44 賞賛と畏怖の境目
ポレットが魔法を使えるという噂は、驚くほどあっという間に広がった。
というのも、土砂崩れの起きた地区の復興作業を手伝った際、ポレットの魔法によってほとんどの土砂を撤去してしまったからだ。
おかげで押しつぶされた家々がようやく姿を現し、もともと家に住んでいた人たちが涙ながらに喜んでくれたのである。
「ポレット、やくにたった?」
「役に立つどころか、ポレットは人助けをしたんだよ」
「ひとだすけ……」
「ポレットのおかげで、喜ぶ人がたくさんいるってこと」
あまりにもとんでもない魔法を使うので、ポレットは変に目立ってしまった。今のところ感謝の声しか聞かないが、恐れられたりしないかリグとしては心配で仕方がない。
「うれしい」
「うん。俺も誇らしいよ。頑張ったな、ポレット」
「えへへ」
だが、こんなにも嬉しそうに笑うポレットを見てしまっては、止められるはずもなかった。
それからというもの、ポレットとテオドールは主に復興作業に向かうことが増えた。
行く先々でポレットは感謝され、毎日照れたように帰ってくる。
(でも、自信満々って感じには見えないんだよな)
これだけ毎日のように褒めたたえられていれば、調子に乗ってしまってもおかしくない。
だがポレットはそんなこともなく、むしろ大人しすぎるくらいだった。
ポレットの魔法にはテオドールが制限をかけている。
一日に使っていい大きな魔法は二回だけ。土砂の撤去や建物の解体などがそれだ。
このくらいならテオドールも簡単に使うことが出来、幼いポレットが魔法の天才だと褒められる程度で収まる。
それ以上になると、急に恐れられるようになるだろう。
いくらなんでもおかしい、などと思われては本末転倒なのだ。
「よし、今日はここまで。これ以上はポレットちゃんの負担になるからね」
「うん。きゅうけい、する」
テオドールは周囲の人に聞こえるようにわざわざそう言うようにしていた。
それがあるからこそ、ポレットの限界はこのくらいなのだろう、と勝手に勘違いしてくれる。こういった印象操作は、テオドールの得意分野だ。
それもこれも、ポレットがテオドールの言うことをちゃんと聞くからこそ。
人前で魔法が使いたいという願望が満たされているという点も大きい。
「ポレットちゃんはさ、自分のもっとすごいところを見てもらいたいって思わないの?」
ある日、テオドールが軽い調子でポレットに訊ねた。
リグも気になっていたことだったため、さり気なく耳をそばだてた。
人間というものは欲深い生き物だ。人から褒められると嬉しくなり、気持ちよくなり、日に日に承認欲求が高まっていく。
自分はもっとすごいんだ、もっと注目されたいと思ってしまいがちなのだ。
誰しもが持っていてもおかしくない欲求で、それ自体はおかしなことではない。
ただ、いきすぎると色々と問題が生じる。だからこそストッパーが必要なのだ。
そのストッパーの役目をするのがテオドールで、ポレットの承認欲求がどの程度のものかを確認する意味で探りを入れているのだろう。
「おもわない。ポレット、みんなのたすけになれるだけで、うれしい」
「……へぇ、欲がないねぇ」
しかしポレットはそういった、人から注目されたいという欲は薄いようだった。
(いや、ないわけじゃない、よな。褒められるとすごく喜ぶし、褒めてほしそうに俺を見てくることもあるし)
それなのに、承認欲求が薄そうなのはなぜか。リグには心当たりがある。
(力を見せることの危険性を、薄々感じているんだろうな)
夢の中で見たディザの姿。せっかく頑張って魔物を追い返したというのに、褒められるどころか怖がられ、走って行ってしまった、という例の夢。
おそらく、あの夢はポレットに強い衝撃を与え、トラウマのように残っているのだろう。
だからこそ大きな魔法を人前で使うことに怯えている。
あれほど自由に魔法を使いたいと思っていたのに、人前で使うのが怖いという気持ちも抱えているのだ。
かわいそうだとも思うが、この気持ちはとても大切なものだ。
リスクを知ったという意味で、ポレットのためになったのは間違いなかった。
その点、テオドールの見極めは完璧だ。ポレットも、テオドールが大丈夫と言ってくれるから安心して魔法を使うことが出来るのかもしれない。
人としての信用度はなくとも、魔法使いとしての信頼関係は築けているらしかった。
「僕はみんなに褒めたたえられたいけどね! 恐れ慄いてもらうのも大好き! お子ちゃまは大人しく、師匠の偉大さを目の当たりにしてるといいよ!」
「テオ、なんか、いやなかんじ……」
「あっはははは! 誉め言葉だね!」
こういうところが、ますますポレットからの人としての信用を失っているのだが。
こうしてテオドールは毎日ポレット以上にとんでもない魔法を連発し、感謝されると同時に畏怖されていくようになっていった。
「ポレットちゃん、大丈夫かい? あの人、怖いんじゃないか……?」
「すごい人なのはわかるんだけどねぇ……敵になったらと思うと恐ろしいよ」
おそらくはテオドールの狙い通りに、近頃リグは、度々ポレットが町の人たちからそんな声をかけられている姿を見かけることがある。
ポレットを心配しているがゆえの言葉だとはわかっているが、いくらテオドールが嫌なヤツでも、そしてわざとでも、怖がられるのは複雑な心境だった。
ポレットも毎回「怖くない」「大丈夫」と返しているのだが、その程度で人々の考えは変わらないのだろう。
ひそひそと話しながら去っていく町の人たちをぼんやり眺めているポレットに近付くと、ポレットはぽつりと悔しそうに呟いた。
「テオ、こわくないもん……」
「うん。そうだよな」
リグもポレットもこんなに悔しい気持ちでいるというのに、当の本人がまったく気にした様子でないことも、二人を複雑な気持ちにさせた。




