51 体力の限界
初日の作業は思っていた以上に重労働だった。
とはいっても、テオドールとポレットの魔法使い組は体力を酷使するような作業ではなかったのでまだまだ余力がありそうだ。
しかし普通の魔法使いだったら魔力切れでもっとぐったりしていただろう。魔力量の多さが二人を余裕たらしめていた。
特にポレットは幼いこともあって、これまで通りある程度の作業でテオドールがストップをかけているため夜になっても元気いっぱいだ。
良いことではあるのだが、瓦礫や泥の撤去という地味な作業を日が暮れるまで続けていたリグにとって、その元気は眩しすぎるものでもあった。
「う、腕がプルプルしてる……」
「リグ、鍛え方が足りないのではないですか?」
「ぐっ、最近はちゃんと筋トレ出来てなかったのはたしかだよ」
一方、同じ作業をしていたカオンはへとへとのリグと違って余裕の表情だ。
当然、チーム内で誰よりも体力のあるモッシュは言わずもがな。
つまり、このチームの中でリグだけが満身創痍だった。
(いくら筋トレ出来てなかったとしても、この差はへこむ……!)
同じ年の男の子と比べればリグもかなり体力があるほうなのだが、比較対象が悪い。
特にカオンはスパルタなので、普通の基準がわかっていない。リグの自己評価はどうしても低くなるのだ。
「訓練で大事なのは継続だといつも言っているでしょう。やり込む必要はありませんから、少しずつでも毎日やったほうがいいですよ」
「身に染みてるよ……」
「ま、しばらくは訓練なんかしなくても、作業だけでいい筋トレになるかもな」
「それはそう!」
たしかにこの町での作業はトレーニングと言えよう。つまらない反復作業でも、訓練だと思えば頑張れそうな気がした。
「くそー。ポレットと一緒に体力トレーニングばっかりしてたから、他のことまでやらなかったんだよな」
「おや、言い訳ですか?」
「違うよ! 自分への戒めっ!」
「それならいいでしょう」
カオンは厳しい。優しい雰囲気を漂わせておきながら、訓練に関しては容赦がない。
リグはため息を吐きそうになるのをグッと堪えて、気持ちを切り替えるためにもポレットに顔を向けた。
すると、ポレットもまたリグを見ていたようで、目が合うと嬉しそうに笑いながら駆け寄ってくる。
それだけでリグの心が癒されていく気がした。
「リグにぃ! ポレット、おそうじしてきて、いい?」
「お掃除……? あ、もしかして花壇の?」
元気があり余っているポレットは、ずっと花壇の修復を楽しみにしていたらしい。
本当はもう一歩も動けないほどへとへとだが、ポレットの望みは叶えてやりたい。
どうにか力を振り絞って返事をしようと口を開く。
「わかった、俺も……」
「リグは休め」
「えっ、でも」
しかし、モッシュによって止められてしまった。モッシュは苦笑を浮かべており、無理はするなと言っているように見える。
そうはいってもリグは一応ポレットを預かると言い出した責任がある。
みんなに頼ってばかりもいられないと腰を浮かせたところ、後ろから両肩に手を置かれそのままストンと座らされてしまう。
振り返ると、笑顔のカオンと目が合った。
「言ったでしょう? 無理は禁物、それが約束だと。ポレットが守るのですから、兄も約束を守りますよね?」
「ぐ、ぬぬぬ」
たしかに言った。無理をしては本末転倒で、次の日の作業に影響があってはならない、と。
そう言われてしまえばリグは今すぐ休むしか道がない。実際、本当に今日は体力の限界なのだ。
「あはは! そんなこと言ったら、モッシュとカオンも休むべきだよ。二人とも平気そうな顔をしてるけど、本当は結構疲れてるんでしょ?」
「えっ、そうなの?」
陽気な笑い声とともに告げられた話に、リグは驚いてモッシュとカオンを見た。二人ともバツの悪そうな顔で苦笑いしている。
この二人も、本当に今日は疲れているようだ。それを表に出さないだけで。
(作業量も、俺よりずっと多かったもんな……疲れていて当然だ。それなのに平気なフリして。大人ってずるい)
自分たちが我慢してリグを休ませようとしたその気持ちにありがたさは感じるが、リグとしては悔しさのほうが勝る。
キッと二人を睨んでいると、揃って顔を逸らされた。
「あ、大人としてのプライドへし折っちゃったかなー? ま、いっか! とにかく、ポレットちゃんには僕がついていくよ。君たちと違って余力があるから」
心の底から悔しいが、今はテオドールに任せるしかないようだ。
心なしか、ポレットも不服そうな顔をしているが黙っているあたり、作業出来ないよりはマシとでも思っているのだろう。
「三十分くらいで戻るよ。ポレットちゃんがやりたいって言っても、僕が疲れたって言って帰るつもりだから」
「ふ、そうか。それなら頼んだぞ」
「引き受けたー!」
三十分なら妥当なところだろう。それ以上遅くなると、単純にポレットのいつもの寝る時間を過ぎてしまう。
へらへらしているが、テオドールもちゃんとわきまえているようだ。
こうして、ポレットはテオドールと一緒に花壇があった場所まで向かった。
(早いところ作業に慣れて、体力をつけて、ポレットと一緒に花壇を作る手伝いが出来るようにならないと)
二人の後姿を見送りながら兄としての不甲斐なさを感じ、唇を噛む。
ポレットだって傭兵チームについていけるように、細くてか弱かったところから体力づくりを一から頑張ったのだ。
妹に出来て兄が出来ないとは絶対に言えない。
いや、言いたくない。
ひとまず、ポレットたちが帰ってきたらすぐに食事が摂れるよう準備するべく、リグは最後の力を振り絞るのだった。




