31 ポレットのお守り
「……では、お疲れさまでした。次の町からはカードの提示だけで大丈夫です」
「……ありがとう」
全員の検査を終え、ようやく町の中へと通される。
その後は一言も喋ることなく、一同は早歩きで進んだ。
この町はどこへ行っても人がいる。路地裏にさえちらほら人が見え、誰もいない場所で話し合うには傭兵の宿舎まで向かう必要があった。
宿舎に着いたリグたちは、まず他のチームが仕事で外に出ていることを確認する。
誰もいないことがわかると荷物もそのままに食堂に集まり、やっとのことで言葉を発した。
「白、だったな」
「白でしたね」
「白だったねぇ……」
呆然とした様子で呟く大人たちを、ポレットが不思議そうに見上げている。
ずっとみんなの様子がおかしかったからか、どこか心配そうな顔だ。
そんなポレットを見ていたら急に実感が湧いてきたのか、リグはガバッとポレットを抱き上げそのまま抱きしめた。
「よ、よかったぁぁぁぁ……っ! ポレット、良かったな!」
「? うん、よかった……?」
検査ではみんな「問題なし」の判定だった。
どうなるかと思われたポレットの結果も白だったのだ。
つまり、ポレットは魔女とは関係ないと証明されたようなものだ。
この場にいる誰もが、きっとポレットは引っかかるだろうと覚悟していただけに、あまりにも拍子抜けな結果となった。
もちろん喜ばしいことに変わりはない。リグが半泣きで喜ぶ姿を見て、大人たち三人もようやくフッと笑みを溢した。
「ポレットは魔女じゃないんだな」
「ポレットは、まじょ、ちがうよ?」
「そうだよな、言ってたもんな」
リグがポレットの頭を撫でていると、ポレットはおもむろにごそごそと自分のカバンから手紙を取り出した。
「エルザも、言ってた」
「エルザが?」
それはポレットしか見ちゃダメと言われていたはずの手紙だが、読んでもいいと差し出してくれたので少々戸惑いながら受け取る。
ポレットはいいと言っても、エルザは見られたくないかもしれないからだ。
とはいえ、内容が内容だけに今回だけ見させてもらうことにした。
リグは心の中でエルザに謝罪しながら手紙を開く。
『ポレットは魔女じゃないわ。ポレットはポレットよ』
初めてポレットを見た瞬間、魔女呼ばわりして大騒ぎしていた女の子が、こんなことを手紙で書いてくれていたとは。
リグはわけもわからず感動で涙が出てしまいそうだった。
「本当だね。エルザも、ポレットは魔女じゃないって言ってくれてる」
リグはお礼を言いながらポレットに手紙を返すと、ポレットは満足そうに胸を張った。
おそらく、これがあったからこそ余計にポレットは自分が魔女ではないと言い切れていたのだろう。
もしこの言葉がなかったら、ポレットも検査前に不安に襲われていたかもしれないことを思うと、エルザへの感謝の気持ちがこみ上げてくる。
「もしかしたら、初対面で言ったことをまだ気にしているのかもしれませんね」
「素直に謝らないところが、エルザちゃんっぽいね。いじらしいじゃん」
たしかに、これはエルザなりの謝罪とも受け取れた。
それを見られるのが恥ずかしくて、ポレット以外は見てはダメと言ったのかもしれない。
リグはポレットに、みんながこの手紙を読んだことはエルザに内緒にしてくれと頼むと、ポレットもハッとなって神妙に頷いた。
見せたくなったものの、エルザとの約束を思い出したのだろう。口元に指を立てて「しーっ」と言うポレットは愛らしい。
「何はともあれ、これで憂いは晴れたな」
「本当だよ! もう俺、ずっと気が気じゃなくて……腹減った」
「ははっ、そうだな」
「では、さっそくキッチンを借りて食事の準備をしましょうか。それとも今日はどこかで買ってきますか?」
「ポレット、カオンのごはん、すき」
「ふふ。では作りましょうか。お手伝いをお願いしますね、ポレット」
「あい!」
安心したらお腹が減る。ここのところ、食事もあまり喉を通らなかったから余計にかもしれない。
カオンとともにキッチンに向かったポレットを見送り、リグは二人の分の荷物も部屋へ運ぼうと立ち上がった。
その時、いつになく真剣な眼差しでキッチンのほうへ視線を向けていたテオドールに気付いて動きを止める。
「テオドール? どうしたの?」
「んー? ……いや、なんでもなーい。何作ってくれるのかなーと思って」
「ふぅん……? まぁいいや。テオドールも荷物運ぶの手伝ってよ」
「オッケー、オッケー!」
次の瞬間にはいつものテオドールに戻ったものの、なんとなく引っかかりを覚える。
気にはなったがどうせ聞いても答えてはくれないだろう。
しかし、その答えは食事を終えた後にすぐわかることとなった。
「ポレットちゃん、一つ聞いていい?」
食後、急にテオドールが先ほどのような真剣な顔をしてポレットに質問をし始めたのだ。
眠そうにしていたポレットはばちくりと目を瞬かせ、首を傾げている。
リグやモッシュ、カオンも不思議そうにテオドールに目を向けていた。
「魔法、使ってないよね? 検査の時」
「えっ、それどういう……」
「リグは黙ってて」
また検査の話になるとは思ってもいなかったリグは驚いて声を上げるも、すぐに制されて口を閉じる。
今のテオドールには、とても口を挟める雰囲気ではなかった。
妙な緊張感が走る中、ポレットはさらにこてんと首を傾げて答えた。
「つかってないよ?」
ポレットが口にした瞬間、奇妙な感覚がリグを襲った。
慌ててポレットを注意深く観察したが、少し眠そうなだけのいつも通りの声に、嘘の匂いも感じない。誤魔化しているような雰囲気もなかった。
(あれ? でも、なんか……変だ)
何が変なのかはわからない。ただ、何かがおかしいとリグの勘が言っていた。
「……そっか。ならいいんだよ! 約束守れて偉いね、ポレットちゃん!」
「うん。……ねむい」
「町に着いたばかりだもんね。ゆっくりお昼寝しておいでー! リグ、連れてってあげなよ」
「う、うん」
再びいつもの調子に戻ったテオドールに言われ、リグもハッとなる。
目の前には舟を漕ぎ始めたポレット。
(気のせい、か?)
リグがポレットを抱き上げると、あっという間に夢の世界へと旅立ったのか小さな寝息が聞こえてきた。
少し体温の高いポレットを抱き直しながらも、リグは奇妙な違和感を胸の奥にしまい、寝室へと向かった。




