36 魔女に纏わる新情報
「ちょ、ちょっとみんな! 新情報!」
ある日の午後、リグが宿舎に慌てて帰ってくるなりそんなことを叫んだ。
夕食の準備を始めていたカオンと手伝いのポレット、それからだらけていたテオドールがリグのほうに注目する。
ただ、宿舎は傭兵チームの共同利用だ。他のチームメンバーも何事かとリグを見つめており、リグはハッとしたように頭を掻いた。
「落ち着いてください、リグ。まだモッシュも帰ってきていませんし、後で集まりましょう」
「う、うん。ごめん」
「あはは! リグのあわてんぼう~」
「あわてんぼ!」
「ポレットまで……荷物置いてくる!」
リグの去ったダイニングには、クスクスと笑い声が響く穏やかな雰囲気が流れる。
何かに集中すると周りが見えなくなるところが、リグの若い青さを象徴していた。
夜になり、一同は早速リグの話を聞くためにポレットとリグの寝室に集まる。
ベッドの上にはポレットが横になっており、カオンにお腹をとんとんされながら寝かしつけられているところだ。
リグはうとうとするポレットを横目に口を開く。
一度慌てて報告しにきただけあって、その情報は思っていた以上に重要なものだった。
「この町ってさ……厄災の魔女が幼少期に住んでた町なんだって。知ってた?」
「初耳ですね」
「どこで仕入れた情報だ? リグ、詳しく教えてくれ」
厄災の魔女が住んでいた町。
魔女に関する情報はとても少なく、しかも幼少期となると聞いたことさえないのがほとんどだ。
それがこの町で聞けるとは思っておらず、一同はリグに注目した。
「今日は俺、東側に広がる畑の見回りに行ったんだよ。そこで休憩中のじいちゃんばあちゃんに呼び止められてさ。みかんもらったんだけど」
「リグって年配の方々にモテるよねぇ」
「まだ子どもなのに一生懸命働く姿が人々の心を打つのでしょうね」
大人から可愛がられやすいリグは、行く先々でそこに住む人たちからあらゆる話を聞き出すのが得意だ。
今回も同じように世間話の延長で魔女の話を聞かせてもらったのだろう。
「その話はいいから! んで、じいちゃんたちから聞いたんだ。東の畑は昔、もっともっと広がってたんだって。でも大昔に厄災の魔女が焼いてからというもの、土がダメになったとかで……今も赤い土が広がってるって」
たしかにこの町の東出口を出ると、広大な畑が広がっている。
農作業をする者だけ、つまりこの町の住人が主に使う出入り口のため、旅する者が近寄ることは滅多になかった。
ただ傭兵としてこの町に来ているリグたちは交代で見回りをする。
その際、東出口から出入りする機会もあるのだが、畑以外に特別なものもないという印象しかなかった。
「赤い土はこれ以上広がることもないし、植物が一切育たない土地らしい。人体に害はないらしいんだけど……赤い土ってだけで不気味だから誰も近づかないんだって。周辺には木々が生い茂っているから、森の中に入って探さないと見つけにくいかもなぁ、って話してた」
「行ってみる価値はありそうですね」
「そうだね。一度、鑑定してみたいかも。魔女の魔法を浴びた土でしょ? 興味ある!」
誰よりも前のめりで興味を示したのはテオドールだ。リグたちとしては厄災の魔女を知るために調べたいだけなのだが、魔法使いとしては別観点から気になることが満載なのだろう。
いずれにせよ頼むことになるため、本人がやる気ならなによりだ。
「しかし、なんだって厄災の魔女はその土地を焼いたんだろうな。当時は畑だったわけだろう?」
その町に住んでいたというのなら、畑を焼けば自分の食料だって燃やすことになる。
いくら厄災の魔女といえど、自分の首を絞めるようなことをわざわざするだろうかという疑問が残る。
「じいちゃんたちは、その。非道な魔女のやることは、わかんないって……」
「要するに、当時の記録があるわけでもないから、詳しい事情はわかんないってことでしょ。厄災の魔女っていう悪いイメージが浸透してるから、そういう考えになるのさ」
当時何があったのかを知る者はいない。
ただ、厄災の魔女なら恐ろしいことも平気でするだろうという思い込みが、町に住む者たちにそう思わせているのかもしれなかった。
「なんかそれって、すごく悲しいな。もしちゃんとした理由があったら、印象も変わるのかな」
「どうでしょうね。長らく思い込んでいたことというのは、そう簡単に覆らないものですから」
すでに魔女に感情移入している様子のリグは、むしろ理由があってほしいと考えているようだ。
わかりやすいリグの反応に、カオンは苦笑を浮かべている。
「とにかく、一度見に行ってみるか。全員で行くか? 別々で行ってもいいが……」
モッシュはそう言いながらちらっとポレットに視線を向けた。
いや、モッシュだけでなくみんながポレットに注目している。
夢の世界に旅立ちかけていたポレットだったが、みんなの視線を感じて少し目を開けた。
それを見て、リグが改めて問いかける。
「ポレットも一緒に行く? その……なんにもない場所だとは思うけど」
「いくぅ……」
「ん、わかった。でも森の中だから、絶対に俺から離れるんじゃないぞ」
「うん……」
話の内容をほとんど聞いてなかったポレットは、単純に一人でお留守番だけは嫌だという理由で「行く」と言った。
そのため、リグからの了承の返事を聞いたポレットはそれだけで安心し、今度こそ目を閉じて寝息を立て始めるのだった。




