48 この世で一番綺麗なもの
その晩、ポレットはリグたちと同じ部屋で眠った。
宿舎が半壊しているため、元は食堂だった場所に集まって眠る形だ。ここだけはかろうじて屋根がある。
当然、他のチームもいるが、四チームがそれぞれ別の四隅に固まってスペースを作っている。
幸いというべきか、作業を効率よく進めたいプロ意識のある人たちばかりだったため、変に絡んでくるようなこともない。
被災地において助ける側の人間がろくでなしだと困る。チームの派遣を指示する上の者たちが考慮した上での人選なのだろう。
移動中の野営では平気だったのに、町の悲惨な様子を見た後だからか、この日のポレットは寝つきが悪かった。
そんなポレットを安心させようと、リグが隣で添い寝しながら背中をとんとんしてくれる。
床は固く、あまり良いとは言えない睡眠環境だったが、リグがいれば怖くない。
(リグにぃ、あったかい……)
安心したポレットは、いつしかゆっくり瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。
◇
明るい笑い声が聞こえ、ポレットは顔を上げる。
辺りを見回すと、美しい花畑がまず目に入った。
正確にいうと花畑ではなく、とても広い花壇だ。
花壇と花壇の間には石畳で作られた小道があり、のんびり散歩をしながら美しい花を眺めることが出来る。
ポレットが花壇に目を奪われていると、再び楽しそうな笑い声が聞こえて視線を巡らせた。
声の主はすぐに見つかった。
「ディ、ザ……?」
そこには、艶やかな黒髪を揺らし、小さな子どもたちと楽しそうに花を植えている少女の姿があった。
前に見た時よりも背が高くなっていて、今のディザはリグと同じくらいの年齢のお姉さんに見える。
だからこそ、ポレットはそれがディザであるかどうか少し迷ってしまった。
ポレットが名を呼ぶ声が耳に入ったのだろう、ディザは視線をこちらに向けると、すぐにパッと笑顔になって立ち上がる。
それからそのままポレットのほうに駆け寄ってきた。
「ポレットじゃない! 久しぶりね? 少しだけ大きくなった?」
「うん。ディザは、すごくおおきくなった」
「そう? 成長期なのかもね」
成長期、という言葉では片付かないほどディザは年齢を重ねているのだが、ポレットにはわからない。
ここが夢の中だということもあって、そういうものだと納得した。
「きょう、ここについたばっかり」
「そうだったの。長旅お疲れ様!」
「うん。おはな、きれいだね」
「そうでしょう? この町のシンボルなのよ! ふふっ、あたしが作ったの」
「え! すごい」
ディザは誇らしげに胸を張りながらそう言った。ただ、前に会った時よりも少しだけ大人しく感じる。
以前だったら、もっと元気いっぱいで自慢話を聞かせてくれていたはずだ。
今のディザは少し照れた様子で、控えめな印象を受ける。年頃というやつなのかもしれない。
「……ディザ、げんきそうで、よかった」
ポレットがホッとしたように微笑みながらそう言うと、ディザはバツの悪そうな顔を浮かべながら自分の黒髪をいじりだした。
「最後にポレットと会ったのは……あのバジリスクの時、よね。今思えば、恥ずかしいところを見せちゃったわ」
ディザはそう語ると、ポレットの手を引いてベンチに座った。
ポレットが隣に腰掛けると、ディザは懐かしそうに目を細めて語り始める。
「あたし、昔はがむしゃらだったの。みんなに認められたくて、褒めてもらいたくて。自分のことばっかり考えていたわ」
ディザはそこまで言うと一度言葉を切り、空に手を伸ばした。
それからそのままグッと拳を作り、虚空を握る。
「でもそれじゃダメだったのよね。あたしはずっと、自分のためだけに魔法を使ってた」
「じぶんのため、ダメ?」
「ダメじゃないけれど……それよりも大事なことがあるって気付いたの」
「だいじなこと……」
ディザは小さく頷くと、ポレットに向けて微笑んだ。
その笑みはとても慈愛に満ち溢れていて、ポレットは少し見惚れてしまう。
「この力は、人のために使うのが大事だってわかったの。力を振りかざすだけの魔法なんて、野蛮で下品なだけだわ」
「やばん、で……?」
「わからない? そうね、なんて言ったら伝わるかしら。んー……魔法で人を笑顔に出来たら、すごいと思わない?」
「思う!」
「でしょう? あたし、これからはそういうことに魔法を使おうと思って」
パッと嬉しそうに同意したポレットを見てディザも微笑む。
それから再び前に顔を向けたディザは言葉を続けた。
「あの時は、せっかく町のみんなを助けたのにどうして!? って拗ねて、いじけて、たくさん泣いたけど……大きくて強い魔法じゃなくて、地味だけど幸せな魔法を使おうって決めたら気持ちが楽になってね」
「ポレットも、そういうまほうが、すき!」
「ふふっ。仲間ね。威力が高ければ高いほど優れた魔法使いだって言われているけど……そういうのを気にするの、やめたの」
威力が高い大規模な魔法を使えたほうが褒められる、という部分にポレットは少し首を傾げたが、ディザが嬉しそうなので気にしないことにした。
それよりも、生き生きと話すディザのほうがずっと重要だ。
「誰になんと言われようと、どう思われようと構わない。あたしは、あたしだけの魔法で人を笑顔にしたい! そう決めたら肩の力が抜けたっていうか……優しい気持ちになれたっていうか。ほらっ!」
ディザは急に立ち上がり、両手を軽く振った。
すると空からたくさんの花びらがヒラヒラと舞い、幻想的な光景が広がっていく。
花壇の周りにいた子どもたちや、散歩をしていた町の人たちから一斉に歓声が上がった。
もちろんポレットも歓声を上げた者の一人だ。
「何の役にも立たない魔法でも、こうしてたくさんの人を笑顔に出来る! ポレット、あたし今、最高に幸せ!!」
美しいその光景にポレットの目は釘付けだ。
けれどそれ以上に、幸せだと満面の笑みを浮かべるディザがこの世で一番綺麗だとポレットは思った。




