43 実力の公開
ある朝、食事の席で急にテオドールが宣言した。
「ポレットちゃん。そろそろ君の実力を周囲にひけらかそうと思う!」
「言い方……」
思わず呆れた声を出してしまったリグだが、モッシュやカオンも同じような目を向けていたのでみんな思いは一緒だったらしい。
ただ、提案した内容については少しわからなくもない。
本来、目立たないようにとポレットの天才的な魔法の実力を隠し続けていたが、血液検査で白という判定が出た今、多少目立つようなことをしても問題なくなったからだ。
もちろん、ポレットの中に封印されている膨大な魔力については引き続き秘密にすることになる。
さすがにここまで明かされてしまうと、いくら検査で引っかからなかったとはいえ怪しまれてしまうからだ。
リグたちがほぼ確信してしまっているのと同じように。
テオドールは悪い笑みを浮かべながら話を続ける。
「こうなってくると、検査も悪くなかったよね。なんせ、シロだってことを国が保証してくれてるんだから」
もしポレットの魔法の腕について怪しまれたら、検査結果を堂々と示すことが出来る。
それでもやりすぎはダメだろう。リグはちゃんと注意しておこうと決意した。
それにしても、テオドールの提案はずいぶん急に思える。
次の町に移動してからでもいいし、逆にもっと早くてもよかったというのに、少々中途半端な時期だと感じた。
「どうして今なんだよ。実力を、その」
「ひけらかすかって?」
「だから言い方……まぁ、そう」
リグの質問に、テオドールは飄々とした態度で答えていく。
「ポレットちゃんが寂しいって泣くから、僕たちどこに行くにも連れて行くようになったでしょ? どんなに危険な仕事でも」
「あー……わかった」
それだけでリグも理由がすぐにわかった。
つまり、小さな子どもを危険な任務に連れて行くなんて! と騒ぐ人たちが増えたのだ。
言いたいヤツには好きに言わせておけばいい、という方針でチーム内でも一致していたが、さすがに声が大きく、そして増えてきたのが面倒なのだ。
「ここらでポレットちゃんの実力をババーンと派手に知らしめてさ、うるさい馬鹿どもを黙らせようってわけ」
「もう絶対わざとだよね、その言い方っ!」
ただ心配で声をあげてくれている人たちのことを、わざわざ悪者のように言うテオドールは間違いなく楽しんでいる。
もはや突っ込むのをやめ、リグもモッシュやカオンと同じように続きを待つことにした。
「シナリオはこう。この実力のせいで気味悪がられていたポレットちゃんを、僕らが引き取った。また変な目を向けられないように実力を隠し、ずっと守っていたけれど、最近かわいそうだなんだと好き勝手なことを言って僕らを引き離そうとうする人たちがいる……ああっ、なんて酷いんだ。彼らは誰よりもポレットちゃんのことを考えて守り続けていたというのにっ! と同情の声が上がり始める、みたいな」
「涙の演技が嘘くさい……」
「なんでさ。名演技でしょ」
演技の良し悪しは置いておいて、シナリオ自体は悪くない。
これならポレットの魔法の腕を隠していたことも、今になって隠さなくなったことにも納得出来る。
実際、内容にほとんど嘘はない。少し脚色して大事な事実を言っていないだけ。
「というわけで、人前での魔法も解禁しよう。ただし、使う魔法はいつも僕に確認してから使うこと! 緊急事態はその限りではない!」
「そのかぎり、では……?」
「急に危ないことがあった場合、身を守るためにとっさに使うのは大丈夫ってことですよ」
「わかった」
難しい言い回しに首を傾げたポレットだったが、カオンに言われて表情を明るくした。
ポレットはずっと魔法を自由に使いたがっていたから嬉しいのだろう。
そんな中、モッシュが疑問を口にする。
「しかし、そんなに都合よく魔法を見せるような場面なんてないだろう。見せびらかすためだけの、意味のない魔法の行使は基本的に許されていないからな」
「まぁね。だから実際は大々的にババーンと見せびらかすことは出来ないんだよね」
よほどの緊急事態でもない限り、ポレットが人前で大きな魔法を使うことはないため、テオドールの言う大々的に見せびらかす、というのは難しい。
派手な魔法で目立たせ、陰口を言う人たちを盛大に黙らせたかったテオドールは残念そうだ。
それから不服そうに現実的な案を口にした。
「僕らは傭兵だから、ところどころで魔法が必要な場面が出てくるじゃない。僕がいつも対応しているけど、それをしばらくの間はポレットちゃんが担当するの」
「なるほど、そうすればまず同業者や依頼人、現場にいた人たちから口コミで広がるということですね」
「そう! まぁなんかでっかい魔物が町を襲ってきて、それをポレットちゃんがかっこよく退治するっていう手もあるけど。現実にそうそう起こるようなことじゃないしー」
そんな災害のような出来事が起きないよう、普段から傭兵が見回りをしているのだ。
大昔なら起こったかもしれないが、今の時代にそんなことは滅多に起きない。それこそ、寝起きのドラゴンがたまたまこの町にふらっと現れた、という状況でもない限りあり得ない。
魔物の暴走や大型魔物の襲来などは、事前に把握して町に到達する前に対処するのが今の常識なのだから。
そう、それは今の常識。大昔は違う。
「まもの、たいじ……」
ポレットの顔が青ざめたのを見て、リグはすぐに察した。
夢の中のディザが、そのせいで町の人たちから恐れられてしまったことを思い出しているのだ、と。
「大丈夫だよ。ポレットがやりたくないと思ったらやらなくていいんだ。魔法を使いたい、こうしたいって思ったら手伝ってくれればいいんだよ」
「おてつだい……?」
「うん。ポレットには、俺たちがついてるだろ? 一人で頑張らなくていいんだよ」
もし、夢の中のような出来事があって、ポレットがみんなを守ろうと魔法を使ったところで、ディザと同じような運命にはならない。
なぜなら、ポレットにはリグや仲間たちがついているのだから。
「えー、何? ポレットちゃんったら僕が無理矢理魔法を使わせるとでも思ってたのー? 心外ーっ」
「日頃の行いだな」
「モッシュ、酷っ」
いつものようにテオドールが騒ぎ、みんなが冷静に口を挟む。今日もこのチームは賑やかだ。
そんな様子を見てホッと肩の力を抜いたポレットは、リグの手をギュッと握って笑みを浮かべている。
(ポレットのことは俺が守る。でも、ディザを守ってくれる人はいなかった、のかな……)
厄災の魔女のことを思い、リグの胸は少し痛んだ。




