23 情報誌がもたらすもの
審査官と女傭兵が立ち直ると、ようやくポレットが見せた能力のすごさを実感し始めた。
天才魔法使いが放つ高威力の攻撃魔法をポレットは無傷で防いで見せたのだ。
普通の魔法使いであってもなかなか出来ることではない。
「しかし、こんなにも幼い子が……」
目の前で見せられたというのに信じられない気持ちもわかる。それほどの衝撃だったのだから。
モッシュは最初、この作戦を聞いた時にそれではポレットが目立ってしまうのではないかと危惧した。しかしテオドールの話を聞いて考えを改めたのだ。
これしか特別な魔法は使えないということにすれば、才能ある幼い子どもでも使えておかしいことではない、と。
「依頼先ではどんな魔物や敵と遭遇するかわからないからね。僕たちだって守り切れないことがあるかもしれない。そんな時に、自分で身を守る術があれば問題ないと思って、こればっかりを叩きこんだんだ」
審査官を前に、今度はテオドールが説明を始めている。
半分以上は嘘だが事実も混ざっているため信じてもらえるだろう。
「もともと防御系の魔法に適性があったみたいでねー。そこに天才の僕が英才教育をね」
「元々の才能も高いのだろうな……そこにテオドール殿の教え、か。納得出来る話だ」
自信満々な説明を聞かされては疑う余地もない。審査官だけでなく女傭兵も信じたようだ。
魔法使いと詐欺師は紙一重だとモッシュは思った。
そんなことより気になるのは審査の結果だ。
モッシュにとって大事なのは、ポレットが問題なく傭兵である自分たちと一緒にいられるかどうかなのだから。
きっと宿舎で待つリグもやきもきしながら待っているのだろう。問題なかったという朗報を持ち帰りたいところだ。
「で、結果は?」
「ああ、実力については文句なしの合格だ。ただ先ほど届いた医師からの診断結果を見るに、健康面に不安が残る」
懸念していた部分を指摘され、モッシュの眉間にしわが寄る。
しかし審査官は軽く笑いながら言葉を続けた。
「ははっ、安心しろ。お前たちの移動はまだ先だろう? その頃までに体重を増やし、体力をつければ間違いなく審査は通るさ。今日のところは仮証明書を渡しておく。問題はあるか?」
仮証明書を出すということは、ほぼ審査は通ったといっても過言ではない。
審査官の目から見て、出立までに十分クリア出来るだろうと判断しているものの、立場上、現状では許可が出せない、というだけのもの。
今後、女傭兵のように疑問を持った者たちを黙らせるには十分な書類だった。
「感謝する」
「いいんだ。久しぶりに良いもの見せてもらったよ」
「あたしも驚いた。ポレットちゃんにこんな才能があったなんてね。将来も安心だ」
モッシュは審査官と握手を交わし、書類を受け取った。
女傭兵も納得したように苦笑している。
一方、当の本人であるポレットにはまだよくわからないようで、不安そうに首を傾げながらモッシュの服を引っ張っている。
モッシュはポレットを再び抱き上げると、彼女にもわかるように説明してやった。
「この町を出るまでに、体が大きくなったら一緒にいられるそうだ」
その言葉を聞いてポレットの顔が一瞬で輝く。
しかしすぐにきりっとした表情を作ると、ポレットは両拳を作った。
「いっぱい、たべる!」
その言葉にギクリとしたのはモッシュだけではなく、テオドールも一緒だ。
つい最近、ポレットの勘違いで振り回されたばかりなのだから。
「あー……だが、無理して詰め込むんじゃないぞ。今の調子で毎日食べ、寝て、運動していればおのずとついてくる」
「そうだよ、ポレットちゃん。この前みたいに聞いてこなくて大丈夫だからね? ちゃんとすこーしずつ大きくなってるから!」
「? ん、わかった!」
元気な返事はいいのだが、わかっているのかどうかまでは不明だ。
モッシュとテオドールの二人は、今後も質問攻撃がくるかもしれないという心構えはしておく必要があるかもしれない。
二人でポレットの頭を順番に撫でていると、審査官が少し緩和した態度で声をかけてくる。
「性格も素直で問題ないな。この年齢にしてはワガママも言わない良い子だ」
「良い子すぎて戸惑うこともあるけどねー」
「良い子すぎて? どういうことだ?」
「ああ、こっちの話」
ポレットの前で質問攻撃にあって大変だったとは言い難い。テオドールは珍しく空気を読んで誤魔化した。
「そうだ、大事なことを伝え忘れていた」
審査官は思い出したように手を打つと、懐から一枚の書類を出してみんなに見えるよう差し出した。
それは情報紙と呼ばれるもので、国の大事な知らせから魔物の目撃情報、世界情勢についてなどが書かれており、定期的に各町に配置された役場に配られる。
王都から離れたこの町のような辺境の地に届くのは少し遅く、この情報紙が刷られたのもすでに数日前だ。
紙に記載されるものであるため詳細はあまり書かれていないが、貴重な情報源でもある。
「ここを見てみろ。最近、王都のほうでは魔女検査が始まったそうだ」
「……魔女検査?」
「ああ。厄災の魔女が消えたって話、お前たちも耳に入っているだろう? なんでも、生まれ変わって人の世に紛れてるんじゃないかってことで、いずれ国民全員の検査が義務になるって話だ」
魔女と聞いて眉根を寄せたモッシュは、情報紙を手に取り詳細に目を通す。
そこには、厄災の魔女が残した痕跡を元に全国民に簡単な検査をしてもらう、といった旨の知らせが書いてあった。
書き方からしてその検査は有無を言わさず行われるものだということが伝わる。
「その検査ってどこでするの? 内容は?」
テオドールが奪い取るように情報紙に目を通しながら告げるも、審査官は首を横に振るばかり。
「さぁ、詳しいことは何も。辺境の地に正確な情報が回るのはまだまだ先だろう。ただ、幼い子どもは脅えるかもしれないと思ってな」
「そうだな。情報感謝する」
「構わない。また新しい情報が入ることもある。たまにここに寄るといい」
「わかった」
本音を言えばもっといろいろと聞いておきたいところだが、おそらく粘ったところで追加情報はないだろう。
モッシュとテオドールはもどかしい気持ちを抱えながら役所を後にした。
情報が来ないというのはつくづくもどかしい。
だが、急に実施されるような王都近くにいなくてある意味よかったとも言える。
「さらなる情報収集と対策が必要だね」
「ああ……そうだな」
一つ解決すればまた一つ、それも特大の壁が隔たってくる。
じわりと嫌な予感がモッシュの胸中を支配した。




