30 魔女検査
人の通りが多くなってきた。
いや、人だけではない。馬車などの行商人も多く、町に入るにはしばらく並ばなければならなそうだ。
「ポレット、手を離しちゃだめだぞ」
「うん」
この人混みで迷子にでもなったら大変だ。また、こうした場所は人攫いも多い。
リグがギュッとポレットの手を握り直すと、ポレットもまた小さな手でギュッと握り返した。
「ポレットもかなり体力がついたな」
「ずっと歩きっぱなしでも膝が落ちなくなりましたからね」
モッシュとカオンがクスクス笑いながら話しているのを聞いて、リグも少しだけ笑いそうになる。
ポレットは我慢強いところがあり、限界まで弱音を吐かない。
疲れていて本当はもう一歩も歩けないのに、手を引かれるままずっと歩き続けてしまうのだ。
気付けば歩くたびに膝がカクンカクン落ちていた可愛らしい姿を思い出すと、いまだに笑いがこみ上げてくる。
とはいえ、無理をさせたいわけではない。頑張るのは良いが、疲れた時にそう言うことの大事さもポレットには教えた。
おかげでちゃんと言えるようにはなってきたのだが、意外と負けず嫌いなところがあるようで、今でもギリギリまで頑張ろうとするところがある。
ただそれが功を奏したのか、ポレットの体力はどんどんついていき、今では一般成人並みに歩けるほどになっていた。
下手をすると、デスクワークばかりの大人はポレットの体力に負けるかもしれない。
(せっかく保護者登録も出来て、体力もこんなについたんだ。……連れて行かれたくない)
これまでのポレットの頑張りを思えば思うほど、足取りも重くなっていく。
この先にある町の入り口で、検査をしていない者は魔女検査を受けることになるのだ。
「リグ、顔が強張ってるぞ」
「う、気を付ける……」
「いいんじゃない? 多少強張っててもさ。検査に緊張する人は多いと思うしー」
モッシュとテオドールに言われて肩の力を抜こうと意識はすれど、なかなかそうもいかない。
視線を下げると、いつも通り一生懸命歩くポレットが目に入る。
(ポレットは、まったく緊張してないな)
これから検査があることも知ってるはずだが、この通りだ。自分が引っかかるとは全く思っていないからこそだろう。
緊張するとすれば、血を取る時だけかもしれない。
リグは細く長くため息を吐く。
覚悟は決めてきたはずだ。たとえどんな結果が出ようとも、ポレットを守るという覚悟を。
「次の人……っと、傭兵チームか。全員まとめて検査部屋でいいか?」
「ああ、頼む」
いよいよリグたちの順番がやってきた。
検査済みの者は町に通され、まだの者は別室で検査を受けるよう指示される。
なお、検査済みの者は身分証に記載されるためチェックもスムーズだ。
つまり一度検査してしまえば後であれこれ言われることもない。
そのたった一回の検査が重要なのだが。
検査員はもはや慣れた様子でテキパキと準備を進めていく。
リグたちは言われるがまま部屋の中ほどまで進み、モッシュから順番に血液を採取することとなった。
「まず、一人一人この針で血液を採取します。取る血の量はほんのわずかですが、刺すときにチクッとするので小さなお子様は押さえていてくれると助かります」
検査員の一人が説明をしながらポレットに視線を移す。針を見ただけですでに涙目のポレットに苦笑いだ。
おそらくこういった子どもの対応も多く、検査を始めたばかりの頃はさぞ現場が混乱しただろう。
そう考えると、遅れて検査が出来たのはよかったといえる。
人が多くないということは、それだけ注目もされにくいということなのだから。
「俺が一緒に座って押さえます」
「ええ、頼みますね」
リグが告げると、検査員は小さく微笑んでから再び説明を続けた。
「検査は簡単です。採取した血液をこちらの魔道具に垂らすと、水晶部分が光ります。白く光れば問題なし。赤く光ると観察対象となります。いずれにせよ結果はカードに登録しますので、準備をお願いしますね」
検査員は二つのパターンだけを告げた。それ以外の反応はほとんど期待していないということだろう。
(魔女と完全一致した場合は、どんな反応を起こすんだ……?)
リグは一瞬そう考えたが、それ以外の反応が出た場合が確定なのだと思い至る。
違う色に光るのか、はたまた全く別の反応を示すのか。
(ああ、もう。そんなことどうでもいい! 白だ。白に光ってくれ……!)
鼓動が速まり、緊張が増す。
こんなことではダメだとわかっているのに、リグはどうしても不安でたまらなかった。
「では、始めますね。どうしましょう、先にお子さんから調べますか?」
恐らく怖がっているから先にしてあげようという配慮なのだろうが、不安でたまらない今、リグは思わず叫んでしまいそうなほど動揺した。
返事をしてくれたのはモッシュだ。
「いや、最後にしてやってくれ。平気な様子を見せたい」
「なるほど、わかりました。では順番にこちらに座ってください」
実に大人で冷静な対応で、リグは息を詰まらせながらも安堵する。
見ればカオンやテオドールもいつも通りの様子で、慌てているのは自分だけ。
(なんで平気な顔が出来るんだよ)
内心でそんな不満を漏らしつつ、リグは周りにバレないよう静かに呼吸を繰り返した。
モッシュ、カオン、テオドールの順で検査が進み、今のところ全員が白。
次はリグの番だ。
「リグにぃ、いたい? いたい?」
「まだ刺してないよ」
ポレットが心配してくれるのがおかしくて、つい笑ってしまう。
おかげでリグの検査もあっという間に終わった。もちろん、結果は白だ。
「さ、次はお嬢ちゃんだよ。お兄ちゃんのお膝に座って、腕を出してね」
「う、ぁい……」
「大丈夫だぞ、ポレット」
そして、いよいよポレットの番だ。
検査を終え、同じ部屋で待つモッシュたちも、今ばかりは表情から緊張しているのがわかる。
「ポレットちゃんっていうのかい? 可愛い名前だね。髪の色もとても綺麗だ」
「へん、じゃない?」
「変じゃないとも。真っ白はとても珍しいから目立つかもしれないけど、それは君の魅力の一つだよ」
血液を採る検査員は子どもの扱いに慣れているようで、怖がらないよう優しい声をかけてくれている。
おかげでポレットも涙目ながら少し落ち着いた様子を見せていた。
ただこの優しい検査員が、赤かそれ以外の結果を見た時にどんな顔を浮かべるのかと思うと、リグは気が気ではない。
「大丈夫だからな、ポレット」
リグは、ポレットに声をかけているようで、自分自身にそう言い聞かせながら結果を待った。




