26 魔女検査の方法
テオドールが使い魔の眷属を放った翌日の夜、談話室にネネがやってきて集めた情報について報告をしてくれた。
思いのほか早い仕事に、その場にいたモッシュ、カオン、テオドールの三人はそれぞれ驚いた反応を見せる。
「検査について少しわかった。どうやら行うのは血液検査のようだ」
「随分仕事が早いな」
「任せなって大見得切ったからね。少し張り切っちゃったよ」
悪戯っぽくウインクするネネはとてもチャーミングだったが、すぐにその表情を引き締めると話の内容を戻した。
「国では魔女の血の成分を研究したことがあるらしくてね。完全一致であれば即捕縛、そうでなくても血液の成分が魔女の物と近ければ近い者ほど要注意度が高く、監視対象になるそうだ」
「たまたま成分が近いというだけで監視対象になった者はたまったものではないですね」
「本当にね。魔女だから年齢性別関係なく姿を変えられるだろう、ってことで、老若男女問わず検査は必須だとさ」
魔力は血液にも混ざって流れるため魔力検査にもなる、という意味でも血液検査は手っ取り早く魔女を見つけるのに最適な案といえた。
完全一致する者が見つからなかったとしても、全国民の中から候補を絞れるというのも利点であり、ついでに今調べて情報を管理すれば、今後は犯罪者を追い詰めるのにも役立つというわけだ。
「血液は誤魔化せないからねー。無能集団の中にも少しは有能なヤツがいたってことか。それでも国民への知らせ方には納得いかないけどー」
「無能って……国の上層部なんだから、頭良いヤツらばかりに決まってるじゃないか」
テオドールのぼやきにネネは呆れたように苦笑を浮かべている。
実際、ネネの言うことのほうがその通りではあるのだが、国民の気持ちに寄り添うような対応がされていない点についてはテオドールの不満もわかる。
しかし、ただの傭兵が文句を言ったところで何かが変わるわけでもない。
「ひとまずこの町にいる間は検査しなくて済むだろうね。人員の確保や検査の場、その他色々と準備や手配をするのに時間がかかるはずさ。国中に浸透するのにはまだ先だ。今から緊張してたって仕方ないね」
「まぁ、そうだな。助かった。ネネ、情報感謝する」
モッシュが最後にそう告げると、ネネは片手を上げて笑みを浮かべながら談話室を去っていった。
談話室に沈黙が流れた後、テオドールが無言で防音の結界を張りながら口を開く。
「まだ時間だけはあるって感じだねー」
「ああ。ただ次はどの町に移動になるかわからない。もし移動先がすでに検査をする町だったら」
「……町に入る時に検査を受けることになるでしょうね」
時間があるというだけで、問題が先延ばしになっただけだということを三人は理解していた。
「蜘蛛たちの報告では、検査が始まってるっぽいのは王都と周辺の町三つ。当然、魔女は捕まってないね」
「監視対象はいたのでしょうか」
「今のところそういう報告もないけど、蜘蛛たちの伝聞だからそこまではわかんないや」
会話の合間にどうしても沈黙が挟まるのは、最悪の結果を想像してしまうからだろう。
ここにいる三人も、そしてきっとリグも、恐らくポレットが厄災の魔女の生まれ変わりなんじゃないかと思ってしまっているのだ。
モッシュは乱暴に頭を掻くと、ため息交じりに口を開いた。
「どうにか誤魔化せないのか」
「血液を入れ替えるしかないねー」
「……無理ってことだな」
どれだけ考えても検査を受けないという道を選べない。
受けないという選択をしている時点で、後ろめたいことがあると言っているようなもの。
その上、傭兵である自分たちは国からの指示に従わないわけにはいかない。
逃げたとしても、すぐに捕まる。
お金を稼ぐ手段もなくなり、あっという間に詰みだ。
他国へ逃げるという手もあるにはあるが、魔女が消えた今、国境もそう簡単には超えられないだろう。
要するに、あとは運頼みしかないということだ。
「……あらゆる可能性を考えて、準備と心構えをしていきましょう」
「リグはショックを受けるだろうなぁ」
「リグもそうだが」
モッシュは一度そこで言葉を切ると、言い難そうに言葉を続けた。
「ポレットにも、説明しなきゃいけないな」
今回の魔女検査で人生が大きく変わるかもしれないのは、他でもないポレットだ。
もし検査で引っかかり、なんの事情も知らぬまま捕縛されてしまったら、ポレットは何もわからないまま辛い思いをするだろう。
心無い言葉を浴びせられるかもしれないし、あってはならないことだが体罰や実験に近い検査も考えられる。
かといって、あまりにも残酷な現状をありのまま伝えるのも戸惑われる。
余計に不安を与えることになるどころか、逃れられぬ運命に絶望させてしまうかもしれない。
せっかく子どもらしい姿を見せてくれるようになったのに、あっという間に地獄へ向かうことになるなんてあんまりだ。
しかもポレットには記憶がない。辛い思いをすることで連鎖的に過去のことを思い出すことだって十分にあり得た。
捕縛されれば、ポレットに明るい未来はないのだ。
「理解出来るかはともかく、ある程度伝えるべきでしょうね。魔女のことは遅かれ早かれ耳に入るでしょうし」
「そうだな。噂で知るより、きちんとした知識を教えておくべきだ」
「それとさ、もし捕縛された場合は、保護者として面会出来ないか交渉してみなきゃ。……絶対に断られるけど、ごねるだけごねよう」
「そこはテオドール頼みになりそうだな」
最悪の事態を想定し、大人たちは少しでもポレットの負担を減らせるよう明け方近くまで話し合いを続けた。




