37 真っ赤な大地
翌週の晴れた日。
それぞれの当番を調整して午後のスケジュールを開けた一同は、約束通り東の森へと足を向けた。
畑を抜けて森に入っていくのだが、昔はこの辺りもずっと畑が広がっていたというのが信じられないほど鬱蒼とした森だった。
草木をかき分けて森の中を進むことおよそ三十分。
問題の場所はすぐに見つけることが出来た。
「すごい、真っ赤だ……」
「ああ、思っていた以上に赤いな」
「私も山の赤土を想像していました。まるでペンキで塗られたかのように鮮やかな赤ですね」
今はほとんどの人が見つけられないと聞いていたため、もっと探すのに苦労するかと思われたが、単純に人の手が入っていない獣道を通らなければならない、というのが理由だった模様。
「血だまりでもここまで綺麗な赤にならないよねー」
「物騒な話はしないでください、テオドール」
「でも、カオンだってそう思うでしょ? 実際は赤黒……」
「黙りましょう?」
「……本気で剣を抜かないでよ。僕の血が流れるところだよ」
カオンとテオドールがやや物騒な話をしている中、モッシュとリグとポレットは赤い土に近付いて観察していた。
とはいっても、数メートルほど離れた位置を保っている。
赤い土の上は木だけでなく雑草すら生えていないのが不思議で、噂通り不気味だったのもあった。
赤土が途切れた場所から雑草が生い茂っているのも奇妙な光景だ。
「じーちゃんたちの話だと、土には触っても問題はないみたい。ただ、触ろうと思う人が少ないらしいから信憑性は怪しいよ」
「オッケー。まずは成分を調べてみるからちょっと待ってて」
リグの話を聞いてテオドールはぺろっと唇を舐めると、魔杖を手に取り鑑定の魔法を使い始めた。
目がキラキラ、いやギラギラしており、楽しんでいるのがよくわかる。
「ポレット、まだ触っちゃダメだぞ。見るだけだ」
「うん」
注意をせずとも、ポレットはリグの側から離れないつもりだ。
そもそもポレットとしても、目の前の光景は少し不気味で、あまり近付きたいとは思わなかった。
「ふむ、成分としては問題ないね。触っても大丈夫。というかなんにもない土って感じ。微生物すら住めない大地って感じかな」
「だから植物も育たない……?」
「そうだね。おー、水も弾く」
「うわ、ほんとだ」
テオドールが鑑定の結果を説明しながら水魔法で赤い土に垂らすも、土に触れた瞬間、水が弾いてコロコロとした粒になっていた。
緩やかな傾斜がついているためか、水滴はそのまま転がり続けて普通の土までたどり着くと染み込んで消えていく。
「周囲の土がぼこぼこだったり、ぬかるんでる場所が多いのもそういうことか」
「雨が降った後、水が流れているのですね。赤い土周辺に溝が出来ているのも、そのためでしたか」
モッシュやカオンの言うように足元を見てみると他の場所に比べてかなりでこぼこしている。その一方で赤い土は平らな上に乾いていた。
リグがもう少し近付いてしゃがみ込み、指で赤い土をつまむ。土というより砂と言ったほうが適切なほどサラサラだ。
「ポレットも触ってみるか?」
「ううん、いい」
テオドールに触っても大丈夫と言われたものの、見た目のインパクトが強すぎてポレットはまだ怯え気味だ。
リグはそんなポレットに微笑みかけると、再び近くまで戻ってきてくれた。
「すごく興味深いな。魔法的観点から鑑定すると、この赤い土にはいまだにたくさんの魔力が含まれてる。この魔力さえ取り除けば普通の土に戻ると思うんだけど」
「出来るのか?」
「時間をかければ可能性はあるかなー? でもすごく疲れそうだし、頼まれてもいないし、報酬も出ないならやらない」
「なるほど」
この赤い土が人体に悪影響だったり、魔物を集めてしまうなどの厄介な状況になっているのならまだしも、そのままで問題ないなら労力や時間をかけてまでやりたくはない、といったところだろう。
その上、案外このままにしておいたほうがいい気がする、とテオドールは付け加えた。
「攻撃の意思と、守りたいという意思を感じるんだよね。意思っていうか……記憶かな?推測するに、大昔ここに強い魔物でも現れたんじゃない?」
「その魔物を追い払うために大きな魔法を使った?」
「だとすると、町を守ろうとしたのですかね、当時の魔女は」
この場所に強い魔物が現れたということは、放っておけば町に来るに違いない。そうなれば被害は甚大。
しかしこの町にそういった歴史があるとは聞いたことがない。魔物に襲われた、という記録はかなり遡って記録されているはずだというのに。
つまり、魔女はここで大規模な魔法を使って魔物を退治したのだろう。その痕跡がこうして今もなお残っているというのが全員一致の推測だった。
「当時は魔女もみんなから感謝されていたのかもな」
「幼少期でこれだけの魔法が使えるなんて末恐ろしいよ。今出会えていたら色々聞きたかったなー」
「魔女はこの町で生まれたのでしょうか。幼少期に滞在していたというのは伝え聞いているようですが……いずれにせよ、さぞ可愛がられたでしょうね」
大人たちがあれこれ推測を述べる中、リグはキュッと眉根を寄せた。
「幼い頃から町のために頑張ったんだろうに、時が流れて恐ろしいって思われるようになるなんて……なんか、もどかしいな」
魔女が本当は優しい人だという可能性が浮上したのはいいが、そう推測出来れば出来るほど、今の扱いが心苦しい。
「ま、少しだけ魔女の貴重な幼少期を知れてよかったじゃん。今回はリグのお手柄だったねー」
一同は複雑な思いを抱えながらも、その場所を後にする。
みんなの話をなんとなく聞いていたポレットは、リグに手を引かれながら後ろを振り返り、赤い土をじっと見つめた。
(なんだかちょっと、かなしいきもち)
みんなの複雑な心境をポレットも感じ取ったのかもしれない。
どことなくしょんぼりとした気持ちで、ポレットは再び前を向いた。




