22 緊張感のない審査
役所についたモッシュたちは、早速保護者登録の申請窓口へと向かった。
どことなく緊張感の漂う雰囲気に怯えた様子を見せたポレットに対し、モッシュは迷いながら声をかけた。
「ポレット、抱き上げていいか?」
「モッシュ、が?」
「ああ。嫌ならいいんだが」
ポレットが不安ならそれを解消してやりたいと考えたモッシュだが、あえてそれを告げることはしない。
嫌がるのを無理に抱き上げようともしなかった。
「モッシュみたいな筋肉マッチョが嫌なら僕が抱き上げてあげるよ、ポレットちゃん!」
「テオは、や」
「なんでっ! 僕は師匠なのに!」
テオドールへの拒否は即答だった。やはりポレットにとっては師匠といえどテオドールは警戒対象らしい。。
「男が不安ならあたしが抱き上げてもいいけど……あんまりよく知らない大人じゃ嫌かな」
続けて女傭兵も声をかけてくれたが、ちゃんとポレットの気持ちを汲んでくれている。
ポレットはほんの少し悩む素振りを見せた後、モッシュの服をつんと引っ張った。
「モッシュ、だっこ」
「いいのか? ありがとうな、ポレット」
モッシュは軽々とポレットの両脇に手を入れると、そのまま自身の腕に座らせるように抱き上げた。安定感は抜群だ。
「たかい」
「怖いか?」
「ううん。たのしい」
「それはよかった」
まだポレットへの扱いに遠慮がちなモッシュだったが、これからこの子の保護者になるのだ。
少しは信用してもらえているようだと安堵の息を吐いている。
抱き上げたまま窓口に行くと、最初は笑みを見せていた審査官もモッシュが傭兵だとわかると表情を曇らせる。
「傭兵がこんなに幼い子を? 本気か?」
「ああ。置いていくわけにはいかないからな。それに、無策でここに来たわけじゃない。ちゃんとこの子にはついて行ける能力もある」
「まさか」
傭兵が子を連れて行くことは珍しくない。実際、リグは問題なく登録が出来たのだから。
しかしここまで幼い子どもとなるとほとんど前例がなかった。実子を連れて行くのは仕方のないことだが、保護した幼い子どもとなるとそう簡単に許可が下りないのが現実だ。
当然、こんなにも幼い子どもについて行ける能力があると言われても信じられないのは当然だった。
「疑うのは構わないが、申請すれば審査はしてもらえるルールだ。幼いからって色眼鏡で見ずにちゃんと見極めてくれ」
「無論だ。ならばここで話していないでさっさと始めよう。まずは書類の記載を」
審査官からはどうせ無理だろうという本音が透けて見えたが、モッシュは気にせず書類を埋めていく。
記載内容は名前と年齢、出会った経緯などを書く欄がある。リグの時にも書いた書類なので、モッシュも慣れたものだ。
基本的に嘘偽りなく書くのがルールではあるが、ポレットの本当の年齢はわからない。その際は不明と書くべきなのだが、審査が少しでも通りやすくなるようにと事前に話し合い、ギリギリ見えなくもない六歳と書くことにした。
テオドールいわく、実年齢を調べる術なんてないんだから堂々としてれば問題ない、とのこと。
意味のない嘘を吐くことはないモッシュでも、ポレットを守るためならそのくらいの嘘は平気で吐けた。
六歳にしては体も細く、言葉も覚束ないポレットだが、拾われるまで劣悪な環境で育ったと記載してあればそれだけで察してくれるはずだ。
「ふむ、六歳でこんなにも……お前たちが保護したいという理由もわからなくはないな。だが審査は審査だ。手は抜かんぞ」
「ああ、よろしく頼む」
思った通りの反応を見せた審査官に対し、テオドールはモッシュにウインクしてみせる。調子に乗りやすい彼の反応に、モッシュはスッと目を逸らした。
書類の記載は問題ないとされ、次は子どもの健康診断へと移る。
場所を医務室まで移動し、医師の簡単な診察を行った。
医者を前に怖がる様子を一切見せなかったポレットは褒められ、その点についても物怖じしない子という評価を得たようだ。
それなりに警戒心を持った子ではあるのだが、人を見る目があるのだろう。
出会ったばかりの頃のポレットを思い出し、モッシュは感慨深げに微笑む。
医師からの診断書を待つ間、今度はポレットの能力を見せるために広場へ連れていかれた。
いよいよ緊張の瞬間だ。ポレットが言い聞かせた通りに出来るかどうかで決まるといっても過言ではないのだから。
「じゃ、ポレットちゃん。例のアレ、見せてあげて。僕からの攻撃は炎でいくよ」
「わかった」
「おい、待て。攻撃!?」
しかし、能天気なテオドールといつもの訓練の一環だと思っている様子のポレットは準備もそこそこに魔法を発動。
慌てる審査官を無視するのはいただけないが、ポレットは得意げに魔法を展開。
これこそがポレットの切り札。強固な結界がポレットを覆った。
「いっくよー」
「おい、テオドール、待っ……!」
そこまでは良かったのだが、続くテオドールの行動にその場にいた全員が慌てた。
もちろんモッシュは何をするかを知っているが、審査官や女傭兵への配慮のなさに焦っているのだ。
しかしそんなモッシュの静止の声を聞いているのかいないのか、テオドールは大きな火球を思い切りポレットに向かって放つ。
離れた位置でも十分に感じる熱気、ポレットの結界にぶつかり激しい轟音と煙が立ち昇った。
「おいっ、無事かっ!?」
火の勢いと煙が収まった頃、ようやく審査官と女傭兵がポレットに駆け寄った。
そこにはにこにこと満面の笑みを浮かべる可愛いポレットと、憎たらしく笑うテオドールが立っている。
「無傷……?」
「どう? すごいでしょ。僕の今の攻撃で大型魔獣なら一瞬で丸焦げになるはず。それさえ防げる結界さ」
「せいこう?」
「うん、大成功。さすがは僕の弟子だね、ポレットちゃん」
喜ぶポレットに、得意げに胸を張るテオドール。
それから額に手を当てて頭痛を耐えるモッシュ。
へなへなとその場に座り込んだ審査官と女傭兵はほぼ同時に叫んだ。
「「だとしても、やり方があるだろ!!」」
至極もっともな叫びに、モッシュは平謝りをすることしか出来なかった。




