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少年傭兵は幼女を拾った。でも厄災の魔女かもしれない。  作者: 阿井りいあ
一章

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3/4

3 手慣れたお世話


 一夜明け、幼女が包まっているタオルがもぞもぞと動くのを見てリグはすぐに駆け寄った。

 寝起きに誰もそばにいないと不安にさせるかもしれないと思っての行動だ。


「起きたか?」


 ゆっくりと瞼を開けた幼女は、何度も瞬きを繰り返した後、ゆっくりと上半身を起こした。

 だが力が出ないのかそのままふらりと体が傾いていく。リグは慌てて手を伸ばし、幼女の体を支えた。


 幼女は驚いたようにリグを見上げた。

 髪の隙間から見えた綺麗なアース・アイを間近で見て、リグは目を丸くしてしまったが、すぐに我に返るとできるだけ優しい声を意識して話しかけた。


「えっと。俺のこと、覚えてる?」


 リグの問いかけに、幼女はゆっくりと頷いた。

 昨日とは違って反応があることにホッとしたリグは、続けざまにいくつか質問を試みる。


 幼女の背中を支えながら逸る気持ちをおさえつつ、肝心なことから聞いていく。


「じゃあ、君の名前は言えるかな。どこから来たのか、とか……」


 幼女は少しだけ考える素振りを見せたかと思うと、すぐにこてんと首を傾げてしまった。


 その反応に嫌な予感が過る。

 わからないならわからないなりに、その目に恐怖や不安が浮かぶはずなのに、今のこの子にはそれがないからだ。


 怖がらせるのはもちろん嫌だが、目が覚めた時によく知らない人物がいて不安にならないほうがおかしい。特にこの子はまだ幼いというのに。


(頼れる人がいないことに、慣れているみたいじゃないか……)


 それから、名前を聞いたのに首を傾げるというのはどういうことか。

 幼いといっても四、五歳くらいに見える幼女が自分の名前もわからないという状況は少々きな臭い。


(記憶喪失の線も考えたほうがいい、か? あとは考えたくないけど……名前を付けてもらったことがない、とか)


 いずれにせよ、この幼女を取り巻く環境は良いとはいえなさそうだ。

 リグはギュッと一度唇を噛むと、大切なことをあと一つだけ聞いてみることにした。


「もし、言いたくないことだったら無理しないでね。えっと……どうして森の中に一人でいたのかは、わかる?」


 緊張しながら聞いた質問だったが、幼女はやはりわからない様子で今度は反対側に首をこてんと傾げた。


 そんな幼女の様子に、決して良い状況ではないというのに、リグはなぜかホッとする。


「そっか。いろいろ教えてくれてありがとな」


 リグはそっと手を伸ばし、幼女の髪に触れる。特に抵抗もなかったため、そのまま頭を優しく撫でた。

 幼女は相変わらず無反応だったが、怖がったり嫌がったりする様子もなかったためリグは胸を撫でおろした。


 そのまま特に抵抗をしない幼女を抱き上げると、テントから出てみんなの下へと向かった。


「お、起きたみたいだな。こっちもちょうど飯の準備が出来たところだ」


 外へ出ると、真っ先にモッシュが声をかけてくれた。

 カオンの作ったスープの鍋から湯気が上がっており、いい匂いが漂ってくる。

 モッシュはすでに皿を受け取っており、今まさに食べようとしていたところのようだ。


「リグはその子と一緒に座っていてください。持っていきますから」

「ありがとう、カオン」


 カオンに言われるままリグは空いている場所に胡坐をかいて座り、その真ん中に幼女を座らせる。


 しばらくすると、カオンがリグと幼女の分の食事を持ってきた。

 ただし、幼女の分はやけに質素だ。みんなのスープには入っている干し肉も入っていないし、パンもない。

 それに湯気がほとんど上がっておらず、少し冷めているようだった。


「君はまずスープから。いきなり食べると、お腹がびっくりしてしまいますから」


 カオンは幼女にそう声をかけると、スープを匙でひと掬いして幼女の口元に運んだ。

 幼女は少し戸惑った後、ちらっとリグを見上げてきた。それにリグが頷いて返してやると、ようやく口を開けてスープを一口飲む。


「っ、けほっ、けほっ」

「だっ、大丈夫か!?」


 急に咳きこんだ幼女にリグは大慌てしてしまった。

 一方でカオンはいたって冷静で、笑顔のまま優しい声をかける。


「大丈夫ですよ。ゆっくり飲みましょうね」


 幼女は小さく頷くと、落ち着くのを待って再び口を開ける。


 あまりにもゆっくりすぎる幼女の食べるスピードに合わせ、焦らせることなく少しずつスープを口に運んでいくカオン。

 固形物ではなく液体から慣らそうという知識や、幼児が食べやすい温度にまで冷ましておくという手際の良さに、リグは感心したようにため息を漏らした。


「カオンはすごいな。もしかして慣れてる?」

「そうですね。私は昔から養護院の手伝いに通っていましたから。幼い子のお世話をするのは慣れているかもしれません」

「なるほど……」

「リグも食べてください。私はもう食事を終えていますから気になさらず」

「う、うん!」


 慣れているのだから当たり前、そうは思うものの、自分の知識のなさにリグは少し落ち込んだ。


 あと少しで「どうしてこの子のだけ冷めたスープなんだ」と文句を言うところだった。

 けれど、カオンはきちんと幼女の健康状態を考えた上で適切な対応をしていたのだ。

 その上、扱いに慣れていてお世話も上手い。


(この子を見つけたのは俺なのに。俺に一番懐いてくれているのに)


 カオンが悪いわけではない。もちろん、幼女が悪いわけでも。

 それなのになぜか面白くない気持ちが胸の中に渦巻く。


 リグはパンに噛り付き、流し込むようにスープを飲んだ。

 この行き場のない不満を、一緒に飲み込んでしまうかのように。


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