47 直視する覚悟
次の町までは前回の移動より距離が短い。
しかし、地割れやがけ崩れなどで通れない道が多く、迂回することが多かったため時間がかかった。
当然ながら道も悪く、進む速度も遅くなる。それは町に近付くほど悪化していく。
途中からは車輪のついたものが通れない道となり、徒歩での移動となったが、徒歩だからこそ悪路がよりわかった。気を付けなければ転んでしまう人も多いだろう。
足元に注意しながら移動を続けてようやく町に入った時、最初に目に入ってきたのは崩れたままの家々だった。
一同はしばらく、言葉を失った。
「……酷いな」
ぽつりと呟いたモッシュの言葉が全てだった。
地揺れが起きた後、おそらく火事も起きたのだろう、焦げ跡も生々しく残っている。
町の入り口には大きな門が立っており、今は扉がなくなっている。太く丈夫な柱だけが、焦げ跡を残してかろうじて立っている状態だ。
かつてはこの大きな門を開いた瞬間、美しい街並みが見えてさぞ感動したことだろう。
色とりどりの花が植えられていたという、この町のシンボルともいえる巨大な花壇も今は見る影もない。
「氷山の爆発から随分と時間が経った今も、ほとんど復興作業が進んでいないのですね……」
「人手も資材も足りていなかったらしい。ここまでの悪路を思えば、なかなか届かなかったのもわかるな」
「そうなると、僕たち魔法使いの仕事は町に繋がる道の整備が急務かな」
「家がなくて外で生活している人もまだ多いんじゃないか、これ?」
仮設住宅やテントがあったとしても、これだけの被害だ、数も場所も足りていないだろうことは容易に想像がつく。
この辺り一帯は被害も特に大きい場所だそうで、通りを歩く人もほとんどいない。時折、何かを探しに来ているらしい人がちらほらいる程度だ。
おそらくは人的被害も相当なものだっただろう、道ゆく人々の表情は暗い。
「ポレット、大丈夫か?」
もしかしたらこの先、大怪我をした人を見ることもあるかもしれない。
被災した人たちの悲しむ様子や、辛い現実を見せることになるだろう。
「……うん」
「辛いなら……」
まだ幼いポレットが直視するには辛すぎる気がして、リグは「辛いなら見なくてもいい」と言いそうになった。
けれどすんでのところで止まったのは、ポレットが悲しそうに眉尻を下げながらも真っ直ぐ町の様子を見つめている姿を見たからだ。
(見ないようにすることが、正解なのか……? いや)
リグは考えを改め、一度その場で片膝をつくとポレットの両手をキュッと握りながら真剣に伝えた。
「ポレット。辛いかもしれないけど、ちゃんと見ておいてほしい。ここは元々、きっと賑やかな町で、元気に生きていた人たちがいて……でも、こうなってしまったから苦しんでいる人が今もいるんだ。俺たちはそういう人たちを助けにきたんだから」
自分たちがこれから助けようとしている人たちが、どんな目に遭ってどれほど苦しんでいるのか、それを知っておくべきだと思った。
被災時にこの場にいなかった分、本当の意味での理解は難しいが、寄り添うことは大事だと、リグもモッシュたちから教えられてきたのだ。
「具合が悪くなったら言ってくれ。でも、出来るだけ見ておくんだぞ」
「ん。みる。ポレット、たすけたい」
「そうだな」
心は痛めてもいい、でも現実から目を逸らすような子にはなってもらいたくない。
まだ幼い子に直視しろというのは酷かもしれないが、傭兵チームに所属していること、それからポレットを取り巻く複雑な状況を考えると、甘やかすだけではいけない気がした。
(でも、俺が何も言わなくてもポレットはしっかり見ていたかもな)
先ほどよりも背筋をピンと伸ばし、真剣な顔つきで周囲を見回すポレットを見ていると頼もしいと感じる。
リグは、自分もポレットに負けてはいられないと背筋を伸ばした。
軽く周囲を見回った後、現在人々が暮らしている地区へと向かう。
町の奥へ進むと、そこはかなり復興が進んでおり、人々が忙しそうに動き回っている。
地面は整えられており、真新しい石畳が敷かれている。建築途中の建物もあちらこちらで見受けられた。
当たり前のような日常風景がこんなにも安心感を与えるとは思ってもみなかった。
リグがわずかに肩の力を抜いた時、モッシュが口を開く。
「傭兵チームの宿舎も半壊しているらしい。最低限住める程度にこれまでの傭兵たちが直してくれたみたいだが、それ以外の作業が多くてこっちにまで手が回らないのが現状だそうだ」
「そうでしょうね。テント生活にはなるでしょうが、屋根のある場所で休めるだけ十分ありがたいと言えます」
カオンの言う通りだ。
忙しい合間を縫って宿舎の修理を少しずつ進めてくれたのだろう。
自分たちが休む場所を確保するためだったとはいえ、後から来る自分たちのような傭兵たちにとっても助かるのは間違いない。
だが、前の町では安心出来る寝室にベッド、さらにはお風呂まで入るのが習慣になっていただけに、ポレットの負担が少し気になる。
すでに移動の間も野営が続いていたため、この生活がどれだけ続くかわからない以上、いつもより注意深く様子を見ていたほうが良さそうだ。
「これから、たすけにいくの?」
とはいえ、当の本人はこの通り、町に着いて早々人助けをする気満々だ。
モッシュとの朝の運動のおかげで体力がかなりついているのがわかる。
精神面も、もしかしたらテオドールの意地悪のおかげでかなり強くなっているかもしれない。
「ははっ、今日は様子を見回って、他のチームや町の代表と話し合うだけだよ。そこで、明日からお手伝いに行く場所を決めるんだ」
「ポレットも、はなしあい?」
「ポレットは俺やカオンと一緒に宿舎の掃除をしてような」
「わかった!」
話し合いはモッシュとテオドールの二人で向かう予定だ。
それにまでついていこうとするやる気満々なポレットを見て、リグはもちろん大人たちも揃ってクスッと笑った。




