21 ポレットの切り札
小さくなってしまった服はテオドールの魔法で全て元通りとなったものの、さすがにリグはポレットを注意しなくてはならない。
せっかく買ってもらった服を着られなくするのは、服にも買ってくれた人にも失礼だということを丁寧に伝えると、ポレットはしょんぼりと俯いてしまった。
「わかった。……ポレット、わるいこ?」
「悪い子じゃないよ。間違いに気付いて反省したら、ちゃんと良い子だ」
「ごめん、なさい」
「うん、謝れて偉いな。これでポレットはとっても良い子だ!」
ポレットをひょいと抱き上げると、リグはそのまま高い高いをしてやる。
落ち込んだ顔を見せていたポレットも、じわじわ顔が緩み、きゃははと楽しそうな笑い声をあげた。
こうして普通の子どものように笑顔を見せてくれるようになったことが本当に嬉しい。
リグも自然と一緒になって笑った。
そんなリグとポレットを見ていたテオドールは大きくため息を吐くと、やけになったように声を上げた。
「よーし、決めた! ねぇ、ポレットちゃん。僕たち家族の前だけだったら、好きな魔法を使ってもいいってことにしよう。その代わり他の人の前ではダメだし、僕がいないところで使うのも危ないからダメ。もうこれ以上は譲れないよ!」
我慢ばかりでこっそり使われても困るという考えでそう決めたテオドールに、ポレットの表情もじわじわ明るくなっていく。
「わかった。やくそく、する!」
「絶対だからね? もし約束を破ったら……甘いおやつなしにするから!」
「っ、まもる! ぜったい!」
甘いおやつはポレットの大好物だ。特にカオンの作ったふわふわスフレはいくらでも食べられるほどに。
それが食べられなくなってはたまらない。ポレットの目は真剣そのものだった。
こうして、ポレットの魔法問題はようやく納得する形で決着がついた。
とはいえ、早く大きくなろうとやや無理をして頑張ったポレットはただ一生懸命だっただけ。これに関しては責められない。
いや、むしろ褒めるべきだろうとテオドールはご褒美を与えることにした。
「というわけで、ポレットちゃんには特別な魔法を教えてあげます。そしてこれは、人前で使ってもいい魔法でーす」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと! テオドールお兄さんは嘘吐きませーん!」
ポレットの顔がさらに輝く。リグとしてもポレットの喜ぶ顔は無限に見たいところだが、安請け合いをしているようにも見えて少々不安が残る。
「いいのか? そんな約束して」
「いいんだよ。これはね、傭兵組合にモッシュが保護者登録する時の切り札でもあるから」
「切り札……?」
ニヤッと笑みを見せるテオドールを見ていると不信感が募るものの、魔法に関して間違うことはない。
リグは複雑な胸中でその後の二人の魔法の練習を見学した。
◇
この町に来て約一か月が過ぎた。
ポレットの魔法の訓練も順調に進み、人に見せてはいけないという約束もきちんと守れている。
それから、ご褒美で教えてもらった魔法も完璧に習得済みだ。
傭兵宿舎では現在、三チームが共同生活をしている。
三チームめには女性の傭兵もいたこともあって、最初に会ったチームとは違いポレットの存在への理解は早かった。
むしろ世話を焼こうとする者も多く助かっているのが現状で、一同は平和な日々を過ごしている。
「あんたたち、まさかこんなに幼い子も一緒に見回りへ連れて行ってたのかい!? あたしはてっきり、どこかに預けてるもんかと……」
ある日、女性傭兵にポレットも連れて任務へ向かうところを見られてしまった。
特に隠していたわけではないが、あまり見つからないようにしていたのは、こういう時の説明が面倒だからだ。
ただ面倒なだけで説得は可能。カオンは当たり前のように告げた。
「ポレットは一緒にいても問題ない能力を持っていますからね」
「こんなに幼い女の子が? 体力もなさそうだし、仕事の邪魔になるのはもちろん、危険じゃないか」
「まぁ、傍から見ればそう思いますよね」
歯に衣着せない物言いだが、事実ではある。
こういうことがあった時、リグも傭兵として認められるまで持っていた証明書があると便利なのだが、ポレットはまだモッシュとの保護者登録が済んでいないため未所持だ。
忘れていたわけではないが、頃合いを見計らってずっとそのままにはなっていた。
モッシュは顎に手を当てて口を開く。
「そろそろポレットの審査を受けるべきかもな」
「保護者登録ですね。テオドール、ポレットは大丈夫そうですか?」
「能力的には無問題だよ! 少しだけ注意点を伝えておかなきゃ、だけどね」
もちろん注意点とは、ポレットがすごい魔法を使いすぎないように、という意味での注意だ。
能力が高すぎる幼女は注目が浴びやすく、その分ポレットの身が危うくなる。
厄災の魔女かもしれないという疑念を、ほんの少しでも抱かれるわけにはいかないのだ。
「注意点だけで審査が通りそうって判断なんだね? あんたたちの判断を疑うわけじゃないが……こんなに幼い女の子が?」
「そう思うのもわかるがな。気になるなら審査の様子を一緒に見てみるか?」
「いいのかい?」
「そっちに時間があるならな。説明するより見たほうが納得するだろ」
モッシュの誘いに乗った女傭兵がついてくることとなり、モッシュ、テオドール、そして女傭兵とポレットの四人で手続きに向かうこととなった。カオンとリグは留守番だ。
「リグは行かなくていいのですか?」
「行きたい気持ちはあるけど、あんまり人数がいても邪魔になるだけだし。それに俺は何度もポレットの切り札を見てるからな」
「切り札……そういえば私はまだ見てませんね」
「あれ、そうだったっけ?」
「ええ。話には何度も聞きましたが、驚いたものです。まぁ一緒に行動するわけですし、いずれ見る機会もあるでしょう」
マイペースなカオンらしいと思いつつ、早く見てほしいともリグは思う。
(あんまり目立っちゃだめではあるけど、あの女傭兵と審査員が驚く姿はちょっと見たかったかも)
それに、少しの間とはいえポレットと離れるのは出会ってから初めてのことだ。
もしかしたらポレットよりもリグのほうが寂しさを感じているかもしれなかった。




