45 ポレットの盾
「次の移動先が決まったぞ」
「え、もう? 早くない?」
ある日の夜、リグたちは一か所に集まって報告会を行っていた。
何か連絡事項がある時にはモッシュがメンバーを集め、こうして話し合いをするのだ。
そして今日の内容は次の移動先について。
当然、思っていた以上に早いタイミングでの移動にリグは疑問を口にする。
「本来ならあとふた月はこの町にいる予定だったんだが。もっと被害の大きい場所に行って復興の手助けをしてもらえないかと言われてな」
「なるほど。テオドールとポレットが活躍しすぎてしまった、というところでしょうか」
「えっへへへー。仕方ないよね、天才の名声ってのはさ!」
「名声かどうかは微妙なところですが」
実際、テオドールはその性格のせいで名声というよりは恐怖の対象として見られており、最近では町を歩くだけでさっと人が避けていくほど。
本人に気にした様子はないのだが、リグやポレットは気にしてしまっている。
だからといって何かが変わるわけではないのがもどかしいところだ。
(おかげでポレットに注目が集まらなくて助かるけど……本当にいいのかな。テオドールは)
リグの胸中はずっと複雑だが、今はそれよりも次の移動について。リグは懸念事項を伝えた。
「でもさ、やっと落ち着いてきたところなのに、ポレットの負担にならないかな」
「まぁな。だが魔女のことを調べるには、あちこちに行くほうがいい、という利点もある」
「た、たしかに」
利点もあれば欠点もある。
リグたちだけであれば二つ返事で移動しただろうが、小さな子どもがいるということは、度々こういった選択を迫られるということだ。
リグが腕を組んで悩んでいると、モッシュがポンと頭に手を置いてきた。
「安心しろ、まだ決定じゃない。幼い子がいるから考えさせてくれと言ってある。だがあまり時間もない。リグからポレットにも聞いておいてくれ」
「うん、わかった」
ポレットについての判断を、こうしてリグに任せてもらえるのがなんだか誇らしい。
そして、当たり前のように気遣ってくれることも。
もしポレットが渋ったら、自分も味方になってやろうとリグは決意した。
翌朝、リグは習慣となっている朝のお風呂でポレットに説明をした。
少しくらいは悩むかと思ったが、ポレットは即答だ。
「ポレット、つぎのまち、いく」
「行くの?」
「うん」
最初は驚いたリグだが、なんでそんな質問をするのかと言わんばかりに首を傾げるポレットを見てハッとする。
少し考えればわかることだった。ポレットはまだ幼いのだ。
自分に負担がかかるなんて難しいことは考えられない。へとへとになって動けなくなる限界までポレットは動き続けてしまうのだ。
それは、大人やリグが気をつけて見ていないといけないことだった。
ほどほどに、適度に休憩、というものが自分で出来る年齢であれば苦労も悩みもしない。
自ら脳内で反省しながら、リグはポレットに理由を聞いてみることにした。
「どうして行くのか、って。聞いてもいい?」
「うん。みんな、テオのこと、わるくいう、から」
「あー……」
どうやら、ポレットはリグが思っていた以上にテオドールのことを気にしていたようだ。
普段はよく口喧嘩……もとい、からかわれてばかりで仲が悪いように見えるが、こんなにも心配していたとは。
(やっぱりポレットは優しい子だ。厄災の魔女だなんて……とても思えないよ)
リグはポレットの頭を撫でながら苦笑した。
「もしかしたらさ、次の町でも言われるかもしれないよ?」
「……テオは、どうしてあんなふうにするの?」
あんなふう、とは、きっとわざと人から嫌われたり怖がられたりするような言動をすることを言っているのだろう。
少し前まではリグもポレットと同じことを疑問に思っていた。
だが、今は少しだけ見えてくるものがある。
リグは伝えようかどうか少し考えてから、ポレットに伝える。
「テオドールはたぶん……自分が注目されることで、ポレットを守ってくれてるんじゃないかな」
「え?」
「テオドールが怖がられていれば、たとえポレットが少しすごい魔法を使っちゃっても、テオドールの弟子だからってみんなが納得すると思うんだ。あんなに怖い師匠なら、弟子もすごい魔法が使えてもおかしくないって」
ポレットはよくわかっていないような不思議そうな顔を浮かべている。
まだ幼い子が理解するには早かったかもしれないが、リグは続けた。
「テオドールが怖いから、弟子のポレットは怖がられるより幼いのにかわいそうだって思ってもらえる。テオドールはポレットの盾になってるんじゃないかな、って……」
「ポレットの、たて……テオが?」
「うん」
複雑な大人の配慮までは理解していないかもしれないが、テオドールがポレットを守ってくれているらしいことは伝わったようだった。
「ポレット、へいきなのに!」
「そうだな。けどさ、みんなポレットのことを守りたいんだ。俺も少し、テオドールの気持ちがわかるよ」
「でも、テオがいやなおもいするの、いや!」
バシャッと音を立ててお湯の中で立ち上がったポレットを見て、リグはハッとした。
自分を守るために誰かが犠牲になるのなんて、リグだって嫌だと思う。
ポレットは幼いながらも、その感覚に気付いているのだと。
(でも俺、今はテオドール側の気持ちに近いかもしれない。そっか。今までモッシュたちも、こんな気持ちで俺を……)
子育てとは、本当に複雑で難しい。
リグはなんとも言えない気持ちになりながらも、今回はテオドール側の、つまり大人の考えを優先させた。
「でもさ、テオドールはきっと自分が目立ちたいだけだって言うよ。半分以上は本当に気にしていないんじゃないかな」
「……そう、かも」
テオドールがあんな適当なやつでよかったと思う日が来るとは。
リグは苦笑しながら言葉を続ける。
「もしみんながテオドールを責めて、攻撃してくるようだったら。その時は俺たちで守ればいいんだ。だって家族だからな」
「かぞく!」
「だからさ、テオドールのこと、少しだけ信じてあげようぜ。それでやりすぎたら叱ってやろう」
「しかる!」
「ははっ、頼もしいな」
きっとテオドールはあの態度をやめないだろうし、どこの町へ行っても恐れられるかもしれない。
けれど、もしもの時は自分たちが守ればいいのだ。自分たちだけはテオドールを信用すればいい。
「じゃあ、次の町に行ってもいいってモッシュに伝えようか」
「うん、ポレットへいき」
「平気だとしても、ちょっとでも疲れたら俺たちに言わなきゃだめだ。傭兵は自分の体力も考えて動かなきゃいけないんだからな」
「わ、わかった!」
本当のところ、どれほどポレットが理解しているかはわからない。
だからこそリグがいて、仲間がいるのだ。
ポレットのことは特に注意して見ていようと、リグは改めて決意した。




