が働いてしまうのだ。
そのため、いくら出来るとはいえ慎重にならざるを得ない。……のだが、ポレットがその全てをあっさりとクリアしてしまったというわけだ。
(子どもだからかな、想像力が豊かだ。失敗するというイメージが一切ないのがよかったのかも。はぁ、頭が空っぽのほうがいい仕事をすることもあるのが魔法使いだよねぇ)
言い方はどうかと思うが、頭が良いからこそうまくいくイメージが出来ないのは優秀な魔法使いの弱点だ。
テオドールはやんなっちゃうな、と呟きながらも口元には笑みを浮かべていた。
「ちょっとやりすぎたかなー、ポレットちゃん」
「きれい、なった!」
「うん、まぁ。綺麗にはなったけどさぁ。聞いてた?」
無邪気に笑顔を見せるポレットを見ていると、さしものテオドールでさえあまり文句を言う気になれない。
しかし、現実を伝えるのが師匠の仕事。
テオドールはこほんと一つ咳をすると、人差し指を立ててポレットに教えた。
「昼に復旧作業をしてる場所よりも作業が進んじゃうと、ちょっとまずいんだよねー」
「……だめだった? なんでだめ?」
「いやぁ、ダメってわけじゃないんだけどさ。周囲になんて言われるか……なんて、僕だってそもそも気にするタイプじゃないんだけどさー」
言いながら別に悪いことをしているわけじゃないのでは、と気付いたテオドールはその後、ぶつぶつと独り言を続けた。
「僕は問題ないけど、ポレットちゃんに非難が集まると保護者のみんながうるさいんだよねぇ。もしそんなことが出来るならこっちをやってよ、とか文句がきても、手伝いで来てる僕らが言われる筋合いないし、そう言うのならお前らがやれって話だし? でもこんな態度取ったらモッシュのゲンコツだよなぁ、やっぱ」
傭兵チームに加わる前のテオドールだったら、そのまま思ったことを全て伝えて反感を買っていただろう。
だがそうせずに遠慮と我慢を覚えているあたり、テオドールにとっても今のチームは居心地がいいのかもしれない。
あれこれ考えた結果、テオドールは自分一人だったら出さない結論を告げた。
「よし! 明日からの復旧作業で瓦礫の撤去を同じくらい進めよう。これなら文句も言われないっしょ。頑張れる?」
「がんばれる!」
「よし」
ただ少しだけポレットの魔法が規格外であることを誤魔化す必要があり、その点が厄介ではある。
厄介というより、手間が増える分テオドールが面倒なのだ。
(僕もだいぶ、ポレットちゃんに絆されてるってことかな)
基本的に、人からも場所からも、何もかもからテオドールは一歩距離を置いていた。
踏み込み過ぎないよう常に意識しており、それは今の傭兵チームでも変わらない。
それでもほんの少し、他よりも贔屓してしまう部分はあるのだが、これ以上の距離を詰める気はなかった。
(どうせ一生側にいるわけじゃないんだし。いつかは別れが来る)
踏み込めば誰よりも深みに嵌まる。その自覚があるからこそ、テオドールは今日も一定の距離を保つのだ。
振り返って笑顔を見せるポレットにいつも通りの上辺だけの笑みを返したテオドールは、まだ来たばかりだけど仕事は終わったから帰ろう、とポレットに手を差し出した。




