46 あらゆる思いを呑み込んで
その日の朝食の席で、リグはポレットの意思をメンバーに告げた。
一同はある程度予想していたらしく、わかったと頷いてくれている、が。
「本当に大丈夫なのー? まだへなちょこなのにさ」
「へなちょこ、ないっ!!」
「へなちょこじゃーん! 今もお昼寝するガキんちょのくせに」
「むーーーーっ!!」
相変わらずテオドールだけはポレットをからかってばかりだ。
ポレットが誰のことを思ってそう決めたのかわかっているのだろうか。
いや、たとえわかっていたとしても「そんなこと頼んでないし」などと言ってまた言い合いになるだけだ。
リグにも、だんだんテオドールの言いそうなことがわかるようになってきた。
これまではテオドールのからかい対象は主にリグだったのが、最近ではポレットに向かう頻度が増えている。
からかわれる気持ちがよくわかるのもあって、リグはずっとポレットの味方でいようと決意した。
それはさておき、今はちゃんとみんなに頼ることが大事だ。
リグはみんなに向き直ると、真っ直ぐ見つめながら告げる。
「それでさ、俺、絶対にポレットから目を離さないようにする。でも見落としがあるかもしれないから……モッシュやカオンも一緒に気をつけて見てもらえないかな?」
リグはまだ子どもだ。早く大人になりたいと、一人前になりたいともがいている最中の子ども。
少し前まではそれさえも認めたくなくて何かと反発していたが、ポレットという守りたい存在が出来たことで考えを改めた。
(俺は……弱い、から。強くなれるまで、情けなくても頼らないと)
それでも、まだ人に頼ることは情けないという意識は残っている。
悔しいながらも弱さを認められるようになっただけ成長だ。
「よく言えましたね、リグ。私たちに自ら頼ってくれるようになって嬉しいですよ」
「そうだよな。自分でやる、自分だけで出来るって意地張ってたリグが」
「や、やめろよ! そういうこと言うのっ!!」
カオンやモッシュがこういった態度を取るのがわかっていたから嫌なのだ。この二人はずっとリグを子ども扱いする。
半分はからかいが含まれているだろうが、割と本心で言っているのがよりたちが悪い。
愛情があると知っているからこそ、本気で抗議することも出来ないのだ。
一方、不満そうに口を尖らせているのはテオドールだ。
「というか、なんで僕には頼まないのさ」
「テオドールにはその手のこと、期待しないことにしたんだ。魔法のことだけ見ててくれよ」
「最近のリグってば、ほーんと生意気~っ」
肘で小突かれてしまったが、リグはテオドールにさほどイライラしなくなってきている。むしろ、少し楽しいと思ってしまっていた。
(テオドールはたぶん、ずっと俺のことを子どもとして見てなかっただけなんだな)
おそらくポレットのことも、ほとんど子ども扱いをしていない。テオドール自身が子どもっぽい一面があるというのもあるが、ずっと対等に見ているのだろう。
それがわかるようになっただけで、ずいぶん楽になったとリグは思う。
「テオ、リグにぃ、いじめたら、めっ!」
「失礼だなぁ、ポレットちゃん。いじめるっていうのはもっと徹底的に……」
「テオドール! それ以上はダメだっ」
ただ、もう少し加減を知ってほしいとは思うのだった。
◇
「ポレットちゃん、元気でね」
「またこの町に遊びに来てくれよ」
「本当に行っちゃうのかい? 寂しくなるなぁ」
出発の日、これまで経験したことのない光景が目の前に広がっていた。
基本的に傭兵チームの移動に見送りはない。あったとしても、よほど気の合った傭兵チームメンバーが来るくらいだ。
しかし今は出立を見送る人たちが十数人ほど集まっており、思い思いの言葉をポレットにかけている。
そう、別にリグたちを見送りに来ているわけではなく、ポレットと別れを惜しんでいるのだ。
ポレットは外見が少し変わっている。
白髪にアース・アイというのはそれだけでどこへ行ってもとても目立った。
加えて肉付きもよく健康的になってきたポレットは容姿も愛らしい。
気味が悪いと思う者もいるだろうが、無邪気な性格もあって基本的には人気者だ。
「ありがと。いってくる!」
屈託のない笑顔を振りまくポレットを見ていると、あの時出会えて、そして引き取る決意をして本当に良かったと思う。
これからもずっと、余計なゴタゴタに巻き込まれることなく、普通の女の子として自由に生きてほしいと願わずにはいられない。
(あれ以来、ディザの夢は見ていないみたいだけど……)
魔女の影響を受けているのだとしたら、これで終わるわけがない。
残念なことにリグの勘がまだまだこれからだと告げてくるのだ。
「あいさつ、してきたよ」
「……」
「リグにぃ?」
「……え、あ、うん。よく出来たな」
「えへへ」
足にしがみついてきたポレットの頭を撫で、しっかりと手をつなぐ。
「じゃあみなさーん、お元気でー!! ……ってちょっと、態度変わりすぎじゃない? ウケる!」
テオドールがポレットを見送りに来た人たちに向かって元気に手を振りながら声をかけたものの、やはり怖がられているのか後退りされている。
それどころか眉をひそめてひそひそ話しているほどだ。
その様子にかちんと来るものはあったが、リグはぐっと堪えて胸を張る。
そのまま一度深々と頭を下げ、あらゆる思いを飲み込んだ。
再びリグが頭を上げると、ポレットを見送りに来ていた人たちはそそくさとその場を離れていくところだった。
リグはそれを、唇を引き結び、彼らの姿が見えなくなるまでジッと見つめ続けた。
「……行くぞ」
「! モッシュ……」
町の人たちが見えなくなった頃、モッシュがくしゃっとリグの頭を撫でる。
見ればカオンとテオドールも微笑んでいた。
視線を下に向けると、ポレットが「どうしたの?」といった顔でこちらを見上げている。
リグはようやくフッと肩の力を抜き、ポレットの手を握り直す。
「行こっか」
「うん!」
パッと花開いたかのようなポレットの笑顔があれば、リグはなんだってやれる気がした。




